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この時代が生んだ「かけがえのない」音楽の形 fhánaインタビュー

インタビュー・テキスト:金子厚武(2015/02/04)

「『僕ら』を象っていた哲学はもう消えた」。これは2006年からFLEETとしてメジャーで活動していたfhánaの佐藤純一が2011年に発表した初のボーカロイド楽曲“Cipher”の一節である。もう何度繰り返されたかはわからない、インターネット時代の突入に伴う「価値観の多様化」を鋭く指摘した一節であるが、あれから4年が経ち、fhánaとして活動を続けてきた佐藤は今「それでも、人間の本質はそんなに変わらないのではないか?」と提案する。ただ心の奥底へと到達するまでのルートが、複雑化しただけなのではないか? と。fhánaのファーストアルバム『Outside of Melancholy』は、そんな心の奥底で、「憂鬱の向こう側」で、他の誰でもない「僕」が「君」に発見されるまでの、かけがえのない物語だ。 眼前には無数の世界が、キラキラと輝いている。

さて、物語の詳細はインタビューに譲るとして、とにもかくにも、fhánaのファーストアルバムが遂に完成した。これまでに担当したアニメ主題歌5曲を含む、全14曲70分超の大作であり、第一期fhánaの集大成と言って差し支えないだろう。バンド、ボーカロイド、ネットレーベルという出身の違いを背景としたジャンルレスな音楽性と、それを包括するようなエバーグリーンなメロディーは、「アニソン」の枠を超えてより広く響き渡り、分断された音楽シーンを繋ぐ役割をも果たすかもしれない。軽々しく使いたくはないのだが、やはり「時代の寵児」という言葉がしっくり来る、そんな存在なのだと思う。

PROFILE

fhána(ふぁな)
“FLEET”としてYouTubeやMySpace時代到来前よりインターネットを拠点に楽曲を発表、メジャーからも音源をリリースしてきた佐藤純一、クリエイティブサークル”s10rw”を立ち上げ、ニコニコ動画ではVOCALOIDをメインボーカルに据えて楽曲を発表しているyuxuki waga、そしてネットレーベルシーンから登場したエレクトロニカユニット”Leggysalad”のkevin mitsunagaという、サウンド・プロデューサー3名で結成。2012年秋には、ゲスト・ボーカルだったtowanaが正式メンバーとして加入し、4人体制へ。2013年夏、TVアニメ「有頂天家族」のED主題歌『ケセラセラ』でメジャーデビュー。2014年11月5日にTVアニメ『天体のメソッド』ED主題歌『星屑のインターリュード』をリリース。
fhana.jp

いろんな人生の可能性があった中で、こうでしかありえなかった自分って、かけがえのないものだと思うんです。(佐藤)

―ファーストアルバム、70分を超す大作になりましたね。カップリングも含め、5枚のシングル曲をどうまとめるかを考えた結果、このボリュームになったのかと思うのですが、実際サイズ感に関してはどのようにお考えでしたか?

佐藤(Key,Cho):好きなアーティストのファーストアルバムって、ボリュームのあるものが多かったので、そうしたいとは思ってました。実際の収録曲とか曲順に関しては、作りながら考えていったというか、このアルバムの持つ世界観とか意味合いっていうのが、だんだんと見えてきたっていう感じです。

―アルバムの全体像が見えたのは、どういうきっかけだったんですか?

佐藤:まず、表題曲の元ができたときに、「メランコリー」とか「憂鬱の何とか」っていうタイトルにしようと思ったんです。誰しも憂鬱を抱えてると思うんですけど、「憂鬱の外側、向こう側に行こう」っていう、そういう想いをテーマにした曲にしたいなって。

―なぜ「憂鬱」がテーマになったんですか?

佐藤:「憂鬱」って、人それぞれの心の深い部分にあるものだから、そういうところと繋がれるような作品にしたいと思ったんですよね。あと、そもそもfhánaって、結成のきっかけのひとつがノベルゲームが好きで意気投合したということもあり、「並行世界」とかが出てくるような「ループもの」的な世界観に影響を受けていて、そういうものと、僕らがメジャーデビュー以降に作らせていただいてきたアニソンと、その両方の世界観をひとつにしたかった。そういうコンセプトで林(英樹 / fhánaの楽曲の作詞を担当)くんに歌詞を依頼したところ、“Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~”があがってきて、この歌詞を見たときに、一気にアルバムの全体像が見えたんです。


―1曲目の“Outside of Melancholy~”と、アルバム最後の“white light”にはリンクがあり、ループをしていて、その間にいろいろな並行世界が広がっているような印象を受けました。

kevin(PC,Sampler):まさに、そういう狙いでした。

佐藤:ノベルゲームって選択によってその後の展開が変わって別々なエンディングを迎えるんですけど、でもそれって、ゲームやアニメやSF小説だけのことではなくて、現実の世界も同じだと思うんです。みんなそれぞれ生きていくうえで、いろんな選択をしながら生きてるわけじゃないですか? それは「就職か、進学か」みたいな大きな選択じゃなくても、日々ちょっとした選択の積み重ねで今があって、その選択次第によっては、今の自分とは違う自分も存在し得たというか、ホントはみんなどうとでもありえたわけですよね。それこそ、“いつかの、いくつかのきみとのせかい”(アルバム収録曲で、テレビアニメ『僕らはみんな河合荘』オープニング主題歌)じゃないですけど(笑)。

―まさに、それですね(笑)。

佐藤:ただ、可能性としてはどんな人生もありえたんだけど、現実としては、今の自分は今の自分でしかありえないわけじゃないですか? そこで「ホントはこうじゃない方がよかった」って憂鬱を感じる人もいるかもしれないけど、いろんな人生の可能性があった中で、こうでしかありえなかった自分って、取り替えることの出来ない、かけがえのないものだと思うんです。それこそが「憂鬱の向こう側」なんじゃないかって、「この僕」と「この世界」を肯定しようっていう想いが込められたアルバムなんです。


―「いかに自分を肯定するか」っていう、まさに心の奥底に触れるようなテーマですね。

佐藤:なおかつ、fhánaがこれまで主題歌を担当してきたアニメのストーリーも、fhánaという大きな物語の中の可能性のひとつなんだっていう、fhánaとしてのアイデンティティーを僕たち自身が発見したアルバムでもあるんです。ちなみに、アルバムのブックレットには、最初と最後にちょっとした文章が載っていて、それがアルバムの世界観を示唆する内容になっているので、それも含めて楽しんでほしいです。


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