作家の本棚|倉阪鬼一郎(くらさかきいちろう)
Profile
倉阪鬼一郎(くらさかきいちろう)
1960年、三重県伊賀市生まれ。
1987年、短篇集『地底の鰐、天上の蛇』でデビュー。1998年より専業作家。ホラー、ミステリー、幻想、ユーモア、SFなど多彩な作品を精力的に発表。近年は時代小説の文庫書き下ろしが多く、著書数は110冊を超える。
ほかに俳句、翻訳、散文詩なども手がける。趣味はマラソン(ベストタイム3時間39分00秒)、トライアスロン、乗り鉄、囲碁、将棋、料理、作曲など。
代表作と、その作品についての思い
読む音楽を志向する交響曲シリーズの第2番。
千枚超の大作は、シリーズ物を除けばいまのところこれだけ。純愛ノワールと銘打たれた少年少女の暗黒の遍歴物語。
この作品を執筆することによって、ある精神的危機を乗り越えられたような気がします。
倉阪鬼一郎のすべての作品はコチラ
倉阪鬼一郎の本棚
「クラニーの1ダース」ということで、幅広く12冊選んでみました。
まずは詩集です。私が散文詩を書きはじめたのは明らかに粕谷栄市さんの影響です。人生の胸苦しさと仄暗い永遠の消息とそこはかとないユーモア。どれもが素晴らしい。いずれ粕谷さんの全詩に俳句を付けたいなと思っています。
悪霊―詩集
粕谷栄市その俳句からは、同人誌「豈」に誘ってくださり、歌舞伎町句会で謦咳に接していた攝津幸彦さんの全句集を。残念ながら攝津さんは早逝してしまいましたが、その作品は永遠に解けない謎めいた光を放っています。
南国に死して御恩のみなみかぜ
生き急ぐ馬のどのゆめも馬
羽根枕破れて低き讃美歌よ
攝津幸彦全句集
攝津幸彦詩と俳句という短詩型文学の流れで短歌も。旧版の雁書館版は茅ヶ崎市立図書館で偶然手に取りました。難病で夭折した中澤さんは茅ヶ崎の出身、私も同市在住のため線が交わったのです。
一読忘れられない短歌に慄然としました。厳選三首。届くべき人には届くはずです。
3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって
牛乳パックの口をあけたもう死んでもいいというくらい完璧に
ぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわ
中澤系歌集『uta 0001.txt』(2015年春、双風舎より新刻版刊行予定)
中澤系国書刊行会から新装版の全集が出ていますし、各種の文庫でも十蘭の短篇は読むことができます。しかし、この一冊なら何度も繙いた三一書房版を。十蘭の文章のリズム、ことにその節回しに慣れてしまうと、ほかの作家の小説が読めなくなってしまうのが難点かも。
久生十蘭全集 2
久生十蘭同じ著者の『しあわせの書』は各種のベストアンケートで挙げてきました。そちらの暗号に関しては私なりに越えられたのではないかという自負はあるのですが、この作品をいったいどうすれば越えられるのか、かなり前から突きつけられている超難問です。
生者と死者―酩探偵ヨギガンジーの透視術
泡坂妻夫海外文学からはまずこの叢書を。のちに怪奇小説に熱中し、翻訳まで手がけることになったのですが、その原点はここにあります。
怪奇小説傑作集(全五巻)
「老後の楽しみ」と称して一時期買い漁っていた洋書から一冊だけ。まだ「夢魔の家」しか訳していませんが、老後に全訳を手がけるのなら独特の悪夢の手ざわりが何とも言えないこの作家かな。
18 SHORT STORIES. Lukundoo And Other Stories
エドワード・ルーカス・ホワイト世代的にヌーヴォー・ロマンの洗礼を受けているのですが、一冊に絞ればこれ。絵画では抽象画が好みなのですが、読む抽象画で音楽でも哲学でもある稀有な作品です。同じ著者の『発熱』もいい。
物質的恍惚
ル・クレジオ表現主義の画家でもあった作者一代の奇作。作者自作の暗い絵が52点も挿入されていて雰囲気を盛り上げています。ラストの一行を読み終えたときは頭が爆発するかと思ったほどの怪作。同じ表現主義なら、ゲオルク・ハイム『モナ・リーザ泥棒』(河出書房新社)も忘れがたい暗黒の作品集です。
対極―デーモンの幻想
アルフレート・クービンまさに極北の幻想SF。暗色ながら澄み切った音楽を聴いたかのような感動を覚えました。サンリオSF文庫版、バジリコ版ともに入手困難だったのですが、ちくま文庫で手軽に読めるようになります。ぜひご一読を。
氷
アンナ・カヴァン地図帳を見ているといくらでも時間をつぶせるのですが、これは時代小説を書くときに頻繁に使っている一冊。江戸の切絵図と現代の地図が重ね合わされているため、情報量が多くて重宝しています。無人島へ持っていくなら、こういう本がいいかもしれませんね。
復元・江戸情報地図
吉原健一郎最後はエッセイ・評論等から迷いに迷って一冊。寸鉄人を刺す箴言と、簡にして要を得た行間を読ませる文章。存命中はずいぶん愛読していたものです。「人生は些事から成る」をはじめとする電光石火のごとくに伝わる山本夏彦翁の言葉の力で、寿命がだいぶ延びたような気がします。