ドライバーになるための車……マツダが教習車シェア49%を獲得する理由
すなわち自動車教習所の教習車の話だ。2014年4月~2015年2月の教習車販売台数シェアを見ると、49%がマツダの車両という(マツダ調べ)。2015年2月の国内メーカー別の販売台数シェアで7.0%のマツダが、なぜ教習車マーケットではこれほどのポジションを築くことができたのか。
◆教習車もデザイン優先の時代
マツダブランド戦略部の石田明主幹は、マツダ車が教習車として高い支持を受ける理由について、教習車である『アクセラ』のデザインの良さを理由にあげる。
もともと同車は「2014 ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤー」のトップ3に選出されるほど、世界でも高い評価を受けている。デザインテーマ「魂動」を身に纏ったその姿は、他車と比べて存在感を放つ。
石田氏は、千葉県船橋市にある「船橋中央自動車学校」のエピソードを紹介してくれた。同校の小杉信二次長は「教習で路上に出た際に注目を浴びるくらいかっこいいクルマにしたい。デザイン性と走行性に優れ機能性も十分に高いアクセラは我々のニーズにぴったりマッチした」という。この学校では、それまで「指導員の教えやすさ」や「取り回しの良さ」を車両の選定基準としていたが、今では「見た目」や「走り」を重視しているという。
◆自動車メーカー自らがつくる教習車はマツダとトヨタのみ
アクセラが教習車に採用されたのは2004年。それ以来”マツダ製”の教習車はアクセラが務めてきた。
この”マツダ製”というのがミソで、たとえば輸入車を教習車に使用している学校もあるが、これらは「改造自動車届け」を提出して運用する「改造車」なのだ。メーカー製の教習車は、現在のところアクセラの他にトヨタ『コンフォート』しか存在せず、いずれも車両開発が完了してから国土交通省に直接「教習車」としての届出をしている。
“マツダ製”なので製品はもちろんマツダ・クオリティ。耐久試験や衝突実験まで行い、装備を含めた保証は一般車と同じ。国内営業本部法人営業部東京法人グループの小賀坂達雄氏は「デザイン以外にも信頼性で選ばれている。教習車は学校にとっての商売道具。修理のために何日も動かせないというわけにもいかない。その点マツダは、サービス体制もしっかりしている」と話す。
一度に何台も入れ替える教習所にとっては大きな投資になるところ、これまでに約1万1000台のアクセラが教習車として生産・販売されてきた。
◆初めて乗るクルマだからこそ大切なドライビング・ポジション
教習車に乗ってまず教官から教わるのがドライビング・ポジションだ。車内空間を優先するあまりタイヤハウスが室内足元へとせり出し、自然な足の位置と比べペダルが左にオフセットされている車種も少なくない。安全運転には正しい運転姿勢が必要不可欠、にもかかわらずだ。
商品ビジネス企画の下宮康裕主幹は「アクセラは、乗車して真っ直ぐ足を伸ばせばアクセルペダル、クラッチペダルがある。体がよじれない自然なドライビングポジションをとることができ、これが運転のしやすさに繋がる。生徒さんが初めて乗って『クルマってこんなに運転しやすいんだ』と思っていただければ」と運転姿勢へのこだわりを見せる。
この思想は教官の”仕事場”でもある助手席にも受け継がれ、足を伸ばせば自然な位置に左右のフットレストがある。教官は多いときに11時間も助手席に座らなければならない。下宮氏によると「ここまでこだわるのはマツダだけ」という。
ドライビング・ポジションのほかにも、教官が速度やウィンカーの点灯を確認する「教習モニター」にも細かな配慮がうかがえる。インテリアに調和したデザイン性の高さはもとより、中央の速度表示をわずかに助手席側へ傾けることで、運転席からは見えづらくする工夫も。この配慮は教習所から出た要望で、運転に慣れてない生徒の気を散らさないための配慮だ。
サイドウィンドウの専用の大型のバイザーは、「目と耳で確認」と教わる踏切教習で、雨の日に窓を開けても車内に雨粒が入ってこないようにするための装備。開発では、強度試験の他に風洞実験まで行い、風切り音の低減まで図った。いたるところにメーカーならではのこだわりが強く感じられる。
◆運転の楽しさを伝えるためにかけるコスト
教習車には、今話題のスカイアクティブ・エンジンではなく、実績のある1.6リットル「MZR1.6」エンジンが選ばれた。最新のエンジンを搭載しなかったのは、耐久性と整備性を考慮してのこと。エンジンのセッティングも、低速で走行する時間の長い教習車専用だという。
トランスミッションも6速ではなく昔ながらの4速ATと5速MTを使用する。商品本部の松本真吾アシスタントマネージャーは「両者とも操作性をしっかりと学んで欲しいという考えに基づく。特にATは、キックダウンをしやすくするための配慮」と説明する。
生産は、アクセラの製造ラインがある山口県の防府工場から、広島の宇品工場へと船で運ばれ補助ブレーキやミラーなどを装着し、全国に出荷される。年間1400台程度の生産量に対し、多くのコストと手間がかかっている印象だ。
かつては三菱や日産も教習車を生産していたが、現在では市場から撤退している。マツダがこれほどまでにコストをかけ、こだわりを持って教習車を製造する理由はどこにあるのだろうか。松本氏に訊いたところ「初めて乗るのがマツダのクルマ、という出会いを大切にしたい。我々は『Be a driver.』と言っているが『クルマはこんなに楽しいよ』という、走る歓びを伝えるため」との答えが返ってきた。
環境性能とデザインを武器に市場で快進撃を続けるマツダだが、そのスローガンは「Be a driver.」、ドライバーであれ。つまりドライバーを育てる教習車は、いちばんマツダらしい車なのかもしれない。
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