社会心理学者のPaul Piff(ポール・ピフ)氏は「金持ち」と「貧乏人」の比較実験を行い、お金と心の関係性について研究しました。彼が語った「人は金持ちになるほど、強欲で利己的になる」とは本当か?(TED2013より)
【スピーカー】
社会心理学者 Paul Piff(ポール・ピフ) 氏
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Does money make you mean?
モノポリーによる実験
ポール・ピフ氏(以下、ポール):モノポリーのゲームを考えてみてください。モノポリーは、スキル・才能・運によって成功に導かれるという意味で、人生と似通ったところがありますね。優勢にあるときはボード上の駒を進めて、資産価値を高めるリソースを手にすることができます。
それでは、皆さんがゲームで優位に立ったとき、自分自身と相手に対する見方はどのように変わるのでしょうか?
今皆さんに投げかけた質問の答えを得るために、カリフォルニア大学バークレーのキャンパスで100人以上の他人同士を集めて、2人でモノポリーをしてもらいました。コインを投げてもらい、対戦者の片方には「金持ちのプレイヤー」としてゲームを始めてもらいます。
この人は対戦相手の2倍の資金を持ち、GO(スタート地点)を通過すると2倍のサラリーを受け取り、ダイスは1個ではなく2個振りますので、ボード上を何度も行き来することになります。
(会場笑)
そして、15分ほど対戦中のプレイヤーを隠しカメラで観察します。今日はその一部をお目にかけます。隠しカメラの映像で音がよくありませんから、字幕をつけてあります。
金持ちプレイヤー:500ドル札何枚もってる?
貧乏プレイヤー:1枚だけだよ。
金持ちプレイヤー:ウソー!?
貧乏プレイヤー:ウソじゃないよ。
金持ちプレイヤー:僕は3枚持っている!
金持ちプレイヤー:どうして僕には3枚くれたんだろう?
ポール:対戦者同士は早くもお互いの違いに気づきました。
(会場笑)
顕著になっていく行動の違い
ポール:対戦者の片方は、明らかに相手よりもお金持ちなわけです。ゲームが進んでいくうちに、この2人に顕著で劇的な違いが現れてきます。まず、金持ちプレイヤーは大きな音を立ててボードの駒を進め始めます。まさに、駒をボードに叩き付けるようにしていますね。
そして、自分が優位に立っていることを示す行動を取ります。金持ちプレイヤーが力を誇示していますね。対戦者の本能的欲求を満足させる行動を観察するために、ボウルに盛られたプレッツェルがボードの横に置かれます。プレイヤーがいくつプレッツェルを食べるか見てみましょう。
(会場笑)
金持ちプレイヤー:このプレッツェルって、何かの罠かな?
貧乏プレイヤー:わかんない。
ポール:対戦者はわたしたちの意図を知りませんから、なぜプレッツェルがそこにあるのかがわかりません。ひとりは、「プレッツェルは罠かもしれない」と言っていましたね。それはさておき、優位に立っている金持ちプレイヤーからプレッツェルを食べ始めます。
(会場笑)
成功要因を忘れる金持ちプレイヤー
ポール:さらにゲームが進んでいくにつれ、非常に興味深いパターンが現れます。金持ちプレイヤーは、貧乏プレイヤーに対して横柄になっていきます。
(会場笑)
ポール:次第に貧乏プレイヤーに対する思慮を欠くようになり、自分の物質的成功を見せつけるようになります。その様子を見ていきましょう。
金持ちプレイヤー:僕には何でも買えるお金がある。
貧乏プレイヤー:それいくら?
金持ちプレイヤー:君に24ドル貸しているよ。
貧乏プレイヤー:24ドルだね。
金持ちプレイヤー:もうすぐ、君はすべてを失うだろうね。
(会場笑)
金持ちプレイヤー:あ、それ買い! 僕はこんなにお金持ちだから、何でもできるんだ。
金持ちプレイヤー:このボードごと買占めてしまおうかしら。
金持ちプレイヤー:もうすぐ君は資金不足になるだろうね。ここまで来たら、僕はもう無敵。
(会場笑)
ポール:15分間のゲーム終了後、プレイヤーにゲームの感想を話してもらいました。金持ちプレイヤーは「ゲームに勝ったのは、自分が様々な物件を買って成功したからだ」と言いました。
(会場笑)
ポール:コインを投げて、たまたま金持ちプレイヤーとしてゲームを始めたのだということは、どうも忘れているようでした。これは「人が優位な立場に立ったとき、その成功要因を考えるのか?」を知るのに非常に面白い結果でした。
階級構造で人は身勝手になる
ポール:モノポリーは、階級構造の社会を理解するメタファーとしても使うことができます。ある人は富や地位を持つ者ですが、多くの人々は持たざる者です。富も地位もあまりなく、価値あるリソースを手に入れる手段もあまりありません。
過去7年間わたしは同僚と共に、このような階級構造がもたらす影響について研究してきました。国中の人に実験に参加してもらい研究を重ねた結果、お金持ちになるにつれて思いやりを持つことや、他人の立場でものを考えることが少なくなっていくことを発見しました。
そして権利意識や利己心が強くなり、自分が特権的な地位にあることが当然だと考えるようになります。アンケート調査の結果裕福な人たちは、「強欲で利己的であるのは正しい・いいことである」と考えていることが解りました。
裕福な人が身勝手を正当化することが社会にどんな影響をあたえるのか? また、なぜそれが重要な問題なのか? そして最後に、それをどうすべきかを話していきたいと思います。
他人を助けたいと思っているのはどんな人?
ポール:社会心理学者が言うところの向社会行動、即ち人助けについて考えてみましょう。わたしたちが興味を持ったのは、「他人を助けたいと思っているのはどんな人か?」です。お金持ちの人でしょうか? それとも貧乏な人でしょうか?
お金持ちの人と裕福ではない人に、10ドルずつ渡して言いました。
「このお金を全部、自分のものとして取っていただいてもかまいません。あるいは、一部を見ず知らずの人と分かち合ってくださってもかまいません。あなたは、その人に名乗ることもなければ、受け取った人があなたに会うこともありません」
そして、その人たちが「見ず知らずの他人に、いくらお金を与えるのか」を観察した結果、年収2万5千ドル、時には1万5千ドル以下の人たちは、年収15~20万ドルの人よりも、44パーセント多い金額を与えました。
「ズル」をするのはどんな人?
ポール:また、ゲームをしたとき賞金を獲得するために「ズル」をするのはどんな人か? 「ズル」をしないのはどんな人か? も実験しました。あるゲームではコンピュータを使って、12点より高得点が取れないように設定しました。ところがお金持ちであればあるほど、50ドルの賞金を得るために「ズル」をするのです。
子どもたちのために取り置きしてあると言ってあるキャンディーです。そのキャンディーをですね……。
(会場笑)
ポール:冗談で言っているのではないですよ? 実験の参加者にはっきり言ってあるのです。
「このキャンディーは他の研究室での実験に参加している子どもたち用ですからね」
ポール:そして、参加者がいくつキャンディーを取るか観察しました。
(会場笑)
ポール:自分を金持ちだと思っている人は、自分が貧乏だと思っている人の2倍のキャンディーを取りました。
(会場笑)
交通違反をする車の50%は高級車
ポール:車を使った研究もしました。運転する車の種類で、交通違反をする頻度は違うのか? という実験です。歩行者が道路を横断しようとしているとき、停車して譲るかどうか。皆様ご存知の通りカリフォルニアでは、横断歩道は一旦停止して歩行者を横断させなければいけませんね? わたしたちは皆そうします。なぜなら、法律で決められているからです。
こちらがその実験です。歩行者が横断歩道に近づいていきます。赤い車はきちんと止まりましたが、バスはいまにも歩行者を轢いてしまいそうですね。
(会場笑)
BMWは止まらずに通過していきました。
(会場笑)
このように、どんな車が止まって、どんな車が止まらないか観察しました。
結果は、高価な車を運転している人ほど違反が多いということでした。
また、最も低価格な車を運転している人は、ひとりも違反をしませんでした。そして、違反をした車の50パーセントは高級車でした。
みんな誘惑と戦っている
ポール:他の研究でわかったことですが、裕福な人は交渉の際に嘘をつきやすく、倫理に反する行為を正当化しがちです。例えばレジから現金を盗むとか、賄賂を受ける、顧客にウソを言うなどです。
誤解のないように言っておきますが、裕福な人だけにこのような行動パターンが見られるわけではありません。わたしたちは皆、日々の生活で他人を顧みず私利私欲を先行しようか、あるいは状況によっては利己的であるべきではないかという誘惑と戦っています。
これは、わからなくもないのです。アメリカン・ドリームとは、人は皆勤勉であれば成功して、繁栄するための平等な機会を持つものだという考えだからです。それには、周囲の人たちよりも自分の利益を先行させなければならないこともあるのです。
アメリカン・ドリームは実現不可能?
ポール:ところがリサーチの結果解ったことは、人は裕福になるにつれ、「自分の成功は他人を踏み台にしてこそ」という見方をしていくということでした。
こちらは過去20年の世帯収入で、低いほうから5パーセント毎の所得層と、上位5パーセントの所得層をグラフにしたものです。1993年、5分割された収入層間の差はほどほどで、顕著な違いはみられませんでした。
しかし現在までの20年間で、トップの世帯収入層とそれ以下の格差は大きく広がりました。事実アメリカでは、上位20パーセントの収入層が国内の富のほぼ90パーセントを所有しているという、前代未聞の経済的不均衡な状態になっています。
このグラフが示しているのは、富が特権的な少数の個人に集中しているということのみならず、アメリカン・ドリームは、ほとんどのアメリカ人にとって、どんどん実現不可能になっていくということです。そして、人は裕福であればあるほど、自分の利益を優先し、自分の利益になることばかりを追及していくようになります。
経済格差の拡大により軽視される7つの事柄
ポール:このパターンが将来変化するとは考えられません。事実、この棒グラフに見られるように、これから先20年、同じペースで進んでいけば貧富の差はさらに広がるでしょう。経済格差は、わたしたち皆が考えていかなければならない問題です。格差が大きければ、その階層にある人の経済状況が悪化します。これは貧困層だけの問題ではなく、どの所得層にも言えることです。
経済格差が広がることで、軽視されていくものについて、世界中の一流の研究機関が列挙していることがこちらです。
Social mobility―社会移動
Economic growth―経済成長
Community life―共同体
Social trust―社会に対する信頼感
Life expectancy―寿命
Educational performance―教育の質
Physical health―健康
今よりもいい社会的地位をめざす、いわゆる「社会移動」は、わたしたち皆が気にかけていることですね。「健康」や「社会に対する信頼」、これらは格差が広がるにつれ蔑ろにされていきます。
経済的貧困がもたらす悪循環
ポール:また、貧富の差が激しくなると、ネガティブなことが増えてきます。
Rate of obesity―肥満率
Abuse of drugs―薬物濫用
Teenage birth―10代の妊娠
Rates of violence―暴力
Rates of imprisonment―禁固刑
Incidence of punishment―刑罰
経済格差拡大の結果として、肥満率・暴力・禁固刑・刑罰などが増えてきます。先ほども申しましたがこれは少数の人々の問題ではなく、あらゆる経済階層に蔓延していくのです。これは、最上位の経済層に属する人でさえ例外ではありません。
本当はみんな平等を愛している
ポール:それでは何をすべきでしょうか? 際限なく続く負の連鎖は、止められないことのようです。個人ではどうすることもできないのは明白です。
しかし小さな、ほんの少しの心理的介入を施すことで、人の価値観に小さな変化が生まれること。ちょっとした刺激を与えることで、ある方向へ人を導くことができること。そして平等主義の考えや他人を思いやる心を取り戻すことができることが、リサーチで明らかになりました。
例えば人と協力することのよさ、共同体の強みなどを思い出してもらえばよいのです。なぜならば裕福な人も貧乏な人と同じように、実は平等を愛しているのです。
あるリサーチで、子供の貧困を扱った46秒間の非常に短いビデオ見せたことがあります。それによって、世界には援助を必要としている子どもたちがいることを思い出してもらいました。ビデオを見せたあとで、見ず知らずの困っている人に登場してもらいました。
するとそこに集まった人たちが、その人のために喜んで自分の時間を割きたい、助けてあげたいと思っていることが解りました。1時間後には、お金持ちの人たちは貧乏な人と同じくらいに、惜しみなく与えることに喜びを感じていました。
この変化は型にはめて説明できるものではありませんが、人の価値観に小さな影響を与えます。そして人の心の中にある、慈悲や他人への思いやりを引き出すことができるのです。
アメリカン・ドリーム復興のために
ポール:社会ではすでに変化の兆しが見えています。アメリカで最もお金持ちのビル・ゲイツがハーバード大学の学位授与式典で、格差が最も難しい課題であり、この問題を打破するために何をすべきか述べました。
「人類の偉大な進歩は発見の中にあるのではなく、それらの発見を不平等を緩和するためにどう応用するかにある」
「Giving Pledge」という呼びかけがあります。アメリカ国内の最もお金持ちの人々が、財産の半分をチャリティに寄付するものです。また、さまざまな草の根運動も始まっています。
たとえば「We are the 1 percent」や「resource generation」、「Wealth for COMMON GOOD」は、国内の最も特権的な階層の人たちが大人のみならず、若者も自分の財源を使って不平等と戦おうという運動です。
本来なら裕福な人々が金銭的な利益を追求しようとするときに障壁となる、社会政策・社会的価値観や行動形態の変革などを提唱しています。これらは、アメリカン・ドリームを復興するのに必要不可欠な要素です。ありがとうございます。
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