ホンダは23日、6月の株主総会後の役員人事で伊東孝紳社長(61)が取締役相談役に退き、後任に八郷隆弘常務執行役員(55)が昇格する人事を内定したと発表した。6年ぶりの社長交代となる。
社内からは「伊東社長の判断ミスによって大規模リコールが起こり、その対応でエンジニアは忙殺され、今やブラック企業の顔負けの労務管理によって、体調と家庭が壊れる社員もいる」(中堅幹部)といった不満も渦巻くほか、社長OBからは「伊東君は責任を取るべき」といった意見も出始めていた。こうした批判を受けて、伊東氏が事実上、引責辞任する形だ。しかし、この役員人事は、伊東氏が「院政」を敷くための巧妙な人事でもある。
伊東社長が「院政」を引きやすいトップ交代
ホンダはいま、経営危機の「入り口」に立っている。この円安の追い風によって、トヨタ自動車や富士重工業など日本の自動車メーカー5社は、2015年3月期決算で営業利益が過去最高益を更新する見通しだが、ホンダは4%減益の見通し。減益になるのは、国内11社の中でホンダだけだ。株価も低迷している。
ホンダの業績が悪化した大きな理由は、2015年1月31日の本コラム(「ホンダはソニーになってしまうのか」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41937)でも紹介したが、伊東社長の「暴走経営」にある。
伊東社長が早く実績を出そうと、無理な規模拡大を目指した結果、「フィットハイブリッド」の連続リコールなど品質問題が起こり、それによって新車開発が遅れ、販売が落ち込み始めたからだ。加えて、伊東氏の側近の野中俊彦常務執行役員(四輪事業本部長)が、「現場で起こっている課題を報告せずに伊東氏にゴマばかり擦って、異を唱える部下にはパワハラ的な言動を取っていたため、開発現場の士気が大きく下がっていた」(中堅幹部)
こうした現状を見たため、社長OBが「伊東君は責任を取るべきだ」と言い始めたのである。現場の社員からも「あの『金庫番』と『ゴマすりヤクザ』をどうにかしないと、ホンダの再生はない」との不満が渦巻く。ホンダの開発部門の一部では、伊東氏のあだ名が「金庫番」、野中常務が「ゴマすりやくざ」である。その由来は、伊東氏はコスト削減ばかりにうるさいからで、野中氏は前述したように、上には弱いくせに下にはパワハラ的なことをするからだ。ちなみに今回の役員人事で野中氏も退任する。
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