全国37万カ所で使える楽天系の電子マネー「楽天Edy」。電子マネーが使える場所と言えば、コンビニエンスストアなどが一般的だ。ところが楽天Edyは1月上旬、一風変わった場所に試験的に導入し、電子マネーの秘める可能性を確信した。
「シャリーン。シャリーンシャリーン」。1月6日の夕方、電子マネーの決済完了の音が鳴り響く。ここは東京都港区の愛宕神社。音が聞こえるのは絵馬やおみくじを販売する窓口からではない。サラリーマンを中心とした数十人が並ぶ先にある賽銭(さいせん)箱からだ。
音の正体は、賽銭が納められたことを示すもの。愛宕神社では楽天系の電子マネー「楽天Edy」で賽銭を供えられるシステムを1日限定で試験的に導入したのだ。始めに金額を入力し、確定ボタンを押して楽天Edyをかざすと賽銭が完了する仕組みだ。
神社への参拝者が多いと言われる正月三が日ではなく仕事始めの6日に導入した理由は、「電子マネーの利用に慣れたサラリーマンの参拝者が多いから」(愛宕神社)。実際、物珍しそうに電子マネーで賽銭を入れる姿が多く見られたという。
電子マネーを導入した目的の一つは防犯。監視カメラなどを設置して警戒しているが、賽銭箱のロープが焼き切られたり、箱ごと盗難にあったりしたことがあるという。
警視庁によると、賽銭を狙った窃盗は増えている。2012年の賽銭泥棒は4104件だが、13年は1〜11月で既に前年を上回っており、約1割増の4362件だ。
電子マネーなら賽銭を盗まれる心配がない。加えて回収する手間も省ける。同神社の松岡里枝さんは「来年以降の電子マネーの導入を前向きに検討している」という。一昔前なら考えられないスタイルだが「デジタル化が進む現代においては電子マネーでの賽銭も不思議ではない」(松岡さん)という。
電子マネーの導入を検討する動きは他の業界でもある。ゲームセンター業界では「タイトーステーション新宿東口店」(東京・新宿)と、「ソユープレイランドソピア秋田御所野店」(秋田市)の2施設の一部のゲーム機に、昨年11月から1月末までの約3カ月で電子マネーに対応する端末を導入した。硬貨を管理する手間が省けるほか、4月の消費増税後は価格設定を柔軟に変更できるというメリットもある。
小売業でも電子マネーに登録されるデータと販売情報をひもづければ、商品開発に生かすことができる。
イオンの「ワオン」などの主要6電子マネーを利用できる拠点数は昨年末時点で140万カ所を超えた。4月の消費増税を追い風にさらに急増する見通しで、意外な場所にも電子マネーが浸透しそうだ。(亀井慶一)