シュリーマン:天理大が原画確認 ギリシャ遺跡精密描写

毎日新聞 2014年11月27日 07時30分(最終更新 11月27日 08時07分)

ティリンス遺跡で出土した土器の原画。文字はシュリーマンの自筆=奈良県天理市で2014年11月26日、後藤由耶撮影
ティリンス遺跡で出土した土器の原画。文字はシュリーマンの自筆=奈良県天理市で2014年11月26日、後藤由耶撮影
ティリンスの位置
ティリンスの位置

 天理大付属天理参考館(奈良県天理市)は26日、同館が所蔵する図面など28枚について、ドイツの考古学者、ハインリヒ・シュリーマン(1822〜90)がギリシャのティリンス遺跡(世界遺産)で行った発掘調査の報告書の原画だと確認したと発表した。筆跡鑑定で、原画の説明文などがシュリーマンの自筆と判明したという。

 シュリーマンはトロイ遺跡(トルコ)などを発掘後、1884年からギリシャ南部のティリンスを調査し、紀元前13世紀後半の城壁に囲まれた宮殿跡を発見。翌85年に報告書を公刊した。

 原画は天理大創設者の故中山正善氏が1960年前後に英国ロンドンで購入し、同館が保管していた。

 原画のうち、宮殿遺構の平面図はシュリーマンと共に発掘に携わった、ドイツの考古学者、デルプフェルトのもので、精密に描かれている。また牛に乗る男が描かれた壁画、波模様や人物、動物が描かれた土器の細密なカラー絵もある。原画には絵の説明文や、印刷所に縮尺などを指示する注意書きがあった。

 同館は2008年にドイツ国立先史・初期歴史博物館に筆跡鑑定を依頼していた。

 ティリンス遺跡はギリシャ文明以前のミケーネ文明(紀元前17世紀後半〜同12世紀ごろ)の宮殿全容が分かる重要な遺跡だが、発掘日誌は現存しない。同館の巽善信学芸員は「発掘時に描かれた原画は、第一級の1次資料」と評価する。

 原画は、大学の創立90周年を記念し、同館で来年4月15日〜6月8日に一般公開される(毎日新聞社など後援)。問い合わせは同館(0743・63・8414)。【矢追健介】

 ◇正確な報告書に情熱

 原画と報告書を比べると、シュリーマンが正確な報告書を作るために心を砕いた様子がうかがえる。

 図柄入りの土器片の絵を模様がつながるように並べ直したり、模様の異なる土器片を丸で囲んで「cancelled(削除)」と英語で記したりするなど、細かな指示が残されている。名古屋大大学院の周藤芳幸教授(ギリシャ考古学)は「シュリーマンの功績は、報告書の概念がない時代に報告書を刊行したこと。当時の活動の様子が現物で見ることができることは非常に意味がある」と評価する。

 金や名誉目的の発掘と評価されることもあるシュリーマンだが、巽善信学芸員は「金や名誉のためだけなら、美術的価値のない土器の並べ替えなどはしなかったはず。考古学への誠実な態度が証明されるのでは」と話した。【矢追健介】

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