スマートフォン向けリアル陣取りゲーム「Ingress(イングレス)」の利用者が拡大中。自治体の観光利用、統一地方選の候補者が防犯施策として取り上げるなど、開発するGoogleの社内企業ナイアンティック・ラボさえも予想しなかったであろう分野でも盛り上がっています。
そんな中、青山学院大学の地球社会共生学部が秋からIngressを使った授業を予定していることが分かりました。授業を担当する古橋大地(たいち)教授の狙いはどこにあるのでしょうか。話を聞きました。
留学生の参加視野、授業は「英語で」
「新入生にIngressについて聞いたところ、知っていたのは数名でした」
自身もIngressに夢中の古橋教授は苦笑い。しかし初心者をターゲットとして考えている授業「Topics in Japanese Geography 1」にとっては好都合でもあります。
海外からの留学生が参加することを視野に、秋スタートを予定。90分の授業のうち、30分で説明を行い、残り60分を相模原キャンパス(神奈川県相模原市)周辺のポータル(拠点)をグループでめぐってコントロールフィールド(CF、陣地)で絵を描くなどの実習にあてます。
「時間までに終わらなかったら宿題ですね」。ポータルは、ウェスレー・チャペルなどキャンパス内にも作られる予定です。
もちろん遊ぶことが目的ではありません。同学部は青学大のバックボーンであるキリスト教の教えが反映されており、社会奉仕ができるグローバル人材の育成に力を入れています。そのためIngress授業で使われる言葉は基本的に英語。手探りの状態から自分の考えをグループの仲間に正確に伝え、協力して目的を達成するというのは、世界中で活動できる人材を育てるトレーニングというわけです。Ingressを活用した新しいコミュニケーションの提案や、地域でのイベント開催などを成績の基準とし、単位を与えます。
古橋教授は「ブエノスアイレスでIngressをしていたら現地のエージェント(プレイヤー)とすぐに仲良くなれました」と自らの体験を話し、人を結びつけるツールとしてのIngressがコミュニケーション力を育てると期待しています。
Google社員は不参加「負の面も扱う」
この授業に許可を出したのはGoogleなのですが、Google社員の参加は控えてもらう方針です。中立性を重んじる大学の授業に企業の意向が強く出てしまうのを避け、学生たちが自由に議論できるようにするためです。
代わりにIngressを試用版の頃からプレイしている大手コミュニティーの中心メンバーが教員として参加し、過去にあったユーザー間のトラブル事例を紹介します。古橋教授は、3月に京都で行われた世界規模のイベント「Shonin(証人)」でGoogleが公園などに出した肖像権に関する内容の張り紙が反発を呼んだ件も取り上げ「負の部分も授業できちんと教え、解決策を生徒に考えさせます」と語りました。
また一般のIngressプレイヤーが実費で参加できる、日本語の公開授業も予定しています。
災害時の地図ボランティア育成も
もうひとつの狙いは、授業を通し「5年かけて地図ボランティアを1000人集めること」。企業の社長でもある古橋教授は、ブラジルの密林を観測したデータを利用して違法伐採から守るなど、地図情報を社会に生かすプロジェクトを手がけています。
ハイチ地震(2010年)、東日本大震災(2011年)、伊豆大島の台風(2013年)などで編集可能なオンライン地図を使ったボランティアを経験。マップに詳しく書かれていない地域で災害が起きたときに、被災者やボランティアを地図情報でサポートすることが必要だと実感しました。
「ある道路が通行止めになったという情報が入ってきても現地のボランティアに伝わらないことがあります。どこで何が起きているかを、災害情報と地図情報をセットで正確に届けることが重要なのです」
人間と社会、位置情報の結びつきを学ぶIngress授業は、災害から命を守るのを手伝う人材も育ててくれるかもしれません。