クローズアップ

特別インタビュー

フォントは美しさだけでなく、社会の動きも意識してデザインする

2015年3月20日(金)

 フォント開発を手がけるデザイン企業、Type Project(タイププロジェクト)が注目されている。雑誌「AXIS(アクシス)」向けに開発したフォントの「AXIS Font」は、さまざまな企業の媒体などに使用され、昨年末には同フォントのバリエーションを増やした「AXIS Font ProN (プロエヌ)」も発表した。さらに今後は、2014年2月から発売しているフォント「TP明朝」にも注力し、同社の新たな収益の柱にする考えだ。

 TP明朝はネット時代に向けたフォントとして開発。横組み表示で最適化しており、モニターでの快適な読み心地を追求している。フォント開発にかける思いやフォントデザイナーへの期待、今後のタイププロジェクトの方向などを、代表取締役社長でフォントデザイナーでもある鈴木功氏に聞いた。(聞き手は日経デザイン副編集長、大山繁樹)

Type Project(タイププロジェクト)代表取締役社長・タイプディレクターの鈴木功氏

――TP明朝は発売から約1年経つが販売状況はどうか。

 次第にさまざまな場面で使われてきており、好評のようだ。特にデジタル機器を使いこなす若い世代から注目されている。元々、TP明朝はデジタル機器向けに開発したフォントなので、全角横組みで最も読みやすいようにデザインしている。横方向へのスムーズな視線移動に優れているだけでなく、スマートフォンなど小さい画面でも読みやすくしている。

 開発には約5年をかけた。最も特徴的な点は、「コントラスト」と呼ぶ軸を設定し、文字の濃度を調整したことだ。例えば「ハイコントラスト」は、ポスターやバナーなど大きな文字サイズに適しており、「ミドルコントラスト」はスマホやタブレットの中間的な大きさの表示に、「ローコントラスト」は小さい端末向けの表示に向いている。AXIS Fontが企業ブランディングとしての用途でも使われているように、いまやフォント自体が企業を表す役目を担っている。TP明朝のような横組みフォントも、市場が広がる可能性を感じている。

 数年前から、多くの利用者が読みやすいようにユニバーサルデザイン(UD)フォントのコンセプトに基づいたフォントが各社から登場しているが、そうした分野でも他社に負けない自負がある。美しさと機能性を併せ持ったフォントとしてアピールしていきたい。現状ではAXIS Fontが当社における大きな柱だが、TP明朝も将来はAXIS Fontと同じ規模にしていくなど、新たな柱として育てたい。

――AXIS Fontを開発するため、Type Projectを創業したと聞く。

 美大で学んでいたときは、実はフォントデザイナーになるつもりはなかった(笑)。それが中国人の留学生と知り合い、異文化と接することで、コミュニケーションツールとしての「漢字」の奥深さを知った。漢字の表現力が私にとって非常に面白かった。

 文字の研究者になる道もあったが、「小塚フォント」で知られる小塚昌彦さんと出会い、そこでフォントにも関心を持った。その後に小塚さんがいたアドビシステムズに入社し、フォントデザイナーとして第一歩を踏んだ。小塚さんにはオン・ザ・ジョブ・トレーニングでフォントについて教えていただいた。美大で学んできた観察力や造形力、描写力などはフォントデザイナーとしても役立ったと思う。

若いフォントデザイナーを育成するなど陣容を強化している

 アドビに在籍して海外のフォントデザイナーとも交流を重ねるうち、独立して自由にフォントを作ろうとする彼らの行動力にも触発された。「フォントはなかなか売れない」と言う周囲の声もあったが、限られた範囲で使用するエクスクルーシブフォントを自分でも開発したいと考えるようになり、これがAXIS Fontの開発と当社の創業につながった。当社創業は2001年で、同年にデザイン誌「AXIS」の専用フォントとして使われている。03年からAXIS Fontを一般にも販売し、デザイン志向の強い国内外の企業を中心に、ブランディングツールとしても採用されている。

――次なる目標は何か。

 現在、AXIS FontやTP明朝とは別のフォント開発に向け、2つの新しいプロジェクトが動いている。10年後にどんなフォントが必要とされるのか、今後の技術の動きも見据えながら、新しいスタイルを提案していきたい。昨年4月に新卒を採用するなど陣容も強化している。地味な仕事かもしれないが、社会的な意義は大きくなっている。

 実際、最近はデザイナーでフォントに関心を示す人が増えてきているようだ。そうした人々が、ソーシャルネットで横につながっている。文字の社会的な役割が認知され、文字が持っている可能性に興味があるのだろう。

 それだけにフォントデザイナーとして重要な点は、単なるデザインの美しさだけにとらわれてはいけないことだ。どんなシーンで使われるようになるのか、社会でどのような存在になるのか、使い方がどう変化してくるのかなど、一歩後ろに引いて考えることが必要になってくる。このためには社会に関心を示し、社会が抱える課題を認識することが不可欠だと感じている。社会を強く意識することで、フォント開発にも大きな広がりが出てくるはずだ。