無要の葉

振り上げた正論(つるぎ)は切り裂くためじゃない

「考えすぎ」という種類のアドバイス罪

 書きちらし寿司。

 

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「容易に解決できない問題」に出会ったとき

 ここ数日仕事で悩んでいることがあったのでアドバイスをもらいに行った。「これこれこういうことで困っている。この状況をどう思うか。またはどうすればよいか」という問いに対して返ってきた答えは「それは君の考えすぎだね、もっとシンプルに行動しなよ!」というものだった。

 

 いや、シンプルに行動してうまくいかないから相談してるんじゃ……。

 

 そしてこの「考えすぎ」という言葉がずーっと引っかかっていました。うまくいかない、どうすればいいか、ああしたけどダメ、こうしたけどダメ、誰かにアドバイスをもらうか……というところでもらったアドバイスは「考えすぎ」というもの。確かに「うまくいかない」というところでスパイラルに陥っていたかなぁ、打てる手はいろいろ打ったけどダメだったからいっそ「うまくいかない」ことを前提に仕事をするしかないかなぁ、「失敗することを恐れるな」っていうからどうやったってダメなことに対して対策を一生懸命考えることもアホらしいかな……?

 

 そんなわけがあるかい。

 

 実際問題は非常に面倒くさいもので、似たような案件を扱ったことがあるということで他の人の勧めもあり意見を求めたわけだけれど、上記のとおり何の解決にもならなかった。問題がややこしいので必ず有益なアドバイスが欲しいとかそういうのは求めていなかったんだけど、「僕がやったときはこんな感じでうまくいったから同じようにすればいい、それはとっても簡単だ」みたいに言われると何も言えない。「僕がやったとき」と「今回のケース」は似ているだけで明らかに別物であるんだけど、その辺の考慮は一切ない。

 

 なんつーか、「困っている」ことを打ち明けただけなのに「そんなことに消耗しているの?」みたいな返しをもらった気分だった。「それは難しい問題だね、頑張って」とか適当に付き放されることも視野に入れていたけれど、まさか「君が考えすぎだからうまくいかないんだよw」みたいに言われるとは思っていなかった。しかも原因が「考えすぎ」! どうすりゃいいんだよ。たぶんこの記事もブコメで「この人と仕事をすると疲れそう」みたいに言われると思うけど、そのブコメを直に言われた気分という感じだろうか。

 

「考えすぎ」は安易な否定につながる

 最近男女の性犯罪の意識のズレの話が流行っているけれど、その辺もこの辺も結局同じ感じで処理できるのではないかと思う。要は「考えすぎ」という人が単に何にも考えてないだけなんじゃないかっていうことです。

 


性犯罪に関する男女の認識のズレと、認識のズレ一般をいかにすり合わせるか - 斗比主閲子の姑日記

 

 そりゃー「考えていない人」からすれば「考えている人」は「考えすぎ」なのだと思う。そして「考えていない人」は自身のことを「考えていない人」だとは思っていない。そもそもデリカシーがないからデリカシーのない行為をするのに似ている。「自分はデリカシーのない人だ」と思っている人で本当にデリカシーのない人はあまりいない。

 

 つまり、「お前が考えすぎなんだよ」という意見はひっくり返すと「俺は全く考えないからわかんないな!!ハハッ!!」ということを宣言しているに等しいのです。自分のように仕事の間柄だったら「ガッデム!」くらいで終わるけれどこれが夫婦生活だったらやっぱり絶望を感じるだろうなーって思います。要は「お前のこと理解するの疲れるからやめるわw」っていう宣言ですからね。

 

 悩んでいる人に「そんなことに拘泥するな」というのは非常に危険です。ましてや「そんなことに悩んでいる器の小さい奴」みたいに捉えかねられない「お前が考えすぎなんだよ」という台詞は「悩んでいる人」を根本から否定してしまう恐れがあります。男女のズレ問題で考えると「(私も被害にあったことがあるから)娘が心配だ」という文脈を無視して「考えすぎだ」というと「そんな被害にあったことは昔のことなんだから忘れなさい」と言っているのと同義です。

 

 「辛いことは忘れて楽しいことだけ考えよう」と言っても、過去に辛い目にあった傷というのは消えません。でも「忘れたくても忘れられないほど辛いこと」を経験していない人から見ると「考えすぎ」に見えるんでしょう。とにかくこの溝はグランドキャニオンより広くて深い。もう対岸に渡ろうとか思わないことが大事なのかもしれない。「考えすぎ」を使う方も、自分の理解ができないことを延々と聞かされるのは非常に苦痛だ。お互いに「絶対分かり合えない」ことを認識するべきなんだと思う。

 

 とりあえず何か相談されたときに「それは考えすぎだよ」という言葉を意識して使わないようにしてみるだけで少し何かが変わるんじゃないかと思っただけです、ハイ。

 

 あと余談ですが、「仕事が辛い」「わけもなく泣きたくなる」「最近何を食べてもおいしくない」という後輩がいたんだけど、「そんなことで悩んでたって仕方ないよ! 私は嫌なことがあっても思いっきり泣いて一晩寝れば忘れちゃうからね! 泣きなよ! そして頑張って!」とアドバイスをもらっていたっけ。立場としてそばで見ているしかできなかったんだけど大丈夫だったのかなぁ。お節介と同義のアドバイス罪も嫌だけど、こんな感じの「相談に乗ってるつもりで実は相手を全否定する系」のアドバイス罪もあると思うんです。