聞き手・福田直之
2015年1月21日11時34分
■金融政策 私の視点
――2013年春から2年程度で物価上昇率2%を目指す日本銀行の物価目標は、達成できるでしょうか。
「2%まではなかなかいかないかもしれない。最終目標の雇用がよくなっているなら、そんなにこだわらなくてもいい。大事なのは景気が良くなることで、2%というのは金融政策でそのくらいにしたほうが雇用が良くなるという経験則があるからだ」
「ただ、現在の1%程度より、もっと上げる必要はある。そのためにはさらなる緩和が必要だ」
――すでに年間の新規国債発行額とほぼ同額まで買ってしまっています。さらに買うことはできますか。
「国債には毎年発行される分だけでなく、1千兆円の残高があるからまだ買える。国債は日本人全体の借金だ。それを買っているわけだから、日本人に恩恵を与えている」
「むしろ、株価に連動する上場投資信託(ETF)などはだんだん買いづらくなるだろう。株は国債よりも価格が変動するリスクは大きいし、公平感は薄い」
――日銀は昨年10月に原油安で人々が物価が上がると思うのが遅くなるのを防ぐため追加緩和をしましたが、適切だったのか議論があります。
「原油価格が下がるのは日本にとって利益。原油安が原因なら、デフレ脱却や消費者物価の2%上昇が遠のいてもいい」
――「物価が上がる」と人々が思う「インフレ期待」は、日銀の狙い通り醸成されていますか。
「大規模な金融緩和をする前にマイナス0・5%だった物価上昇率が1%超まで上がったのだから、インフレ期待は生じている。ただ、下がってはいけない。1%からさらに上がっていくと思ってもらうように、追加緩和をすればいい」
――日銀も期限を定めず緩和すると言っていますが、それでは国債購入の際限がなくなりませんか。
「さすがにいつかは2%の物価上昇を迎えるだろう。そのときに静かに金融緩和を縮小すればいい。2%の物価目標は金融緩和の行き過ぎを抑える歯止めにもなる」
――金融緩和の結果、円安が進んでも、期待していたような輸出増につながっていません。
「期待していた効果は出ていない。ただ、金融緩和に反対していた人たちは、円安になったら世界貿易戦争が起きると言っていたが起きていない。確かに私も輸出は増えると思っていて間違えたが金融緩和の反対派はもっと間違えている」
「効果が出ない主要な原因はリーマン・ショック後の日銀の対応だ。他の国がものすごい金融緩和をしていたのに、日本はしていなかったから円高になった。工場が海外に移転してしまって空洞化が進んだのが原因だ。もう一つの原因として、輸出先の海外の景気が良くないという点もある」
「円安になって輸入品が高くなっているが、その輸入品を加工することで、従業員への賃金を上乗せして売るのだから、この分は円安による値上がり分より基本的に大きいはずなので問題はない」
――円安はこれ以上進んでもいいのでしょうか。
「いくらがいいかという答えは、日本が完全雇用になるような為替レートが良い。つまり、人手を雇うことで、仕入れたものを加工し、その分の賃金を上乗せできているだから、人がいなくなったらこうした上乗せができなくなる。完全雇用になった後の円安は損だ。ただ、完全雇用の失業率は直近の3・5%程度より低い2%台だ」
――政府の新たな経済対策は、金融政策の効果を強めることになりますか。
「少ないお金でみんなが喜ぶようにしないといけない。公共工事はお金がかかりすぎる。鉄とかコンクリートになるだけだ。人手不足なのだから、公共事業をする必要性は薄れている」
「むしろ、補助金を配る方がお金がかからなくていいと思う。子どもや子育てについては、赤字財政だけどしっかりやると言えばいい。また、高齢社会に向けてお金がかかるのだから、使わないで国債発行額を少しでも減らすべきだ」
――金融緩和で日銀が国債を大量に買うので金利が上がりません。政府は気軽に国債を発行できるので、財政再建に悪影響では。
「自然増収でも増税でもお金が入ってくれば使ってしまう。政府がお金を使ってしまうのは、国債を発行するときだけではない。対策としては、小泉純一郎首相の時のように、まず支出を決めて財政運営をしなければいけない」
――安倍晋三首相による消費増税の延期はどう見るか。
「4月の消費増税の反動は大きかった。もう一度増税をしたら、また景気が悪くなると首相は思ったのではないか。増税で景気が悪くなったらアベノミクスの失敗と思われる。アベノミクスは消費増税とは関係ないと言っても、聞いてもらえないだろう」
――仮に日銀が物価目標を達成して、国債を買う量を減らせば、日銀が持っている国債価格も理論的には含み損を抱えます。時価評価しないとはいえ、財務の健全性は大丈夫ですか。
「日銀は国債をコストをかけずにただで買っている。10兆円分の国債を購入して、仮に2割損してももうけは8兆円ある。日銀の利益は国庫に渡ってきた。国債の価格が下がっても、財務省が埋めればそれでいいだけだ」
――仮に損を出したら、日銀の信認が傷つきませんか。
「日銀のバランスシートが傷んだと思われても、信用が失われることはありえない。国はすでに1千兆円もの国債を発行して、バランスシートを傷めているのだから、日銀のバランスシートが傷もうが関係ない。制度上、日銀が財務省に補塡(ほてん)を頼むのがいやというのはあるのかもしれないが」
「円の信認は日本の経済力に対する信認であって、日銀の信認とは関係ない」
――アベノミクスでは、日銀が努力しているのに比べ、政府のやっていることがよく見えないと言われます。
「政府は構造改革などの『第三の矢』を進めていくべきだ。ただ、大きいのは環太平洋経済連携協定(TPP)や女性の活用、法人税減税。あとは小さな吹き矢のようなもので、一本一本では日本経済がよくなる効果はわずかだ。ただ、たくさんの吹き矢も全部実行すれば、効果は出てくると思う」
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はらだ・ゆたか 1950年生まれ。経済企画庁海外調査課長、財務省財務総合政策研究所次長、大和総研専務理事チーフエコノミストなどを経て、2012年から現職。著書に『日本を救ったリフレ派経済学』など。(聞き手・福田直之)
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