
2月18日放送
戦後70年・摩擦社会を生きる(3)“ほめられたいニッポン”

首都圏放送センター
本間 由紀則
今回は、日本で起きている「ある現象」についてお伝えします。
それは、インターネットで広がっている「外国の人たちにほめられたい」という風潮です。
動画投稿サイト「ユーチューブ」に、例えば「日本」「すごい」と打ち込んで検索すると、日本人が外国からほめられていることをみずから紹介する動画が続々と出てきます。
“ほめられたいニッポン”。
その背景に、何があるのでしょうか。
新宿にある百貨店です。
日本を訪れる外国人観光客の人気を集める意外なものは、購入した品を包むラッピングです。
店員さんが手早く、しかも丁寧に包むこの早業。
私たちには見慣れた光景ですが、これに驚いた外国人が、インターネットに動画を投稿しました。
その動画を見た、ほかの外国人も絶賛。
「That is so cool(かっこいい!)」「「This is amazing(びっくり!)」と書き込まれました。
日本が誇る新幹線も。
駅を通過する新幹線のスピードに興奮する外国人女性の動画です。
アクセスは370万件に達しています。
こうした動画、実は日本人も注目しています。
「これが日本の技術だ!」「俺ら凄い国に暮らしてんだぜ!」。
外国人が驚く姿を見て、日本人がコメントを書き込みました。
まるで自分がほめられたかのようです。
インターネットの動画サイトには、ほめられたことを紹介する動画が、数多く投稿されています。
いま“ほめられたい日本”が、あふれています。
日本がほめられていることを記事にして、配信している会社もあります。
その1つを訪ねました。
東京・六本木にある情報サービス会社です。
海外の政治や経済から日本をほめる記事まで、日本人に向けて幅広く配信しています。
力を入れているのは、中国を中心としたアジアの国々の記事です。
その一つ、タイトルはズバリ『中国に帰りたくなくなった』。
中国人観光客が日本人の礼儀正しさを気に入り、「帰りたくなくなった」というのです。
情報サービス会社・モーニングスターの朝倉智也社長は「中国、台湾、韓国の方に非常にほめていただく。それを日本人が記事を見て『あっ』と改めて気づいて。そういった記事が、非常に人気を集めています」と話しています。
どうやってこうした記事が作られるのか。
この日開かれていた編集会議。
いま中国のインターネット上で日本の何が注目されているのか、気になるキーワードを報告しあいました。
「テレビなどで家電の“爆買い”が話題になっていますね、中国系の」。
「特にあれ、便座でしょ」。
「便座、炊飯器、その他」。
この会社では、ブログやツイッターなどに書かれているさまざまな情報を、語学が堪能なスタッフが集め、翻訳します。
その情報をひとつの記事にまとめ、ホームページに掲載するのです。
アクセス数は1か月に1億近く。
閲覧が多いほど、広告収入が増える仕組みです。
朝倉社長は、アクセスが集まる記事にはいくつかの定番があるといいます。
「中国人の技術者が『非常にすばらしい』と感心してます」。
その1つが、日本の技術力をほめる記事。
見出しには「日本製家電に苦渋の脱帽!『すごすぎる。作れない』と中国人技術者」とあります。
中国の家電メーカーの技術者が、研究のため日本の炊飯器を持ち帰ったという内容の記事です。
最近、アジア勢に押されがちな日本の製造業。
それでも、その技術はまだまだ優れているという事実が、自尊心をくすぐるのではないかといいます。
朝倉社長は「ちょっと前までは、日本が圧倒的にすごい力を持っていたのが、『われわれ大丈夫なのか』という意識が、すごくあると思う。日本人が、なかなか自分に自信が持てない状況ですから、海外から評価してもらって、改めて自分の国のよさ、自分の文化のよさが分かってくると思う」と分析しています。
30年余り前にも、外国人が日本を賞賛しベストセラーになった本があります。
「ジャパンアズナンバーワン」。
日本が一番、という本です。
終身雇用や年功序列など“日本型経営”が高く評価された内容です。
当時は、日本経済の黄金期ともいえる時代で、日本から学ぼうという外国からの反応に、自信を深めた人も多かったのではないでしょうか。
しかし、バブル経済が崩壊し“失われた20年”を経て、経済の規模で中国に追い抜かれて、30年前と今とでは状況が大きく変わりました。
経済面でのかつての勢いは失われていますが、多くの外国人観光客が来て、日本の文化を驚きをもって発見し、ほめてくれる。
こうした背景が、今の現象につながっていると思います。
日本のよさを再発見するといのはいいことだと思いますが、ただちょっと、自画自賛しすぎるのもどうかなというところもあります。
こうした現象について、日本に滞在して20年以上のタレント「パックン」こと、パトリック・ハーランさんは、次のように指摘しています。
「日本のいいところを認めるのも大事です。ただし、ほかの国々を見下すとか、けなすような展開になってしまうと、それは自分のためにもならないし、相手のためにもならない。特に周辺諸国に対する意見が、厳しいと感じることも多いですね。
上からではなく『対等の付き合い』。日本のいいところを紹介しながら、向こうのいいところを受け入れる。逆に日本のだめなところに対する『ダメ出し』も寛大に受け入れて、向こうの注意すべき点を、優しく友達のつもりで教えてあげるのも、大事だと思う」。
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