ドルトムントとクロップ監督の紡いだ偉大な”おとぎ話”はまだ終わってはいない
「素晴らしい成功に満ち溢れた7年間の旅路を、今シーズン限りで終わらせることに双方が合意した」とワッケ社長は切りだし、そして涙を流した。ワッケ社長、ツォルクSD、そしてクロップ監督、彼ら「三兄弟」の素晴らしい関係が終わりを迎えた瞬間だった。そして誰もが予想しなかったクロップ監督の辞任、衝撃的で簡単には受け入れることができない幕切れでもあった。
現代フットボール界のおとぎ話
在籍した7年間でクロップ監督は数々の業績を打ち立てた。ブンデスリーガ二連覇、DFBポカール優勝、チャンピオンズリーグ決勝進出。ちょうど10年前に財政破綻に陥り消滅寸前のドルトムントは、クロップ監督との出会いで再び欧州への舞台に返り咲き、そして彼が育てた選手たちも”現代フットボール界のおとぎ話”を駆け上がっていく。ヴァイデンフェラー、フンメルス、ドゥルム、グロスクロイツはW杯優勝メンバーとなった。若く野心のある選手に自信と信頼を与え、時に兄貴分・父親のような振る舞いで選手たちを鼓舞し続けた。
この7年間、ドルトムントが常にエモーショナルで、目も覚めるようなフットボールでブンデスリーガ、欧州の舞台を席巻することができたのは、まぎれもなくクロップ監督の偉大な功績である。11/12シーズン、優勝がかかったグラッドバッハ戦での香川のゴール後のクロップの抱擁は今でも語り草になっている。タッチライン上での激情、マラガ戦の大逆転劇、4点を奪ったマドリー戦、失意のCL決勝、誤審で敗れた昨シーズンのポカール決勝。常に感情をむき出しにし、闘志をチームに植え付け、そして溢れるばかりの大きな笑顔は今でも目に焼き付いている。
クロップ監督にとって不運なことは、偉大なチームを作れば作るほど、毎年鍵になる選手を手放していった。ヌリ・シャヒン(後に復帰)、香川真司(後に復帰)、マリオ・ゲッツェ、ロベルト・レバンドフスキ。チーム作りにおいて核になる選手を毎回手放し、そして今シーズン、レバンドフスキの移籍で今までごまかし続けたドルトムントの弱点が露呈、チームは浮上することなく中位をさまよっている。おとぎ話の終焉が一歩一歩近づいていた中での辞任。そのおとぎ話に自ら幕を引いたのもユルゲン・クロップ監督自身だった。
クロップ抜きのドルトムント
ドルトムントにとってクロップ監督は監督以上の存在であり、サポーター、ファンからは絶大な支持を受けているが、今季は彼の築きあげたサイクルの終焉というものを感じずにはいられなかった。クロップ監督の指揮や戦術、試合での采配においても疑問が残る場面も多々あり、来季は新しい風をクラブに吹き込まなくてはならないと誰もが感じていたが、プロジェクトの中心にいるクロップ監督の退任は望んではいなかった。来季はチームに新しい風が吹くだろうが、我々の愛したクロップ監督はそこにはもういないし、クロップ監督いないドルトムントを想像できるだろうか。それでも歩みを止めてはならない。
「この並外れたクラブにとって自分は完璧な監督なのかという自問に、はっきりイエスと答えられなかった」と自信の欠如を認め潔く身を引いたのだ。「決して、自分とチームの間に軋轢があるわけでも、今までにあったわけでもない」と述べたがそれはまさしく真実だ
ろう。ほとんど軋轢というものを聴いたことがない。
「我々はここ数年、決断を下すタイミングが遅すぎたことが何度かあった。同じ過ちを繰り返してはならない」とクロップ監督は自らの後任選びの時間に余裕を与えたかったと説明。おそらく後任は報道通り元マインツのトーマス・トゥヘル監督になるだろう。彼はクロップ監督と似たタイプの監督であるし、優れた手腕を持っている。大きなクラブの指揮が果たしてできるのかという疑問はあるが、彼以外の人選は想像し難い。チームのスカッドも少し整理しなくてはならないし課題は山積みである。首脳陣がクロップ監督に時間を与えたように、後任の監督にも時間を与えるのは間違いない。
“おとぎ話”の最終章
クロップ監督は自らこのおとぎ話の幕を引くことを決断したが、この物語はまだ最後のページが紡がれていないのは明らかだ。ドルトムントに残された最後のタイトルチャンスであるDFBポカールの準決勝を月末に控えている。すでに引退を表明している元キャプテン、セバスティアン・ケールが準決勝への扉を開くスーパーゴールでタイトルへの希望を繋ぎ、そして近年覇権を争ってきたバイエルンと雌雄を決する。
ここを突破できれば約束の地ベルリンにたどり着くことができるが、今シーズン最大にして最も困難なミッションである。「シーズン終了後にまたボルジグプラッツでパレードをする理由が必要だ。今シーズンを最高な形で締めくくりたい」とクロップ監督はタイトルを置き土産にして、ケールと共にドルトムントを去るつもりだ。
「今度は、彼にふさわしい花道を飾ってあげる番だ!」とキャプテンのフンメルスは自身のSNSに語りかける。おそらくチームの全ての選手が、クロップ監督に対して同じ気持ちを抱いているだろうし、モチベーションは最大限に上昇したはずだ。選手たちはこの状況から再び立ち上がり奮起せよ!
この7年間にわたって描かれてきた現代フットボールにおける偉大な「おとぎ話」はまだ終わっていない。そしてその最終章を絶対にハッピーエンドで終わらせなくてはならない。
そして最後のページはもう決まっている。カップをベルリンの空に掲げるクロップ監督の、弾けるばかりのまばゆい笑顔だ。
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