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旅券返納命令―主要メディアはいかに報じたか

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日本報道検証機構, 2015年2月18日

シリアへの渡航を計画していたフリーカメラマンに対し外務省が史上初めてとなる旅券返納命令を出した問題は、ジャーナリストの取材活動や渡航の自由との関係で議論を呼んだ。主要紙はこの問題をどのように報じたか。メディアは危険地取材の役割とどう向き合っているのか。各紙報道を検証した。(原則として東京本社発行最終版。新情報が入り次第、随時更新します。「イスラム国」(ダーイッシュ、イスラミック・ステート)と称される組織については「ISIL」と表記します。)

<関連記事>

  • 旅券返納命令 「イスラム国支配地域めざす」とミスリード (GoHooレポート 2015/2/9)
  • 朝日がシリア現地ルポ連打、産経は政府の「懸念」強調―問われる危険地取材 (GoHooトピックス)

【概観】

(以下、2015年2月17日現在。2月8日は休刊日のため9日付朝刊は発行されていない)

外務省は2月7日、シリアへの渡航を計画していた新潟県在住のフリーカメラマン、杉本祐一氏に旅券法の規定に基づく旅券の返納を命じ、受領したと発表したことを受け、主要各紙は8日付朝刊で第一報を出した(ニュースサイトの第一報は7日)。最も大きく報じたのは朝日で、杉本氏が難民キャンプを取材予定でISIL支配地域に入るつもりがなかったことなどを社会面で詳報。読売、毎日も杉本氏のコメントを短く載せたが、産経は杉本氏が取材目的だったことにも触れず、ISIL支配地域を目指す渡航だったかのように伝えていた(→GoHooレポート)。

主要各紙は続報で、政府が初の旅券返納命令を出した経緯とともに、報道の自由・渡航の自由との関係で議論があることを詳しく報じた。

旅券返納命令が妥当だったかどうかについて、朝日を除く各紙が社説で10日から11日にかけて論評。読売と産経は今回の返納命令を「妥当」とした。毎日は渡航中止要請はやむを得ないとしつつ、返納命令という手法は「残念」「例外的にとどめるべき」と評した。東京もジャーナリズムの立場を強調し「政府の言い分に安易に寄り添うわけにいかない」と論じた。朝日は社説で取り上げなかったが、解説記事を載せた。

欧米での事情や日本政府の対応についての見方は、朝日と東京が報じた。

【各紙社説】

  • <読売>旅券返納命令 シリアの危険考えれば妥当だ (2015/2/11)
  • <朝日>なし
  • <毎日>旅券返納命令 前例にしてはならない (2015/2/10)
  • <産経>旅券返納命令 国民を守る判断は妥当だ (2015/2/11)
  • <東京>旅券返納 渡航の自由どう考える (2015/2/10)

【読売新聞】

第一報は2月8日付朝刊の社会面に掲載し、外務省と警察庁が杉本氏(第一報では匿名表記)に再三渡航のとりやめを求めていたと指摘する一方、杉本氏が「イスラム国支配下から逃れてきたクルド人難民らを取材する計画だった」などとISIL支配地域以外を取材する目的だったことも伝えた。

9日付夕刊で菅義偉官房長官の会見での発言を短く伝え、1面コラム「よみうり寸評」で「命か、憲法が保障する渡航の自由か、議論するまでもないだろう。“蛮勇”が途方もない代償を払うことを思い知ったばかりだ」と政府の措置を全面的に支持。

10日付朝刊では「旅券返納 外務省『例外的』 関係者意見分かれる」と見出しつけ、杉本氏の取材計画や返納命令に至る経緯を振り返りつつ、紛争地取材経験のあるジャーナリスト2人のコメントを掲載(返納命令はやむを得ないいう立場と報道への影響を懸念する立場)。裁判所で命令の妥当性が争われた場合「裁判所は難しい判断を迫られるだろう」という憲法学者のコメントも載せた。

11日付社説では「シリアの危険考えれば妥当だ」と見出しをつけ、「一民間人が自らの安全を確保できると考えていたら、認識が甘く、無謀」と指摘。杉本氏が法的措置を検討していることについても「おかしい」と疑問を呈した。

12日、杉本氏が外国特派員協会で会見したことについては、同日付夕刊で取り上げ、「大変驚き」「報道に自由、取材の自由を奪われることを危惧している」と話したことを報じたが、扱いはベタ記事(見出し1段)だった。

【朝日新聞】

第一報は2月8日付朝刊の1面と社会面に掲載。社会面では「旅券返納『自由奪う』 カメラマン、難民キャンプ取材予定」と見出しをつけ、紙面を大きく割いて杉本氏の取材計画やコメントを詳報。外務省・与党内で渡航制限の意見を強まっていたことを指摘し、ジャーナリストや識者3人のコメント(懸念論が2人、容認論が1人)を掲載した。

9日付夕刊でも1面と社会面で、杉本氏のインタビューをもとに取材計画や旅券返納に応じた経緯を詳報。杉本氏が返納に応じなければ「逮捕もありうる」と示唆されたことも伝えた。ただ、菅官房長官が9日の会見で「その場で逮捕するとは言っていない」とコメントしたことは記事化していなかった。

10日付朝刊も3面の大半を使って詳報。返納命令の政府対応を検証し、杉本氏がISIL支配地域など「危険な地域に行く蓋然性が高い」と外務省が判断したことなどを伝える一方、杉本氏がISIL支配地域に入る予定がなかったことも掲載。また、米国やフランスではジャーナリストの取材渡航が制限されておらず、政府が危険地取材の講座を設けている例なども紹介。識者の賛否両論も掲載した。

12日の杉本氏の記者会見はニュースサイトで報じたが、紙面では新潟県版のみに掲載。13日付朝刊では「外務省の旅券返納命令、問題ないの?」と題し、改めて返納命令の経緯や政府対応、杉本氏の主張などをまとめて解説した。ただ、社説では立場を明らかにしていない。

【毎日新聞】

第一報は、8日付朝刊1面に掲載したが、基本的な事実関係と杉本氏のコメントが短く掲載された。9日付夕刊では社会面で「写真家『報道の自由侵害』」と見出しをつけ、杉本氏の取材計画や旅券返納経緯、官房長官の会見を報じた。

10日付朝刊では「保護規定を初適用 政府、人質事件で方針転換」と見出しをつけ、政府が旅券返納命令を過去の判例も踏まえて検討したことを詳報。一方で、取材の自由との関係で慎重もしくは批判的な立場を示した識者2人のコメントも掲載した。

10日付社説でも「前例にしてはならない」との見出しで取り上げ、渡航中止要請はやむを得ないとしつつ、返納命令という手法は「残念」「例外的にとどめるべき」と評した。

12日の杉本氏の記者会見の内容は、13日付朝刊で写真つきで掲載。「旅券を失うことは、フリーカメラマンの仕事を失うことであり、人生そのものが否定されることだ」という訴えや、いやがらせ電話があることを詳しく伝えた。

【産経新聞】

第一報は2月8日付朝刊3面に掲載したが、杉本氏の取材目的や渡航計画については触れず、外務省幹部のコメントを引用する形で、ISIL支配地域をめざす渡航であるかのように報じていた。共同通信が杉本氏に取材した記事は7日に配信されていたが、ニュースサイトに掲載されただけで、紙面化していなかった。

10日付朝刊の続報では「『国民保護は国の責任』」という見出しで、菅官房長官の会見内容や旅券返納命令を出した外務省の立場を詳報。やはり、杉本氏の取材目的や渡航計画については一切触れておらず、コメントもなかった。

11日付社説は「国民を守る判断は妥当だ」との見出しで、「計り知れない危険を前に、やむを得ない措置だった」と指摘。一方で「これを前例に同種の命令が乱用されるようなことがあれば、強く批判する。メディア規制のため、恣意的に運用することは許されない」とも論じた。

同日付朝刊1面コラム「産経抄」でも、「今回の政府の取った措置は、やむを得なかった」としつつ、「紛争地域の現状を伝えたかったという、男性の無念はわからないではない」「『生命の保護』を理由にした記者の渡航禁止を、無制限に受け入れるわけにはいかない。『報道の自由』を持ち出すまでもなく、メディアの死を意味することになる」とも書いた。

産経が杉本氏の渡航計画や主張を紙面で取り上げたのは、13日付朝刊の外国特派員協会の会見に関する記事が初めて。同時に「返納命令は妥当な判断」とする識者1人のコメントと、杉本氏に「逮捕」を迫っていないとする外務省幹部のコメントを伝えた。(東京本社版は朝刊のみ)

【東京新聞】

第一報は2月8日付朝刊1面に大きく掲載し、杉本氏が共同通信の取材に答えた渡航計画なども詳報した。「渡航の自由 憲法が保障」と題する解説も載せ、「憲法の理念が損なわない慎重な対応が求められる」と指摘した。「返納しなければ逮捕する」という趣旨のことを言われたことも大きく報じ、強制性を強調。社会面の編集日誌には「渡航や報道の自由とも絡み、大きな議論となる問題です。担当デスクが集まって協議。1面トップと決めました」と書かれていた。

9日付夕刊の続報では、菅官房長官が「その場で逮捕するとは言っていない」とコメントしたこと等の会見内容を報じた。あわせて、「旅券返納 カメラマン怒り」との見出しで、杉本氏の言い分をもとに返納命令の経緯を報じ、政府対応を批判したコメントも載せた。

10日付朝刊では2面で「『邦人保護』か『渡航の自由』か 杉本氏 異議申立て、提訴も」と見出しをつけ、邦人保護を優先した政府と杉本氏のそれぞれの立場について詳しく報じた。

社説は10日付で「渡航の自由どう考える 」との見出しで掲載し、冒頭で「目的地は過激派『イスラム国』の支配地域ではない。憲法が保障する『渡航の自由』は、十分に尊重されねばならない」と指摘。「ジャーナリズムの役割は、人々の目となり耳となって、注目すべき事象を取材し、伝えることである。仮に危険と隣り合わせであっても、個人の判断やメディア側の判断でその地に足を踏み入れてきた」「政府の意向が介在すれば、闊達(かったつ)たるべきジャーナリズムの精神は著しく毀損される」とも指摘。「政府の言い分に安易に寄り添うわけにはいかない」と論じた。

11日付朝刊では、「『旅券返納 日本の対応異例』」との見出しで、米国報道団体が日本政府の対応を疑問視していることを報道。

12日付夕刊で、同日行われた杉本氏の記者会見の模様を報じた。

  • (初稿:2015年2月18日 18:34)
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日本報道検証機構

民間の第三者機関として、報道の正確性・信頼性の向上を促進するために活動する非営利の一般社団法人。2012年11月設立。

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