はやぶさ2:<そこが聞きたい>はやぶさ2 探査の意義 渡辺誠一郎氏

2015年02月11日

名古屋大・渡辺誠一郎教授
名古屋大・渡辺誠一郎教授

 ◇「前生命」環境解明狙う−−名古屋大教授・渡辺誠一郎氏

 昨年12月に打ち上げられ、2018年の小惑星到着に向け順調に飛行する小惑星探査機「はやぶさ2」=1。科学観測・研究の責任者を務める渡辺誠一郎・名古屋大教授(50)に探査の意義などを聞いた。【聞き手・大場あい、写真・兵藤公治】

−−はやぶさ2プロジェクトは何を目指していますか。

 一番の目玉は、目的地の小惑星「1999JU3」=2=で試料を採取し、地球に持ち帰ることです。初号機になかった「衝突装置」を搭載し、クレーターを作って、宇宙線や太陽加熱の影響の少ない内部の物質を世界で初めて採取することを計画しています。クレーターを作る様子は分離カメラで撮影し、画像を地球に送ります。

 プロジェクトが目指すものは、目的地がどんな天体なのかを明らかにする「小惑星の科学」ではなく、「小惑星からの惑星科学」と位置づけています。最終的に、約46億年前に太陽系がどのように誕生し、地球で生命がどうはぐくまれたのかという大きな流れを理解したい。地球以外のいろいろな天体に行くことができればいいのですが、お金も時間もかかります。今回の成果を、海外の探査や地上での実験、コンピューターシミュレーションなどと組み合わせ、太陽系全体の科学の進展に貢献したいと考えています。

−−国内外約200人の研究者の取りまとめ役を務めています。

 大きな目的があるので、小惑星を専門にする人だけではなく、月や火星に関心がある人など、幅広い分野の人が参加しています。おかげで、さまざまな角度から探査のサイエンスを検討することができました。

 また、プロジェクトのメンバーと、(参加していない人も含めた)研究者コミュニティーの間を常につなぐことを心がけています。そうしないと、内輪の議論だけでプロジェクトが進んでしまい、見落としがあったり、場合によっては人手が足りなくなったりして、十分な成果が上げられなくなる危険があります。

 20年の帰還まで、まだ5年以上かかりますし、試料の分析にはその後何年もかかるので、後継者の育成がとても重要です。研究者コミュニティーをつなぐことで、裾野が広がり、ミッションを続けてくれる若手を育てることにもつながっていきます。

−−米航空宇宙局(NASA)も来年、別の小惑星から物質を持ち帰る探査機の打ち上げを予定しています。こういった探査の積み重ねで、生命の起源を明らかにできますか。

 2、3の探査プロジェクトで解明できるほど小さな問題ではありませんが、探査という手法の積み重ねなしに答えは得られません。私たちは、その第一歩として、生命が誕生する前(前生命)の環境を調べることが非常に大事だと思っています。地球では、植物が水と二酸化炭素を取り入れて光合成で有機物をつくり、酸素を出します。その酸素を使って動物が呼吸をするといったように、物質循環、特に有機物の流れに必ず生命が関わっています。生命がいない時代にも有機物はありましたが、そのときの物質循環はまだ分かっていません。

 火星など太陽系の他の天体に、生命は存在しないのかもしれませんが、有機物があることは確認されています。少なくとも前生命的な環境の変化が起こり、生命が関わらない方法での物質循環があるはずです。1999JU3にも有機物や水があると考えられています。こうした天体の探査で、地球と違う物質の流れが分かれば、私たちは地球で生命が生まれる前と同じ状況を、初めて実例として見ることができるわけです。地上でいくら実験を繰り返しても解明できない、探査だからこそ得られる成果になると思います。

−−今年1月に政府が決定した新たな宇宙基本計画では、宇宙科学・探査が軽視されているのではないかと、懸念する声があります。

 科学・探査に一定規模の資金を確保すると明記されていますし、今まで以上に推進していく方針と受け止めています。ただし、「当面こういうことをやる」とは書いてはありますが、なぜ宇宙に出て行くのかという国家的なビジョンの説明が弱い。国際的にどういう役割を担っていくかという戦略も不十分です。

 宇宙科学は、お金をかけなければできないビッグサイエンスの最たるもので、はやぶさ2の場合、打ち上げ費用を含む機体の開発費だけで約289億円です。国が投資しなければ持続することは不可能です。科学者は、科学的探究心に突き動かされて研究しています。しかし、厳しい財政事情の中で投資の対象として選ばれるには、科学者が判断する価値に加えて、政策的動機も満たされる必要があります。

 そのために、国民が納得する大きなビジョンが重要なのです。例えば「(火星など)深宇宙への港として月面に基地を造りたい」というような、人類として目指す方向性を描けば、日本のように高い技術を持った先進国の役割は明確です。おのずと、国としての政策は明確になり、実現に向けて宇宙科学の重要性が認識されるはずです。

 ◇聞いて一言

 「生命と非生物の間に大きな違いがあるのは地球での常識。生命がいないところでは、きっと『大きな崖』はないのでは」(渡辺さん)。研究者ではなくても、生命の起源に関心を持つ人は少なくない。宇宙探査は、自然にわき上がる疑問に答えを出してくれるかもしれない貴重な手段だ。

 初号機の打ち上げからはやぶさ2の出発までに11年半かかった。政府や研究者がなぜ必要かを明示した上で、日本も絶え間なく探査に挑む環境を整備すべきではないか。

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 ■ことば

 ◇1 はやぶさ2

 世界で初めて小惑星の微粒子を持ち帰った探査機「はやぶさ」の後継機で、機体の約7割が更新された。重さ約600キロ。今年末に地球の重力を利用して加速する「地球スイングバイ」を実施し、目的の小惑星を目指す軌道に入る。さらに太陽を約2周し、2018年夏に目的地に到着する予定。20年末の地球帰還までの総航行距離は約52億キロ。

 ◇2 1999JU3

 地球と火星の間にある小惑星。米マサチューセッツ工科大のチームが1999年5月に発見した。火星と木星の間にある小惑星の故郷「小惑星帯」で誕生し、他の惑星の影響を受けて、地球に近づいたと考えられている。球形に近いサトイモのような形で、直径約900メートルと推定されている。1999JU3は、発見時期などに基づく仮称。

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 ■人物略歴

 ◇わたなべ・せいいちろう

1964年生まれ。東京大大学院博士課程中退。理学博士。山形大助手、名古屋大准教授などを経て、2008年から現職。専門は惑星科学。

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