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読売新聞は誤報を誤魔化そうとしている

photo by 防衛省・自衛隊
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小川 和久, 2015年2月20日

 ストラテジック・アイの最後に「読売新聞が訂正を出す方向であることは、メルマガ第368号(2015年2月5日号)の編集後記でお伝えしたとおりです。『訂正記事』っぽくない形を取り繕ったりせず、訂正の一元化(第二社会面に訂正・おわびコーナー新設)をしっかり活用した形で、わかりやすい訂正・解説記事を掲げることを期待しています」と記したわけですが、その直後の2月13日、読売新聞朝刊は唾棄すべき記事を掲載しました。

141125_y_3_150213_y_13読売新聞2014年11月25日付朝刊3面(右)と同紙2015年2月13日付朝刊13面(左)

 ■課題山積
 中国が進出を強める東シナ海に面した奄美大島(鹿児島県)で、トラックの荷台に積まれた陸自の対艦ミサイル「88式地対艦誘導弾」が、海から接近する敵艦への発射に備えていた。近くの無人島には、陸自の離島防衛部隊がボートで上陸し、島の奪還作戦を繰り広げた。
 今月8~19日、日米の約4万人が参加して開かれた共同演習「キーン・ソード」や、それに伴う一連の訓練は島嶼とうしょ部への武力攻撃を想定。米軍の協力を得ながら本土の部隊を送り込み、敵艦船や航空機の侵入を阻止する手順などを確認した。
 同演習は2年ごとの開催だが、統合機動防衛力の構想が打ち出されて以降では初めて。「離島防衛では3自衛隊の協力が不可欠」(自衛隊幹部)との認識の下、スムーズな連携に主眼が置かれ、19日に記者会見した自衛隊トップの河野克俊・統合幕僚長も「部隊の運用能力を向上させることができた」と強調した。
 もっとも演習中、課題はそこかしこに現れた。例えば対艦ミサイル。接近する敵艦を攻撃する離島防衛の切り札だが、百数十キロの射程を持ちながら外洋の艦艇を攻撃できない。陸自が地上レーダーしか持っていないためで、海自機が上空から確認した情報を自動共有するシステム構築は緒に就いたばかりだ。読売新聞2014年11月25日付朝刊3面より一部抜粋(GoHoo編集部)

 2月5日号の編集後記で読売新聞側とのやり取りを掲載し、読売新聞の勝股秀通論説委員(当時はD氏と表記)から、「単なる訂正記事では読者は何のことかわからないので、解説面にきちんと書かせることにした」と連絡があったことをご報告したのはご記憶の通りです。そのとき(1月29日)の勝股氏からのメールの文面は以下の通りです。

小川和久様 今朝ほどはご多忙の中、時間を割いていただきありがとうございました。対艦ミサイルに関して誤った情報を提供した紙面を修正する目的で、改めて解説面などで、離島防衛の切り札的な存在であるSSMが抱える現状と課題のような原稿を、担当者(社会部・高沢)に書かせることにいたしました。人質事件の関係で紙面の日付等ははっきりとしておりませんが、編集局の意向として、近日中に紙面化することになりました。小川様には、高沢とのやりとりなどでご不快に感じたこと等、非礼につきまして心苦しく思っております。今回は貴重なご意見を寄せていただきありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

 それに対して、私は以下の希望を述べておきました。

 記事の冒頭の部分で11月25日付の紙面で『外洋の敵艦を攻撃できない』としたのは誤りで、正確な情報を読者に提供するため、解説記事を書くことになったと明記していただきたいということです。そうしておかないと、誤った情報が一人歩きすることになり、『歴史の記録者』としての新聞の使命にそぐわないことになるからです。さらに、適正報道委員会が機能した結果と記すと、読者の信頼は増すと思います。

 ところが、2月13日付朝刊解説面に「南西諸島防衛 対艦ミサイルの壁 島々に」として掲載された高沢剛史記者(当時はA記者と表記)の原稿は、いつ、どんな誤報をしたのかにも一切触れず、しかも、正しい情報を読者に伝えるのではなく、地対艦ミサイルの重要性を記述するという、陸上自衛隊側に媚びを売って、これ以上問題にされないように意図したとしか受け取れない原稿になっていたのです。

 陸自富士学校(静岡県)などには先月、発射機などからなる12式2セットが導入され、隊員への教育が始まった。全国に5個部隊があるSSM部隊には約80セットの88式が配備されているが、防衛省は14年度からの中期防衛力整備計画で12式36セットを取得し、88式と置き換えていく方針だ。部隊配備先は九州・沖縄地方が有力で、九州から奄美大島、沖縄へと延びる島々に配置したい考えだ。
■ 海空との連携不可欠
 南西防衛の切り札とされる12式だが、課題も多い。
 その一つが陸自の地上レーダーだけでは外洋の敵艦の姿を捕捉できない点。レーダーがカバーできる領域は地球の丸みが影響するため半径数十キロ程度で、外洋上の敵艦攻撃には海空自機の支援が不可欠になる。
 だが、海自と空自が米軍と敵艦情報を自動共有するネットワーク「リンク16」に陸自のSSMは入っていない。現状では海自のP3C哨戒機などが探知した敵艦の位置情報などを陸自側が聞き取り、手作業で陸自の火力戦闘指揮統制システムに入力して発射――との手順を踏まざるを得ない。
 上空から得た敵艦情報を発射する側が同時に共有できないことがSSMの大きな弱点で、自衛隊幹部は「今のままでは、効果的な打撃を与えることは難しい」と指摘する。
こうした問題点を克服し、攻撃の精度をさらに高めるため、防衛省は23年度までに、陸自のSSMを「リンク16」に組み込むため、研究に乗り出している。読売新聞2015年2月13日付朝刊13面より一部抜粋(GoHoo編集部)

 勝股論説委員が言ったとおり、ちゃんとした解説記事として正しい情報を読者に提供するのであれば、適正報道委員会を設置した読売新聞として誠実な姿勢を示し、1月15日号(地対艦ミサイルが洋上を飛ぶ仕組み)で書いたような対艦ミサイルの飛び方について説明し、その点の確認が不十分だったと明記すべきだったのです。

 それが一切なく、「今のままでは、効果的な打撃を与えることは難しい」という言い方、それも「自衛隊の幹部は」という情報源すら不確かな、まだ自分が「百数十キロの射程を持ちながら外洋の敵艦艇を攻撃できない」と書いたのは間違っていないと言いたげな、負け惜しみが見え見えの記事は、とんでもないものです。

 実は、この記事が出た日、私は福岡県久留米市の陸上自衛隊幹部候補生学校で卒業生に講演したあと、幹部候補生学校の首脳たちと懇談しましたが、たまたま3人が陸上幕僚監部と統合幕僚監部で地対艦ミサイルを担当した専門家たちで、当然、記事が話題になりました。

 2月5日号で書いたような「P3Cからの敵艦の位置情報は音声が不明瞭で伝わらないことがある」といった現象は生じないこと、非常に精度高く命中するレベルにあることなどが詳細に語られ、高沢記者が情報源とした「地対艦ミサイル部隊の指揮官経験者」なる人物は地対艦ミサイルが配備される前後の試行錯誤期の古い経験しかない人物の可能性があるという結論に達しました。

 また、データリンクによって陸海空が統合される方向は当然のことですが、リアルタイムで情報が伝達されることはあっても、攻撃力においては現状と大きな差はなく、データリンクによって結ばれた段階でも現在の情報伝達システムは残存性の意味からも活用されるという話でした。

 この高沢記者は、自分では気づいていないようですが、ジャーナリストとしての資質を疑われるような記事を書いて、ことを誤魔化そうとしているのです。

 2月5日号でも述べたとおり、高沢記者は「いま出ている月刊『WiLL』を見て電話しています。認識が違っているようなので、ぜひ、お会いしてご説明したい」から始まり、誤報の訂正が先だと指摘すると開き直り、「私は当該記事を執筆するにあたって取材を尽くしており、内容に何ら間違いはないと考えております」といい、私が厳しい態度を見せ、社内からも誤報だと指摘されると引っ込む。私に会ったとき、土下座でもすれば訂正要求を引っ込めてもらえると思っているかのような体質を感じました。

 高沢記者は長野県の地方紙・信濃毎日新聞の出身で、読売新聞に中途採用され、努力したのだと思いますが、社会部記者として認められ、防衛大学校の研究科にも「留学」した経歴の持ち主です。防衛省担当というのは、高沢記者にとっては檜舞台でもあり、そうであればこそ誤魔化さず、謙虚に誤報を訂正し、飛躍のチャンスとすべきだったのですが、努力家にありがちな、自分が築いてきた立場を失いたくないとする、保身という名の落とし穴にはまってしまったようです。

 読売新聞の姿勢も「新聞は歴史の記録者」と謳った新聞倫理綱領にもとるような対応です。高沢記者の原稿をデスクが通したこと自体、信じられない思いです。誤報を訂正し、正しい情報を読者に提供することが目的であれば、あの記事を通し、高沢記者に「これで通るのだから、甘っちょろいものだ」と思わせたであろうことは、読売新聞の社内的ガバナンスのレベルが高くないことを物語っています。

 勝股論説委員が私に連絡してきたときに言っていた、「『WiLL』の記事を読んだ社内上層部に、『これをわかるのは社内にキミしかいない』と判断を求められ、『ウチ(読売新聞)が間違っています』と回答した」という現状も、国家社会の安全に関する重要テーマの担当者の層の薄さという点からみて、社会の公器を自認し、天下国家を論じる全国紙として、貧しすぎる実態と言えます。

 新聞の使命のひとつは、記事をもとにした国会質問が行われて議事録に残ったり、研究者の論文に引用されることを前提に、歴史的事実を正しく記録する点にあります。

 今回の誤報事件の一件は、いずれ読売新聞社内でも問題となることは避けられないと思いますが、放置すれば「読売新聞には朝日新聞を批判する資格はない」ということになるのを忘れないでもらいたいと思います。

* 編集注 この記事は、会員制メールマガジン『NEWSを疑え!』第372号(2015年2月19日号)より了承を得て一部転載しました。なお、本件については日本報道検証機構より読売新聞社に質問状を出していますが、まだ回答は得られていません。回答が得られ次第、公表します。

  • (初稿:2015年2月20日 18:45)
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タグ: 読売

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小川 和久

執筆者について
小川 和久

静岡県立大学特任教授、国際変動研究所理事長。

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