一例として下のグラフをご覧ください。
黒線は大阪市の人口の年齢構成、ピンクの線は昨年3月の大阪市長の出直し選挙で実際に投票した方の年齢構成を示しています。(大阪市ホームページの統計資料より作成)
これによると大阪市には40台以下の方々が比較的多く居住しておられることが分かります。ですので、ごく普通に考えれば20代~40台の若い世代を念頭に選挙活動をしていれば一番効率がいいことになります。
ところが実際の投票行動ではまったく違った傾向が見えてきます。つまり、人口が比較的多い年齢層は実際には投票場へ足を運んでくれないのに対して、人口が比較的少ない年齢層(60代、70代)の投票率は異様に高く、これらの層の方々の決断が投票結果にきわめて大きな影響を及ぼしているということです。もちろんこうした傾向はどんな選挙でも日本全国ほぼ同じで、特に珍しいことではありません。選挙演説になると必ずと言っていいほど「おじいちゃん、おばあちゃん」という言葉を連呼する候補者が多いですが、あれは高年齢層が当落のカギを握っていることを知っているからだと思います。
問題はこれが大阪市長の出直し選挙の結果だということです。このときは維新以外の大きな党からは候補が出なかったこともあり投票率はなんとたったの24%、大阪市の有権者210万人中50万人しか投票しませんでした。自民・公明・共産などの支持者の大半は投票せず棄権したものと思われます。また、50万票のうち8割近い票(38万票)は橋下徹氏が獲得しています。これは何を意味しているかというと、この選挙で投票した人というのは、偶然にもほとんど維新の党支持者のみだった、ということです。つまり維新の実質動員数(=支持者数)は38万人といっても当たらずとも遠からず――ということになります。
もちろん橋下氏が勝つに決まっている選挙でしたので政治心理学でいう「離脱効果」が働き、かなり得票数を減らしている可能性はあります。それを勘定に入れると、大阪市内における維新の潜在的な支持者数はおおよそ50万人、すなわち有権者の4分の1と考えておけば、まぁまぁ保守的な数字ではないでしょうか。ちなみに上のグラフは、大阪市民というよりは維新支持者の投票傾向を(偶然にも)示していると考えることができます。
◆予想される維新の今後の戦略
38万人は支持者というより信者に近い方々ではないかと思います。なぜなら橋下氏の対立候補は組織票をまったく持たず(失礼ながら)泡沫的な存在だったにもかかわらず、あえて投票所に足を運び橋下氏にトドメの一票を入れようという方々ですから、ある意味浮ついたところがない60代、70代を中心とした絶対支持層だと想像できるからです(グラフからも分かりますね)。
橋下氏のことを「徹ちゃん」と囃し立て有形無形の支援をいとわないコア層――まさに思考停止したまま妙な新興宗教にはまっている高齢の信者たちとイメージが重なる部分がありますが、今回の5月17日の投票でも彼らは必ず賛成票を入れるでしょう。橋下市長にとっては有難い話だと思います。
ただし、こうしたコア層の投票率を今以上に上げることは難しいかもしれません。コアが硬ければ硬いほどさらに硬度を上げるのは普通は困難だからです。賛成票を増やす余地があるとすれば20代、30代の若い世代ですが、こちらはインターネットを日常的によく見ている世代であり、事実関係は割と正しくつかんでいる人も多いと思われますので、ちょっと扱いにくい層です。維新の党のプロパガンダはネット上でその欺瞞性がかなり宣伝されていますから、事実関係に深入りすれば逆にどんどん得票が減っていく可能性が高いです。そこをなんとか投票所へ足を運んでもらうためには、彼らにとってトクになるサービスやプロジェクトをブチ上げる必要があるでしょう。
「大阪都構想が可決すれば、20~35歳の特別区民に対して年間1~2万円の生活補助、転職や結婚祝い金など、将来を担う若者を全面支援します!」
などと突然言い出すかもしれませんね。支出が少し増えた分は大阪府から特別区への分配を何気なく減らせばいいだけですから維新としては笑いが止まらないでしょう。バカバカしいですが票は増えると思います。
あと考えられるのは、旗幟が曖昧な公明党と取引をして組織票をもらうことです。こちらのほうが現実味があるかもしれません。国政の動きとからめればたぶん可能ではないでしょうか。公明党の組織力は衰えているとはいえ、巨大政党の自民党ですらアテにしているくらいですから、この取引がもし成立してしまえば、おそらく維新の党は一気に劣勢を挽回し今回の投票は勝つことができるはずです。もちろんその場合は公明党は未来永劫、大阪市民から敵視され憎まれる存在になりますので、同党としても相当の覚悟が要ると思います。いずれにせよ、タレントの久本雅美さんとかがいつの間にか応援演説をするようになったら、大阪市が解体される可能性が一段と高まったことのサインだと思って間違いないでしょう。
とにもかくにも橋下市長にとっては今後の政治生命がかかっていますので、何がなんでも勝とうとしてくるでしょう(まさか「地方自治はやめるといったが国政はやめるとはいったことがない」などというみっともない言い訳はしないでしょう)。昔、仲の良かったタレント(まさかの島田紳助さん?)とかも総動員してくるかもしれません。事実関係を争うことはまず勝ち目がないので、得意のレッテル貼りでイメージ的に一本取ってあとはサラッと流すはずです。そして「維新の側が劣勢である」とやたらめったら宣伝するでしょう。百回でも千回でもいうでしょう。こんな人たちから大阪市の自治を守るのは容易ではありません。
◆反対派の今後の戦略
一言に尽きますが、今のままで変える必要はないと思います。インターネットは若者~50代くらいの層にとって相当の情報提供のツールになっているはずですし、新聞の世論調査によれば全体的な事実関係の理解が前よりもかなり進んでいるようです。もちろんイメージも大事ですので、事実と反しない範囲で有権者の心に残る言葉は必要でしょう。ただしそれは政治家がやってくれるはずです。
また、藤井先生らが5月9日、10日に行った学者説明会は私も動画で拝見しましたが、藤井先生だけでなく森先生、河田先生、冨田先生、薬師院先生等々の明快な説明は示唆に富んでおり非常にためになりました。できるだけ多くの大阪市民の方々が忙しい時間を割いてこれを見て欲しいと思いましたが、如何せん、大手マスコミの紹介記事が11日現在ほとんどないことが残念でなりません。特に今回のような投票の場合、「事実関係」を広めることがマスコミの義務ともいえるわけですから、もし大阪市解体が決まってしまったらこうしたマスコミの間違った姿勢は大阪市民全員だけでなく投票を見守る国民から長く糾弾され続けるでしょう。誤魔化せると思っているかもしれませんが、みんなちゃんと見ています。
◆最後に
5月11日の朝日新聞朝刊に出ていた「大阪市民世論調査」の結果で、ちょっと信じがたい数字が出ていたことを紹介します。
「大阪都構想をめぐる賛成派と反対派のこれまでの意見を聞いて、大阪都構想についての理解がどの程度、深まりましたか」
という質問に対して、「大いに&ある程度、深まった」という人が47%でした。
大阪都構想というのは、2010年に大阪維新の会が大々的に打ち出してからもう5年以上も経っています。それなのに理解が深まった人は半分にも満たないのですから、これは驚き以外何物でもありません。それどころか協定書の中身が本当に知られるようになったのは藤井氏が「7つの事実」を公開しサイトでいろんなことを説明し始めてからですから、いってみればついこの間のことです。それまでの5年間、維新という政党は一体なにをしてきたのでしょう。不思議としかいいようがありません。
同党がやってきたことは、グラフの目盛を途中から伸ばしてあざとい捏造をしたり、二重行政解消で4千億円も浮くなどというデタラメを吹聴するなど有権者を騙し続けてきただけではないのでしょうか。そして一度廃案にされた都構想を非民主的な手法で住民投票にまで持ち込み、事ここに及んでもいまだに本当の事実を真摯に説明することなく、高齢者をターゲットにしたプロパガンダを続けているとしかいいようがありません。
最後に一言、投票を1週間後に控え、ちゃんと理解できている人が有権者の半分にも満たないというのが新聞の調査結果ですが、こんなお寒い状態でホントに「多数決」なんかで物事を決めてもいいのでしょうか? 学級委員会じゃないのですから、もし1票差で政令大阪市が廃止されることになったら、真っ二つに分かれた大阪市域の人々は一体どうなってしまうのか、ぞっとするくらい心配になります。
21世紀の時代、先進国のはずの日本で赤っ恥の住民投票が行われようとしていることに眉をしかめつつも、(個人的な友人も多い)大阪市の人達が今後イバラの道を歩むことのないよう、心からお祈りしています。(黒猫翁)