2015-04-05
バーナンキ=サマーズ論争のクルーグマン裁定
経済 |
長期停滞を巡ってネット上でバーナンキとサマーズが論争を交わした。クルーグマンが彼なりの視点でその論争を整理しているので*1、以下にその概要をまとめてみる。
- バーナンキのサマーズ批判は以下の通り:
- その上でバーナンキは、国際的な資本移動が長期停滞の問題を解決する、と主張している(ようにクルーグマンには思われる)。というのは、資本は、海外のより高いリターンを求めて動くからである。従って、全世界が長期停滞に陥らない限り、資本移動で問題は解決する。
- だがクルーグマンは、サマーズの言う長期停滞の証拠が実は世界的な過剰貯蓄を反映したもの、というバーナンキの議論を優れた指摘と認めつつも、上述のバーナンキの解決法には与しない。というのは、彼によれば、需要不足に陥っている国や通貨圏において自然利子率がゼロ以下に低下することは、海外での正のリターンの投資機会があっても生じ得るからである。
- では、一般的な流動性の罠ではなく、非常に長い期間継続し、疑似的に恒久と考えられる過剰貯蓄と結び付いた長期停滞はどうか? その場合は資本の移動性は決定的な要因となるのではないか?
- しかし、ドイツ国債が7年物に至るまでマイナス金利を付け、10年物利回りが16bpに過ぎないということは、市場がユーロ圏経済における長期停滞の警告を発していることを意味する。実際、労働力人口が縮小するという日本型の人口動態から考えて、欧州が長期停滞に陥る確率は米国より遥かに高い。また、財政統合がなされていないことから緊縮財政バイアスが生じており、コアインフレは既に0.6%まで下がっている。
- ユーロの弱含みと経常黒字の継続により、欧州は事実上長期停滞を輸出しようとしている。経常黒字が巨額になる前に比べて対ドルユーロ相場が約3割下がったこと、10年物の実質金利がドイツで約-1%であるのに対し米国では僅かなプラスであることを考えると、今後10年間でユーロは1/3程度しか戻らないと予想していることになる。従って、米国の内需の弱さを措くとしても、この新たな過剰貯蓄がすぐに終わると考えるべき理由は見当たらない。
- バーナンキは通貨操作を止めさせれば問題は解決するというが、クルーグマンの分析が正しければ、その話は無関係。欧州の貿易と資本の不均衡は内需の根本的な弱さの帰結であり、その弱さが、さして景気が強いわけでもない海外に輸出されている。もしそうならば、これは内需振興策で解決すべき問題であり、従って、その点を巡る政策論議においてはクルーグマンはサマーズを強く支持する。
以前、本ブログでは、デフレ体質に陥った経済をMr.フリーズに喩え、日本では円高スーツによってその冷気の外界への拡散が防がれた、と論じたことがあったが、クルーグマンのこの分析によれば、今の欧州はそのようなスーツを着用していないため米国が欧州からの寒風に曝されて震えている、という構図が成立しているようだ。
*1:当然ながらこの論争は他にも多くの人の注目を浴びている。例:ジョン・キャシディ、Stephen Williamson。
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