「経営者視点」って何だよ議論

スタートアップを立ち上げる時には「経営視点を持つ人材を採用したい!」と思いがちです。

正確に統計をとったわけではないのですが、スタートアップを立ち上げる慶應 SFCの学生のうち、7割近くがそう考えているという調査があったとかなかったとか。

同じように、「うちのメンバーは経営視点がなくて…」という話をきいたり、「経営視点を持っている人材にならなければいけない」みたいなのが、ビジネス雑誌で特集されたりすることがありますが、そもそも経営視点ってなんでしょうか。

経営者視点って何だよ

経営視点とは、「経営者の視点になって考えること」とかだと思うんですが、本当にこれって必要なんだっけ?と思うわけです。正確にいうと、ここだけを求めてどうするんだ?感があります。

「経営者視点がないから、現場のレベルが低い!」というのは、ちょっとイケていない気がするわけです。もちろん、逆もそうです。「社長は現場について何もわかっていない!」というのも、イケていないなあ、と。恋愛で「彼氏or彼女は、自分の気持ちを全然わかってくれない!」と騒いでいるのと同じです。

当たり前ですが、経営者は、経営視点なので、経営視点に関してはよくわかるのですが、現場視点はない。現場は現場で、現場のことはわかるけど、経営視点はないわけです。

単純にコミュニケーションの問題

では、なんでこんな「経営者視点が〜」という話がこんなにでてくるのか。

僕は、経営者視点、みたいなものは、単純なコミュニケーションの問題の一つにすぎないんじゃないかと思っています。「コミュニケーション力」が足りていないだけかなと。

でも、その「コミュニケーション力」とは一体、何だ?という話になります。就職活動で、会社が求めるものの常に上位に「コミュニケーション力」がありますが、これは一体なんでしょうか。

まず、コミュニケーションといってもいろいろ種類があります。学生の時とかは、僕はコミュニケーション力というのは、飲み会とか雑談の場で、笑いをとったり盛り上げたりする能力まで含んでいると思ったんですが、ビジネスだと全然そうではないんですよね。そういうのと、ビジネスで必要なコミュニケーション力は全然違う。僕はないです。

ビジネスで必要なコミュニケーション力とは、端的にいうと、

  • 状況や背景を整理する能力
  • その整理した内容をわかりやすく伝える

だと思うんですよ。

で、2つ目の、「整理した内容をわかりやすく伝える」ための手法の一つが、「相手の立場になって、情報や考えを伝える」ことなんです。わかりやすく伝える手法は他にもいろいろあって「きちんとした資料にする」かもしれないですし、「適切なタイミングで伝えること」だったりするかもしれないですが、とにかくたくさんあります。

○○視点、というのは、要はここだけなんですよね。ビジネスコミュニケーション力における要素の一つの中の、さらに手法の一つにすぎないと言えます。

経営者視点の不足を感じたらコミュニケーションに問題がある

要は、「経営者視点が足りない」と思っちゃうのは、コミュニケーションに問題があるのではないかと。

シンプルにいっちゃうと、「相手の立場、気持ちになって考えようよ」だけだと思うんですよね。なので同じことが経営者にも言えるわけです。現場の気持ちになってコミュニケーションしようよと。

経営視点って、現場視点が下で、経営視点が上という考えがある人もいるんですが、それもちょっと違います。経営視点も、現場視点も視点の場所が違うだけで、高低ではない。なので、経営視点が足りない!と感じちゃった人は、おそらく自分のビジネス・コミュニケーション力も足りていない可能性が高い。

そもそもお互いに、情報量が相手よりも少ないのだから、その視点に立てはしない。たとえ上場企業だからって、P/Lを見れば経営視点がわかるわけではない。「地代が高いです!」と経営者視点になった気持ちでいったとしても、今のオフィスにする理由として、たとえばデベロッパーとの人間関係があったりするかもしれないし、ビジネス上、極めて重要な場所にかまえているのかもしれない。そのあたりは、関わっていない限り、情報が少ないわけで、その視点を持てないのは当たり前なんです。経営に携わらないとそんな視点は身につかない。

つまり、メンバーに経営者視点がないと思っちゃう場合は

  • 自分のビジネス・コミュニケーションスキルが足りない
  • 現場のビジネス・コミュニケーションスキルがたりない

のどちらかにすぎない気がします。視点を持てる持てないとはまたちょっと違うんじゃないかと。

できる人のコミュニケーション

今日、極めて仕事ができるメンバーと1 on 1をしたのですが、やはり相手の立場を考慮にいれてコミュニケーションをするのが上手でした。「こういう意見が現場であります」「経営視点だとこうだけど、現場だとこうであり、ここに差があるから、こういう施策をしたほうがいい」ということが明確に指摘してくれるのです。

これは経営者視点を持っている、ではなくて、ビジネス・コミュニケーションスキルが高いんですよね。

なので、よくわからない曖昧な「経営者視点」みたいな単語に惑わされちゃうと、問題の本質を見失っちゃうかもしれないなーと思ったこの頃です。

蛇足としての補足

もちろん、経営者のリソースは限られている & 経営者の時間はコストが極めて高い、という面はあります。そこで、全体最適として、経営者の意思決定コストを下げる施策の一つで、「説明時間と理解時間を短くするために、相手の視点にたって徹底的に伝え方を工夫する」というのを現場がして、経営者は現場の理解をしなくてもすぐに意思決定できるようにする、という体制は極めて合理的です。

こういった考えを持てる人は重宝されます。自分の都合じゃなくて、組織全体の最適を考えられるような、そんな経営者視点を持った人材がこれからは求められるんじゃないかな!