中国によるアジアインフラ投資銀行(AIIB)創設に対する米政府の対応は嘆かわしいというしかない。欧州諸国に不参加を働きかけることでAIIB構想を妨害する米国の試みは裏目に出た。英国は(新銀行の)内側からAIIBに影響を与えた方がよいという適切な決定を下した。ドイツから韓国まで他国も英国に追随した。
中国政府の反応は少しの驚きと幸福感だった。AIIBはひとつの銀行にとどまらない存在だ。1945年以降、ブレトンウッズ体制に基づいた組織が作り出した世界経済システムの将来がかかっている。こうした組織では中国を含む新興国はかなり過小評価されている。米欧の支配がはるかに少なくなった世界では、戦後の金融秩序はもはや目的を果たしていない。
米政府がAIIBで不意をつかれたとしてもまだ挽回のチャンスはある。12カ国による「次世代」の貿易協定である環太平洋経済連携協定(TPP)を成立させることは格好のスタートとなる。これにより米国がアジアに関与し続ける姿勢と、国家入札から知的財産権保護の分野にいたるまで高い基準の要求受け入れに署名しようという国々に対して、よりよい市場アクセスを進んで与える姿勢があることを示せるだろう。TPPは完全ではない。あらゆる分野において、高度な貿易合意というよりも、まるで米産業界への「勅許」のようにも見える。それでも何もないよりはましだ。
警告がひとつある。責務を満たせるなら中国のTPP加盟を歓迎することを同国政府に明確に示さなければならない。仮にTPPが「中国以外ならどの国も参加できるクラブ」という印象を与えるのであれば、米中の緊張関係を強めることになる。中国が加盟すれば、米政府が受け入れ可能な条件で中国を国際システムにさらに取り込むことになる。こうした理由から米議会はTPP成立に必要な一括交渉権限をオバマ大統領に与えるべきだ。
■IMF改革に向けた法案を可決すべき
米国ができることはほかにもある。第一に、議会は長期間停滞している国際通貨基金(IMF)の改革に向けた法案を可決すべきだ。これにより中国とほかの新興国の発言力が増すだろう。既存機関を改革できないことが、中国がAIIBやBRICS開発銀行などの組織を設立せざるを得ないと感じる理由のひとつになっている。第二に、IMFは人民元を国際準備資産であるSDR(特別引き出し権)の4通貨バスケットに加えることに同意すべきだ。厳密に言えば、中国の通貨は完全兌換(だかん)ではないという理由で排除することも可能だ。しかし、SDRから締め出し続けることは中国政府に新たに不要な平手打ちをくわせるようなものだ。
米政府がすべての責任を負うわけではない。中国も既存の秩序を覆すのではなく補完を望むということを示し、懐疑派の疑念を払わなくてはならない。まずはAIIBの良好なガバナンスの確保から始めるといい。融資決定と官僚主義が過剰に結びついているとの批判にさらされているブレトンウッズ体制下の組織をまねすることではない。新銀行が、環境や汚職、人権面での懸念について他国の意見を無視する容赦ない国の道具ではないことを懐疑派に確信させなければならない。中国政府は、既存機関の長所を持ちながら迅速で先を見越した融資が可能なガバナンスの仕組みをつくりあげるべきだ。そのことで、本当の意味で加盟国を統括できるはずだ。
アジアにはインフラに対する巨額の資金調達ニーズがある。もし透明性のある方法でそういうニーズを満たし始める銀行を設立できるなら、中国は世界が期待する責任あるステークホルダー(利害関係者)に向けた重要な一歩を踏み出すことになるだろう。それは、中国政府にとって、地域における自らの利益を拡大するためのはるかに抜け目ないやり方でもあるだろう。
(2015年4月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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