2013年秋から冬にかけてロンドンの大英博物館で開かれた史上最大規模の春画展「春画−日本美術の性とたのしみ」は、日本国内に波紋−ある疑問を投げかけた。それは大英春画展の日本巡回が頓挫したことでより大きくなり、いまなお宙に浮いたままになっている。「なぜ、日本で春画展を開けないのか」−。
「これは、自国の文化・歴史を現在のわれわれがどう受け止め、捉えるべきかという重要な問題につながる疑問」と指摘するのは、大英博物館プロジェクトキュレイターとして春画展準備に携わった、国際日本文化研究センター特任助教の石上阿希さん(35)だ。日本で初めて春画研究で博士号を取得した石上さんは、博士論文をベースに『日本の春画・艶本(えほん)研究』(平凡社)を上梓したばかり。「単に、春画の性的表現の特異性を見せるのではなく、春画がどのような社会や文化の中で存在していたのかを示すことができてこそ、春画展の意味がある」という。
石上さんによると、海外では既に1989年にベルギーで春画展が行われており、2000年代に入って欧米各地で相次ぎ実現。満を持して開かれた大英博物館の春画展は、同館と海外から集めた計約300点(165件)で構成。古事記や神話などを背景に男女和合を寿ぐ日本の伝統や、春画が西洋美術に与えた影響など、「春画とは何か」を多角的に紹介し、3カ月で予想を上回る約8万7900人を集めた。うち55%が女性だったという。
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