死を語るには30代は「若すぎる」!?

日韓で50万部以上のベストセラーとなった『死ぬときに後悔すること25』(新潮文庫)。現代人に死生観を問う本の先駆けとなった本作の著者である大津秀一さんは、岐阜大学医学部を卒業後、内科専門研修を経て、日本最年少のホスピス医(当時)として勤務。現在は、東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長として、患者の診療に携わる一方で、幅広く著述・講演活動を行っています。新刊『死ぬまでに決断しておきたいこと20』(KADOKAWA/メディアファクトリー)では、人生後半を幸せに過ごすために必要な選択について、解説しています。インタビュー前篇では、大津さんの医師としてのキャリアをたどりながら、現代医療の問題点にも触れていきます。

若い医師に本音は話せない!?

— 「1,000人の死を見届けた終末期医療の専門家」として、大津さんが書いた『死ぬときに後悔すること25』は、日本で25万部、韓国で30万部のベストセラーになりました。このとき、大津さんは何歳だったんですか。

大津秀一さん(以下、大津) 単行本が出版されたのは2009年ですから、33歳になったばかりでしたね。

(東邦大学大森病院緩和ケアセンターにて。患者さんの警戒心を解くため、診療中でも白衣は着ない。)

— マスコミや読者から、死を語るには「若すぎる」という反応があった、と聞いています。

大津 取材に来られた新聞や雑誌の方々からは、たびたび「お若いんですね」と驚かれました。書籍の本文だけ読んでくださった方だと、50代くらいの医師が書いたと思って、会ってびっくりされる方が多かったようです。「死」にまつわる話題は、プロフィールに記してある生年が重要な意味を持つのだと痛感する出来事も、度々ありました。

— 医療現場では、患者さんから「(医師が)若いと信じられない」と言われることは、よくあるんでしょうか。

大津 実際は、そうでもないんですよ。僕が研修医の頃は、あまりの忙しさにくたびれ果てていて、いつも10歳以上、年上に見られていました。その後、ホスピスで働くようになって、患者さんたちと接する時間が増えたものですから、身ぎれいにするようになると、急に若く見られるようになって(笑)でも、患者さんたちの反応は、ほとんど変わりませんでした。
『死ぬときに後悔すること25』の感想に「20代、30代の医者なんかに、心情を吐露できるわけがない」なんていうのもあったんですけど、そんなことはありません。本当に困っている患者さんたちは敏感ですから、こちらが誠心誠意対応していることが分かると、年齢なんて関係なく、きちんとお話してくださるものです。

— それでは、世の中に流布している「若い医師への不信」は、間違っていますね。

大津  僕はそう思いますね。経験を積んだ医師は、たしかに専門分野では高い能力を発揮しますが、若い医師が経験不足だからダメということはありません。むしろ、働きはじめて3、4年目の研修医こそ、大学病院の専門医から最新の知識を学んでいるため、オールラウンドで活躍できるのではないでしょうか。

20代で当時最年少の「ホスピス医」に

— 大津さんは、子どもの頃から、「死」に関心があったんですか。

大津 僕は、生まれたときから、とても体が弱かったんです。いわゆる虚弱体質で、いつも高い熱を出してばかりいて、幼稚園も半分ぐらいしか通っていません。あるとき「人間は42℃になると、生きられない」と知って、自分も「死ぬんだ」と思い、怖かったです。よせばいいのに死神が出てくる本を読んで、いつかやって来るに違いないと、びくびくしていました。

— なぜ「死」が怖い大津さんが、緩和医療医になろうと思ったんですか。

大津 学生時代、人が死ぬのをほとんど見ずに、医師になりました。ところが、研修医になると、患者さんの最期をたくさん見ることになります。もともと「死」に関心があったためか、一人一人が「本当に満足して、亡くなったのか?」という疑問を抱かずにはいられなかった。そして、「死」は誰もがいつか迎えるものですが、より良い最期、より良い生き方があるんじゃないかと考えるようになりました。その後、研修医から内科医になってから、ステロイドや医療用麻薬によって、痛みや苦しみを軽くする「緩和医療」に目を向け始めたのです。

— 当時(2000年代前半)、「緩和医療」は、知られていなかったのではないでしょうか。

大津 今ほどではなかったですね。専門家も少なかったので、僕は、専門書を参考に独学しました。肺がんの60代女性の患者さんに学んだことを行うと、かなりの苦痛を取り除くことができて、たいへん状態が良くなりました。あまりの効果に驚き、他の患者さんにも行っていくことにしたんですが……周囲の一部の医療者たちからは、「結果的に、患者さんを早く死なせているんじゃないか」という誤解を受けたりして、つらかったこともあります。

「緩和医療」は終末期だけに行うものではない

— 誤解されがちですが、「緩和医療」と「終末期医療」は違うものですよね。

大津 徐々に正しい知識が広まりつつあると思いますが、それでも「緩和医療」=「終末期医療」と思い込んでいらっしゃる患者さんも多いです。「緩和医療を行いましょう」と言うと、「もう(病気と闘う)治療はできない」「もうすぐ死んでしまうのか」とショックを受けられてしまうんですが、現在ではそうとはかぎりません。
 緩和医療は、あくまで病気による痛みや苦しみを和らげる治療です。その他のさまざまな治療と並行して行うこともあります。数年前に、抗がん剤や手術などの治療と緩和医療を並行して行ったほうが、余命が3カ月延びるという研究結果が報告されていました。緩和医療を併用したほうが心身の状態をよく維持することができて、また適切な決断に影響していると考えられます。

— その後、京都にあるホスピスで働くことになりますが、当時最年少の「ホスピス医」でいらしたとか。

大津 あるとき、いくら医療用麻薬を使っても良くならない70代男性がいらっしゃって、独学にも限界があるのではないか、と思ったんです。そこで、「一般病院ではなく、ホスピスという緩和ケアの現場で働きたい」「正統な知識や技術を学びたい」と考えて、自分であちこち電話をかけたりして、就職活動をしました(笑)すると、京都にある日本バプテスト病院がすぐに採用の返事を下さったので、「ぜひとも」と働き始めたわけです。

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