いくら就職したことはないとはいえ、さすがに就職についてまったく考えなかったということはありませんでした。僕らが就活をしていた時期というのは1995年の暮れのことでしたが、当時の大学生にとって就職は非常に難しく、俗に「就職超氷河期」と言われており、学生は就職活動に汲々とし就職する前から疲弊しきっており、そんななか僕もご多分に漏れず悶々とした日々を過ごしていました。
そんな氷河期においても同級生たちが官公庁や商社、銀行、コンサルティング会社などきらびやかな組織や企業に次々に内定を決めていくなか、僕はといえば内定まったくゼロ。友達が内定を何個もらったかを自慢しあっているとき、「お前は?」と聞かれて「いや・・・ゼロ・・・」っていうと「ええっ!?」と怪訝な顔をされ、「で、どこを受けたのさ!?」と聞かれ「いや・・・就活してない・・・」って答えると「えっ・・・」とドン引きされるような始末でした。
なぜ内定がゼロだったかというと、実は就職活動をまったくしていなかったからなのでした。就職活動をして入りたい企業がなかったんです。いや、それは正確ではないな。自分自身、そもそも何がしたいのか、何をして生きていきたいのかがまったくわからなかったんです。「もうどうしていいかわからん・・・いっそのこと俺の人生、誰か決めてくれんかいな・・・」そんなことすら思っていました。
何がしたいのかがわからないのに、面接会場で「当社を志望した理由は?」と聞かれても「いえ・・・わかりません・・・」としか答えられない。それで企業に採用されるわけ絶対ないし、そもそもその企業に対して失礼きわまりない。また、「あなたは何ができますか?なにが得意ですか?」と聞かれても、えっと・・・得意料理といってもオムライスくらいしか作れないし・・・いえ、何もできません・・・」としか答えられない。「自分にできること・・・?なんもないわ・・・あれ?・・・俺って20歳過ぎてるのにひょっとしたらなんもできんっちゃない!?」と、あらためて突きつけられた厳然たる事実に、ただただ愕然とするだけでした。
一方、父はいつも「泰蔵、お前も男に生まれたんやったら大きな志ば持って生きらないかんとぜ!」とか言ってました。そのときは「はあ・・・。」とわかったようなわからないような生返事か、「うん!」という全然わかってない(笑)無邪気な応答しかできませんでした。
だってココロザシ、とかいわれてもよくわからんもん・・・って感じだったんですよね。正直な話。
ただ、ひとつだけ自分にとってリアルにあった想いとしては、次のようなものがあったことを今でもよく覚えています。
せっかく一度きりの人生だから、なんでもいいから、これだ!と自分の一生を捧げてもいいと思うようなことを見つけて、できることならありったけの情熱を注いで熱く生きてみたい!
裏を返せば、ただぼーっと過ごして終わる一生に対する恐怖がいつもどこかにあったのでした。四男で末っ子ののんびりした性格を自分でもわかってたのでしょう。ヘタすればほんとにぼーっと終わりかねないとほんとに思ってましたから。
僕が中学生の頃好きだった伝説のバンド、ザ・ブルーハーツの「ラインを超えて」という曲の歌詞に次のような一節があります。
満員電車の中
くたびれた顔をして
夕刊フジを読みながら
老いぼれていくのはゴメンだ
当時、そうなるのだけはほんとうに絶対にイヤでした。無知たる若さゆえですが、「社会人になる=社会の歯車になる」ことだと本気で思っていました。歯車になんかなってたまるか、と。そんな人生まっぴらゴメンだ、と(もちろん今もまっぴらゴメンです(笑))。
机の前に座り
計画を練るだけで
一歩も動かないで
老いぼれていくのもゴメンだ
「とはいえ、なにができるわけでもない自分に、いったいなにができるのか・・・。」
「そもそも僕はいったいなにがしたいんだろう。僕の好きなものってなに!?」
・・・どれだけ悩んでも、どれだけ考えても、答えはいっこうに出ませんでした。今思うとバカなことを悩んでいたなあとも思いますが、当時は生きるか死ぬかというくらいほんとうに切実に悩んでました。これは今思えばまぎれもなく青年特有の悩みですが、この悩みは人生を有意義に生きたいという若者の誠実さの現れだと思うので、僕は悩みおののいている若者たちを見ると、大丈夫、絶対そのうち自分の進みたい道が見えてくるから心配するな、と抱きしめたくなるくらいその純粋さを今では愛おしく思います。
そんな現在の僕が、もしタイムマシンかなにかに乗って当時の悩みおののいている僕に会えるなら、次のようなアドバイスをしてあげたいと思います。
「今のお前の薄っぺらい中身でどんだけ考えてもさ、その問いに対する答えは出るわけなかよ。だってインプットが全然足りんっちゃもん。たとえば世の中にはどんな解決すべき問題があって、それに対してどんな解決策が模索されていて、 どんな組織がどんなアプローチでその問題に取り組んでいて、実際にどんな功績を挙げているのか、とかお前、全然知らんやろ?まずそういうことを調べたりしてみ。いろいろ発見があって楽しいけん。たぶんお前の職業観もガラッと変わると思うよ。
あと、いろんな分野で活躍している人とかに、どげな夢ば持ってどげな仕事しとるかとか、話ば聴きにいったりしてみたらよか。世の中にはこげんすごか人たちがおるったい、くよくよ悩んどる自分はなんて小さいっちゃろうかって恥ずかしくなるくらい感動すると思うよ。
自分は何をするべきか、何がしたいのか、なんて内向きに考えたってさ、そもそも今のお前は中身がスカスカやけん、時間の無駄くさ。そげなことよりも、自分の視野を広げたり、中身を濃くしてくれるようなインプットをこの時期にたくさんせんと。それがたくさん蓄積されたらおのずと自分の興味のあることが見えてくるって。もちろん、ちょっと興味のあることが見つかったいうても、だけんっちすぐにそれができるごとなったりするほど世の中甘くはなかばってん、『カバン持ちでもなんでもいいから手伝わせてください!』とか、その道の先人を頼ってその世界に飛び込んでみたらよかやん。一所懸命やりよったら、かならず道は開けるって。
学生のあいだは親や周囲が用意してくれた仕組みにそって生きてきたろ?ばってん、そもそも自分の人生っちゅうのは自分で切り拓くもんやん。それが社会人たるゆえんやけん。
とにかくまずはインプット。それを徹底的にやってみ。例えば『1年間で100人のいろんな道のエキスパートに仕事の話をおうかがいする』という目標を定め、それを徹底的に実行するとかね。そういうことを自分でやっていけば、新卒一括採用の就職活動に乗っかることなんてどうでもよくなってくる。企業から内定もらえるやろうかなんて焦る必要ないけん、そういう自分流の就職活動ばしてみらんね。そっちのほうが就活に汲々とするよりよっぽど楽しくて得るものは大きかよ。
そうそう、 NHKがやっている「プロフェッショナル 仕事の流儀」とかを全部観るのもすごいよかろ。たしか200回ぶんくらいあるけど(笑)、自分の人生の進路を決めていくんやけん、それくらい努力をしたってよかやんか。あと、この村上龍さんが監修した「13歳のハローワーク」もすごいおもしろかった。中学生向けに書かれた本やけど、現在の俺ですらハッとさせられることがいっぱいあった。」
まあ、これは僕の若かりし頃の自分に対してのアドバイスなので結構無茶なことも言ってますが(笑)、でももしタイムマシンに乗ってそうすることが可能なら、ほんとうに心からそう言ってあげたいなと思います。社会未経験の若者にとっては、レールに乗っかってないとすごく不安かもしれないけれど、レールに乗らなくったってどうってことはないし、むしろ自分の人生は自分で切り開いていったほうがよっぽどワクワクドキドキ充実して楽しいよ、ということを伝えてあげたいなと思います。