動物の世界では、メスが交尾直後に別のオスと交尾をすることがあります。自己の遺伝子を残すために、精子は別のオスの精子と競争しなくてはいけないわけです。この精子競争は様々な動物種で見られます。
精子競争
メスの生殖管の中で行われる、別のオスに由来する精子同士の受精を巡る競争のこと。
精子競争には大きく三つのタイプがある。チンパンジーのような精子の量による競争、カワトンボのような他のオスの精子を掻き出す器官の使用、ショウジョウバエの一種に見られる化学物質による他のオスの精子の抹殺である。
面白いことに、ショウジョウバエでは『中出しされたメスがその精子を能動的に排出する行動』が見られます。これはメスが受精したい精子を選んでいるということを示唆します。
なぜこの行動が起こるのかはよく分かっていませんでしたが、最新の研究によって精子排出行動を起こす神経回路が同定されました。簡単にご紹介致します。
神経ペプチドが精液排出行動を制御する
ショウジョウバエでは交尾後の精子が子宮から漏れ出さないように、生殖器の入り口に白い塊が作られれます。メスのショウジョウバエは、交尾後に自らこの精子漏れ禁止栓を外し、余分な精子を排出します。
見れる人には、論文のサプリメンタル動画を見て欲しい。本当にメスが自ら精子の蓋を外している。
研究者が性行為後のハエを注意深く観察したところ、ハエによって精子排出行動までには1~6時間程度のバラつきがあることが分かりました。
性行動は性ホルモンによって引き起こされます。そこでどのホルモンが精子排出行動に関わるか調べた所、Dh44 (ヒトの副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンに相当) が関与するのではないかと予想されました。実際、この遺伝子が関わる神経回路を活性化させると、精子排出行動までの時間が早まりました。
今回同定された神経回路が活性化されるメカニズムをもっと調べれば、メスが精子を選別するという、生物の興味深い仕組みが解き明かされるかもしれません。
終わりに
交尾後の精子が子宮から漏れ出さないように作られる栓はショウジョウバエで見られ、それに類するものがマウスやハムスターでも観察されます。しかしヒトでは見られないことは皆さんご存知の通りです。
なので今回の結果がヒトでどうこうってこともないですが、生物って面白いよね。
PS.蛍光タンパク質の技術を使ってハエの子宮内で動く精子 (緑) を可視化した動画を貼っておきます。美しい。
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