ファストフード店従業員の賃上げを求める「ファストフード世界同時アクション」が15日に行われたそうです。
「時給1500円」に対しては否定的な見解も多いようです。
クルーグマンたちの見解はこれと正反対なので、比較してみます。
"There’s no excuse for wage fatalism," writes @NYTimeskrugman. "We can give American workers a raise if we want to." http://t.co/Cm3yLtaKXm
— NYT Opinion (@nytopinion) 2015, 4月 5
まずは雇用が減る。[…]今までは人の手でやっていたことが、高コストになるのなら機械に置き換えよう、という事になる。
クルーグマンはアメリカでの実証研究から、最低賃金引き上げによる雇用減少効果はほとんどないと指摘しています。
… higher minimum wages leading to fewer jobs — is weak to nonexistent. Raising the minimum wage makes jobs better; it doesn’t seem to make them scarcer.[NYT]
外食サービスはオートメーション化が最も困難との指摘もあります。
Food service might be one of the areas that is most difficult to replace workers with automation. That’s likely why almost half of minimum-wage workers are in that field.[WSJ]
次は「賃上げ→国際競争力喪失」との主張ですが、
時給1500円で国内産業は空洞化する。
次に起こることは国内産業の衰退だ。
国際貿易が専門のクルーグマンは、影響が過大評価されていると指摘しています。ファストフード店は国際競争とは無縁の国内サービスです。
…, global competition is overrated as a factor in labor markets; yes, manufacturing faces a lot more competition than it did in the past, but the great majority of American workers are employed in service industries that aren’t exposed to international trade. [NYT]
「国内サービス業の賃上げ→製造業のコスト上昇」の因果もあり得ますが、
- 円建てコスト上昇は円安で相殺可能
- 現在の実質実効為替レートは歴史的低水準(途上国から見ても割安な水準)
であるため、現時点では心配しなくてもよいでしょう。
クルーグマンは、労働市場は複雑であり、商品市場のように単純な「需要と供給」で捉えるべきではないと指摘しています。
Even more important is the fact that the market for labor isn’t like the markets for soybeans or pork bellies. Workers are people; relations between employers and employees are more complicated than simple supply and demand.[NYT]
賃上げには購買力増・消費増の効果があることも重要です。
If workers in that sector receive higher pay, they should help drive stronger consumer spending.[WSJ]
ピケティは公務員の賃上げによるリフレーションを推奨していましたが、ファストフード店員の賃上げも(広義の)リフレ政策の一環と捉えることも可能です。
円やユーロをどんどん刷って、不動産や株の値をつり上げてバブルをつくる。それはよい方向とは思えません。特定のグループを大もうけさせることにはなっても、それが必ずしもよいグループではないからです。インフレ率を上昇させる唯一のやり方は、給料とくに公務員の給料を5%上げることでしょう。*1
2月3日の読売新聞でも次のように語っていました。
安倍政権の経済政策「アベノミクス」は、格差を拡大する一方で、経済は低成長になるという最悪の事態に陥るリスクがある。金融緩和は資産のバブルを生むだけだ。取り組むべきは賃上げの強化だ。
クルーグマンの結論は
We can give American workers a raise if we want to.
ですが、これを裏返すと、賃上げ否定派の本音は「低賃金のままにしておきたい(→貧困層を減らしたくない)」ということになります。
単純な「需要と供給」から論じるフィナンシャルプランナーと、経済全体の観点から論じる著名な経済学者のどちらの見解が正しいでしょうか。
*1:強調は引用者、以下同。