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これまでの放送

No.3648
2015年5月11日(月)放送
アパート建築が止まらない 
~人口減少社会でなぜ~

住宅街に立ち並ぶアパート。
今、新たに建てられるアパートなどの数は年間30万戸以上。
3年連続で増加しています。
その多くを占めているのが、大家が建てた物件を業者が一括借り上げする「サブリース」という形式のアパートです。
業者から長期間家賃収入を保証すると持ちかけられ、建築する人が相次いでいるのです。

アパートの大家
「安心管理を強調されたので、大丈夫、大丈夫ということで。」

アパートの大家
「ここは空いていますね。
それから向こうも全部空いています。」

結果として供給の過剰につながり、空き部屋が急増。
当初想定していた家賃収入が得られずトラブルとなるケースも起きています。

アパートの大家
「ちょっと自分でも想定しなかったですから、心が折れると言いますか。」

さらに、空き部屋が急増した地域では町が空洞化。
治安の悪化も懸念され、自治体が対応に追われています。

自治体職員
「街づくりの弊害を招くようなものにつながりかねない。」

人口が減少する中で進むアパートの建築。
その実態に迫ります。

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田畑にアパートが 拡大するサブリース

群馬県高崎市中心部から徒歩30分。
もともと田畑が広がっていた地域に、今、サブリースのアパートが立ち並んでいます。



近所の住民
「別に駅に近いわけでもないし、何でこんなに増えたんだか。
すごいですよね。」


10年前にサブリースのアパートを建てた小出銀二郎さん、87歳です。




農業を営んできた小出さん夫妻。
高齢になって、2人で耕すには畑が広すぎると考えたといいます。

小出銀二郎さん(87)
「(体力的に)もう限界ですよ。
ここのところ余計そういうこと感じる、痛切に。」

作付けをやめると土地にかかる税金が大幅に上がるうえ、相続税についても頭を痛めていた小出さん。
大手不動産会社から、税金対策になると、ある資料を提示されました。
資料には、一般のアパートの家賃は年々下がる一方、この会社でサブリースのアパートを建てれば30年後も家賃収入は下がらないとする図が書かれていました。

小出銀二郎さん(87)
「うちはアパート作る気はないって言ってたんだけど、いくらか足しになるかと。」



妻 みよさん(83)
「経験していないうち、これ出されたら信じるよりほかない。」



小出さんは建築費1億円余りを会社に支払いました。
すべて借金で賄いました。

妻 みよさん(83)
「こっちは止まってる。」

ところが周りにもサブリースのアパートが次々と建てられ、入居者の数は徐々に減っていきました。
今では18部屋のうち、3分の1が空き部屋です。
今年(2015年)3月、小出さんは突然会社から家賃保証の金額を下げたいと告げられました。
金額が下がるという説明を受けた記憶はないという小出さん。
思いも寄らぬことでした。

なぜ、家賃収入は下げられてしまうのか。
小出さんの契約書です。
契約期間は確かに30年間と書かれています。



しかし、保証するとしていた家賃収入は、10年を経過したあとは2年ごとに改定するとなっていたのです。

妻 みよさん(83)
「下がることもあるんだっていうことを会社側から言われれば自分たちだって思わないこともないけど、満室にならなくても保証しますと言っているんだから保証すると思うじゃないですか。」

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サブリース 契約めぐるトラブル

サブリースを巡るトラブルを取材すると、ほとんどが家賃収入が減額されるリスクについて十分な説明を受けていないという訴えでした。
マンションや戸建てなどを売買する場合、法律によって重要事項説明が不動産会社に義務づけられています。
会社はさまざまなリスクについて口頭と書面で説明しなければなりません。
しかしサブリースの場合、一括借り上げという貸し借りの契約のため、この法律の対象外となり、売買のときのような厳格な説明は義務づけられていないのです。
営業ではどんな説明が行われているのか。
取材を進めると、中には家賃収入は下がらないと言い切るケースもありました。
勧誘を受けた人が録音した音声です。

“サブリース”会社の社員
「ぼくらの会社だって一部上場企業として全国でやっている以上、入居が入らないとか、建物が例えば古くなったから、そういう理由での家賃の変動というのも存在しません。」

勧誘された人
「アパート過剰供給になって入らないんじゃないかと私は思うので、えらい心配なんですよ。
よって家賃収入も減額されるんじゃないかって心配なんですよ。」

“サブリース”会社の社員
「私の話聞いてました?
家賃は約束通り入ります。
その辺の不動産屋と一緒にされては困るんです。」

家賃を減額され、サブリースの契約を解除せざるをえなくなった人もいます。
関東地方に住む男性です。
8,000万円を借金してサブリースのアパートを建築しました。

アパートの大家
「ここは空いていますね、ここも空いてます。
それから向こうも全部空いています。」

男性は契約書に家賃改定の可能性があると書かれていることは認識していましたが、安定した収入になるという営業担当者のことばを信用しました。
しかし、2度にわたって家賃を減額され、さらにローンの返済額を下回る金額を提示されたため、去年(2014年)やむなく解約しました。
残されたのは3,000万円近くの借金と、半数が空き部屋のアパートです。

アパートの大家
「ちょっと自分でも想定しなかったですから、心が折れると言いますか、どうしようもないですね。」



この男性とサブリースの契約をしていた会社に見解を聞きました。
会社側は、「賃料の増減変更が可能なことは説明し契約書にも定めている」と回答。
その上で「誤解を生じることがないよう丁寧な説明を心がけ改善に努めております」と答えています。

NHKが国民生活センターに情報公開請求したところ、サブリースを巡るトラブルの相談はこの4年間で少なくとも245件に上っていました。



国民生活センターは、サブリース問題について特集記事を作成。
家賃を減額することが可能なこの仕組みは、リスクを会社から家主に転嫁するものだという専門家の意見を掲載しています。
今回私たちは、サブリースを扱う4つの会社の社員や元社員から話を聞きました。
このうちの1人、現役の社員が匿名を条件にインタビューに応じ、需要が見込めそうにない所でもアパート建築を持ちかけたことがあると証言しました。

“サブリース”会社の営業担当
「建てた時点でまず利益が確定し、そこが業者が絶対もうかる鍵なので。
リスクを負っているのは会社でも銀行でもなく地主さんなので、将来的に空室が見込まれる、家賃の減額が見込まれるような場所に無理やりどんどん建ってしまっている。
私は常に危惧しています。」

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アパート建築が止まらない 人口減少社会でなぜ
ゲスト長嶋修さん(不動産コンサルタント)

●会社側は長期的な需要が見込めない中で長期保証し、なぜもうかる?

売る側、事業者側としては、建ててもらったとき、売ったときに、その売り上げ、利益っていうのは一定確保しているんですよね、このあとはサブリース契約になると。
このサブリース契約っていうのは、本来は、大家さんの利益を最大限に持っていくことを使命として、家賃保証はしてあげて、どれだけ入居とかあるいは家賃を高めるんだということをやるのが本来の仕事で、このサブリース自体は別によくも悪くもないというか、本来いい仕組みなんですね。
ただ、それを半ば乱用する形で、家賃がずーっと今の家賃で続くんだと思わせるような、あるいは大家さんが思ってしまったという状況の中で、今のこうしたトラブルが起こっているということだと思うんですよね。

●家賃の減額がありうることを十分説明していなかったために、トラブルが発生している?

これは、規制する法律が簡単に言うとないんですよね。
不動産などを売り買いすることについては、宅建業法というのがあって、ここは厳しくなってます。
もう1つ、賃貸管理ですね、サブリースを含む賃貸管理については、登録義務というのはあるんですけれども、これはあくまでも任意規定でしかなくて、かつ罰則もないんですよね。
(業者に対する?)
そうなんです。
もう1つ問題なのは、その大家さんというのはアパート経営をしている「事業者」という扱いになりますので、消費者庁が管轄する意味での「消費者」という認定でもないということで、その周囲を取り巻く法律のあたかもエアポケットにはまったような、そういう状況の中で、今こういうことが起きているということですね。

●重要事項説明の義務づけがないままアパート経営に乗り出し減額に直面するケース こういう場合はどうすれば?

サブリースを含むこの賃貸管理業、今は任意登録で罰則規定もありませんけども、この登録はもう義務化をすると。
ここに登録されている事業者というのはこれだけの説明をすることが必要で、これを怠ったらこれだけの罰則が必要だと、そういったそのゲームのルールをもう少し基準を上げて義務化してということが今、必要なんだと思うんです。
(国交省で議論進んでいる?)
今のところはそういう話は恐らく出ていないんだと思うんですけど、今日、こういった番組を通じて、社会的な1つの問題意識として醸成されていけばいいなというふうに思ってます。

●賃貸物件の5戸に1戸が空き部屋の状況 賃貸価格の今の水準は?

簡単にいいますと、日本全体の不動産価格、賃料というのは、今後20年、30年かけて、だんだんだんだん落ちていくんですね。
これはもうしかたがないです。
需要が減っていくんですから、人口世帯数が減っていくわけですからね。
そうすると、一部の地域、都心、超一等立地、あるいは地方であってもここだけというふうに人が密集する形で、こういったところは賃料、不動産価格が維持されて、それ以外の所はなだらかに下がっていくというのがこれからの大きなトレンドです。

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急増する空き部屋 翻弄される地域

埼玉県北部、人口5万の羽生市です。
国の規制緩和を受けて、市では人口の減少を食い止めようと、平成15年、住宅の建築を促す施策を打ち出しました。
市の都市計画ではもともと新しく住宅を建てられるのは市の中心部だけ。
その他の地域では原則新規建築ができませんでした。
そこで規制を緩和し、市のほぼ全域で住宅を建築できるようにしたのです。

羽生市開発建築課 佐藤将史係長
「若い世代の人たちが入ってくる。
その結果、地域の活力につながればというのがもともとの狙い。」


規制緩和の目的は、定住につながる戸建て住宅の建築を促すことでした。
ところが建築されたのは150棟のアパート。
その9割以上がサブリースでした。
市の思惑は大きく外れたのです。

空き部屋率は倍増し、35.8%に達しました。
羽生市は、サブリースのアパートが需要を超えて建設されたことが、町の空洞化につながったと見ています。
サブリース以外のアパートでも空き部屋が急増し、家賃相場が下落。
部屋が悪用される事態も起きています。

羽生市内にあるこのアパート。
3年前、警察がこの部屋を捜索したところ大量の乾燥大麻が見つかりました。



押収された大麻は末端の密売価格にしておよそ3億1,000万円分。
アパートの一室が大麻の保管場所になっていたと見られています。

近所の住民
「怖いなと思いました。
羽生市に限ってそんなことはないだろうと思っていたんですけど。」

近所の住民
「人口5万人ちょこっとくらいのところにね、アパートが多すぎる。
やがて空きアパートになって、スラムがあちこちにできる気がする。」

さらに羽生市は、財政にも悪影響を及ぼすのではないかと懸念しています。
アパートの建築に伴い造られた道路や下水施設などの維持管理費は、自治体の負担となるからです。

羽生市開発建築課 佐藤将史係長
「想定外の道路の維持管理費というのが少しずつ増えて積み重なっていくという形になりますので、そこについては計画外のコスト増になってしまう。
街づくりの弊害を招くようなものにつながりかねないという危機感がある。」

結局、羽生市は方針を見直すことを決めました。
ことし7月から、アパートを建築できる範囲を再び市の中心部だけに戻すことにしています。

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空き部屋急増 将来は

空き部屋の問題は今後どこまで深刻になっていくのか。
住宅の動向を研究している専門家に分析を依頼しました。
それによると、今のペースのまま賃貸住宅の建築が続けば、2030年以降全国の空き部屋率は40%を超えるといいます。
そして空き部屋率をこれ以上上げないためには、賃貸住宅の今後の着工数を現在の3分の1に減らさなければならないという結果になりました。

野村総研 榊原渉さん
「無尽蔵に住宅地をどんどん新しく開発していくということも、これからは考え方を改めなければいけないかもしれない。
日本の住宅供給の仕組みを変えていかないといけないのではないか。」

羽生市でサブリースのアパートを建築している会社の1つは、取材に対して「空き部屋が増えているのはサブリースとは関係ないと考えている、当社は周辺の需要などをもとにアパートの供給計画を策定している」としています。

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急増する空き部屋 暮らしへの影響は

●羽生市が規制緩和したところ空き部屋率は35.8%に このケースをどう見る?

1つの町の中で、たくさんの、もし雇用が生まれて、それに基づく人口の動態予測があってと、それでアパートが増えるということだったらこれはいいんですけども、まずその計画があって、そのあとにアパートを建ててしまって、人が入ってくださいっていっても、それはなかなかやっぱり無理なんですよね。
なので、もう少し市区町村の各地域の保守的な人口動態予測、あるいはその世帯が今後どうなっていくのかっていう全体計画を練り上げたうえで、そのうえで地域の計画、どの場所にどのくらいの住宅をいつごろ、いつ、どのように建てるのかという、こういった計画が本来は必要なんですね。

●このまま新築の賃貸物件を作り続けると空き部屋率が高まるおそれ この問題の根本的な原因は?

これはもう平たく言いますと、住宅の量の管理を、国も含めて誰もやってないということです。
世帯数が今このぐらいあると、住宅数が今このぐらいあります、5年後、10年後にはどういうふうになりそうですねという予測はもう容易につくんですね。
なので、この状況を踏まえて、今後5年間、あるいは10年間に、どのくらいの住宅を取り壊し、どのくらいの新築をどこの場所に作ろうかといった全体の計画、住宅の量の管理ですね、これをやるべきで、これをやってないのは普通の国というか、先進国ではもう日本だけですから、この住宅量の管理というのは今すぐにでもやるべきだと思います。
もう1つは、新築を作る場所がやっぱり大事で、どこにでもやっぱり作っていいわけじゃないんですよね。
これから上下水道のインフラの整備、管理するのに大変です。
あるいはごみの収集サービスとか、北国に行けば除雪とか、こういったことも効率よくしなくちゃいけないと。
そうすると、これから人口減少していく中でどこに集まって住むんだと、いわゆるコンパクトシティーという政策なんですけれども、だだっ広く住んでいるわけに私たちいきませんから、ここに集まって住むということを、みんなで各地域で話し合って決めていくということが、どうしても必要になると思います。
(アパート建設を考えている人も慎重になったほうがいい?)
契約の条文は、面倒でも一つ一つよく読んでいただきたいです。

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