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北沢かえるの働けば自由になる日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2014-11-24 批判されないがための批判みたいな

これが「アスペルガー症候群の難題」なの?

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やっと読み終わった。

アスペルガー症候群の難題 (光文社新書)

期待して買ってみたんだけれど、現状からズレた内容だったなと思った。データや研究は興味深かったが、では、それを提示して、なにに影響するかと言うと、この結果と今の状況では偏見の補強にしかならんだろうなぁと思った。


以下、読む前に期待していた点について、自分なりに本の中から読みとった分。


 そういう結果が出ている研究も海外ではあり、確かに犯罪率は高そうだが、予備拘束かけるほどではないらしいw というのはジョークだが、人口の0.5%のアスペルガーの子のうちの10%ぐらいが犯罪に関わる可能性がありそうだ。だとしたら、「アスペルガーの犯罪率を減らす」にポイントを置いて、いろいろなコストをかけることは理にかなうのかなぁ。

海外では、ADHDの方が、少年犯罪との関連性が認められているので、薬物療法が実施される根拠とされている。それと比べると、アスペルガーの関連性は低いらしい。帯には「少年犯罪の14%にアスペルガー症候群との診断あり」と特筆して多いように煽っているが、これはスウェーデンの調査で広汎生発達障害自閉症スペクトラム)全体での数字のようだ。

 犯罪率に関する研究は、日本ではまだ充分ではないようで。著者は、仕方なく、『犯罪親和性』という数字を少年事件の家裁受理案件などの研究から出している。それによればアスペルガーが一般人の5.6倍の親和性を持つ。ADHDが1.1倍で、知的障害が2.2倍と比べると目立つが、この調査対象の人数も少ないし、診断基準がバラバラだったりなので、この数字で犯罪との相関度を比べるのは微妙だと思う。


 重大猟奇犯罪の報道と結び付けられやすいが、日本の少年犯罪で見ると、わいせつと放火が多そうだ。

 家裁の元調査官が行った分類によれば、「AVの真似をしてみた」という「対人関心接近型」が65.5%、それがエスカレートした「人体実験」が6.2%、放火をした「物理実験」6.2%、予想外のできごとに反射的に起こした「パニック・偶発型」が3.1%、フラッシュバックで暴発した「フラッシュバック型」9.4%、人目を気にしないで公園で自慰行為など「障害本来型」9.4%。プラス、独自の論理で復讐をしかける清算型に分けられるそうだ。

 この分類を見て思ったのは、社会常識がないことで起きる犯罪が半分以上、あとフラッシュバックやパニックなど特性に由来したものが5分の1。確かにやりそうな犯罪だなと思った。しかし、残りの「人体実験」や「物理実験」、「清算型」についてが、これだからアスペルガーは怖いという理由にされるんだろうなと。

 また、再犯率も高く、薬物療法も効かず、更生しにくいという研究も紹介されていている。悪の道へ行ったらなかなかもどれないってことですな。特性を考えれば、さもありなんだけど。

 


 著者によると、保護者の多くは被害者になる可能性を強調して、我が子が加害者になることを想像しないもんらしいw 

 しかしながら、アスペルガーの診断を受けた子の中の10%ぐらいに「暴力アスペ」という群がいる。

「暴力アスペ」とは刺激的な言葉だが、同級生に暴力を振るったり、物を投げたりする傾向がある子を指す。杉山登志郎先生の研究では、「暴力が悪い」と社会的なルールを理解できていても、暴力をふるう子も多い。つまり「悪意がある」わけで。従来考えられていた、過剰な反撃やパニック、二次障害という原因ではなく、単に暴力行為を繰り返すので、対処が難しいそうだ。

それでも、人口の0.5%のアスペルガーの中の、さらに10%ぐらいの人数だがな。

「暴力アスペ」の場合は、行動療法だけでなく、薬物も使って治療して抑え込むそうだ。この手の子たちが素行障害を起こして、反社会的なパーソナリティになって、犯罪に手を染めるみたいなモデルが、ADHDの研究から類推できるそうだが……杉山先生の研究によれば、「暴力アスペ」で素行障害を併発しているのは、5%ぐらいなのだそうで、「暴力アスペ」が犯罪に関わる率は想像するより低そうだ。



 この本では、アスペルガーの10%ぐらいに暴力行為がある。だから、犯罪やいじめの被害者ではなく、加害者になる可能性を考えろとしている。しかし、暴力行為の多くは家族の中に留まる家庭内暴力で、社会に出ないから済んでいる……としている。その認識も微妙だなと思った。

 そもそも、アスペルガーのような、「知的に問題がない、自閉症スペクトラム」の子らは小学校入学してから判明することも多いし。大人になるまで、なんとなく育ってしまった人も多いのは、診断を受けるような動機がないからなんだと思うんだがなぁ。検診でもひっかからないレベルの困難さがあって、本人は生きづらさを感じているんだが、外には出せず。たまりたまって、不登校家庭内暴力ひきこもりというような家庭で問題が起きてから、診断を受けるんじゃないかと。暴力行為が“家庭内に留まっている”と理解するより、“家庭内だから発生した”と理解した方が、実態に近い気がするがなぁ。



  • 対策はないのか?

 結論としては、早期発見、早期療育をやるしかない。4歳ぐらいまでにアスペルガーかどうかは判明するから、その段階で社会のルールを理解し、暴力を抑える療育を! とこの著者は提案しているが……実態はかなり違うからなぁ。

 後半出てくる犯罪分析は、犯罪後にアスペルガーの診断が出たケースを例に挙げているが、どれも「アスペルガーと診断が出ず、なんの対処もされないままで、結果的に犯罪を起こした」というものだから、さらに違和感が残った。酒鬼薔薇の件も、旅客機ハイジャックの件も、診断を受けるほどではないと、周囲が思っていたレベルの社会性はあった。今だって、似たレベルの子を育てている親は、診断受けさせようとは思わないと思う。だから、アスペルガーの引き起こす重大犯罪に対策は見つからないって印象を覚えるんだよね、ここに出てくるケースを例にすると。

 また、「治療しても再犯率が高い」という点も問題にしているが、成人期になってから社会性を身につける訓練するのは厳しいし、現状の矯正システムが特性を理解した上での治療の受け皿として不十分という問題があるから。それよりは、なんらかの問題が起きなければ診断につながらない、早期診断が難しいケースをどうするのか。親がしっかりしていないから、診察も療養も受けていないケースをどうするか。みたいなところが、今の少年犯罪対策の人たちの課題なんじゃないかなぁ。



著者の結論としては、

「犯罪防止のために、アスペルガー症候群と犯罪の関係について、さらに研究を!」

ってことを訴えたいらしいが、そこにリソースを割くのはどうなんだろうと思った。

それじゃないところを主戦場として、上の本で引用されている杉山先生たちも戦っていると思うんだが。

例えば、映画「シンプル・シモン」で「私はアスペルガー」というバッジ付けて注意をうながすのは、無駄な軋轢を避けるためだ。「いきなりさわらない」や「いくつもの指示を同時に出さない」など多少の気遣いをするだけで、お互い快適になるし、そこそこうまくやれる。

今住んでいる品川区辺りでは、アスペルガー症候群だけに絞らない、発達障害の対策を幼児のころからやっているからね。幼稚園や保育園の段階で、気になる特性がありそうな子をチェックして、その子と周囲の子がいっしょに過ごしやすいように環境を整え、先生方がうまく気配りをしている。その地道な積み重ねがあるので、小学校入学時には自然と社会性が身に付いていて、それなりに進級していく。

特別支援は、それでもフォローできなかった子をどうするかって点に焦点が当てられているし。加えて、小学校での学習関係でのつまづきやクラス内のトラブルから、幼児期には発見されなかった子を見つけ、どうやってフォローしていくかという問題になっている。その結果、今は10年前によくあった「立ち歩く子が大勢いて、学級崩壊した」みたいな話はあんまり聞かなくなったな。

だから、犯罪対策に力点置くよりは、全体的に見て、「発達障害」の診断があろうがなかろうが、気になる子をケアする作業を丁寧にやる方に、リソース割いた方がいいような気がするんだよね。




ここからは個人的な感想。

なんかなぁ。本を書きたいがために書いているだろ、ってのが、すごく気に障ったんだよね。

そもそも「犯罪親和性」ってなんだよ。

例えば、ハンス・アスペルガーの言葉を引用して、「アスペルガー症候群の特質として『悪意ある行為』を挙げている」と印象付けるとはどうなんだろ。あのころよりは研究も進んでいるし、わかりやすく暴力行為として噴き出していると、対策もしやすいと思うんだがなぁ、逆に。

本の中のデータや事例も、アスペルガーというよりは、「知的に問題がない自閉症スペクトラム」の話を、わざわざアスペルガー症候群の問題に見せている感じとか。

「家庭内での暴力行為」は、パニックの延長にあるという風に見る先生の方が多いんじゃないかな。暴力を繰り返すというよりは、感情や意志を、暴力でしか表現できなくなった状況をどう改善するか。そっちから攻めていく気がするんだけれど。よく親同士の話でも出るんだが、「家族とぐらいしか、まともに接することができない。それも暴力の噴出としてしか出せない」という感じで。暴力アスペとは、違う方向性だと思うんだけどねぇ。

 

後、繰り返し、対人犯罪の多さを強調した研究を例に挙げているんだが、日常生活を過ごしていても、アスペルガー症候群の人は対人関係のトラブルに巻き込まれやすいので、実態を知っていると、まぁ、犯罪に関係するとしたら対人が多いのもうなずけるでしょうと。それが何度も書かれると、まるで、攻撃的に人に向かっているような印象が付くんだよなぁと。

あと、変な言葉づかいをしたり、独自の世界を持っていることを、今まで起きた犯罪と結び付けて、怖がらせてどうするんだろうねとか。「スローターハウス5」の主人公のように別世界と彼らはつながっているようなところがあって、そこでは心から自由にのびのびできたりするんだよね。傍から見たら変かもしれないけれど。そうやってバランスをとっていくみたいなのは、理解してやって欲しいんだけどね。

 

「あいつ等は、なにやらかすか、わかんないんだぜ。いきなり爆発するんだぜ、あぶねぇんだぜ」

という空気を作ってどうするんだよ、対策が難しいケースを挙げてさ、という感じで。科学的なデータとは関係ない、ネットでよくあるような煽りを入れて、論を補強したのは、いかがなものかと。残念な内容だったな。



診断されたばかりの子を抱えている保護者は、この本は読まない方がいいと思うよ。アスペルガーというか、知的に問題がない自閉症スペクトラムの子たちは、学力があって、一見賢こそうでも、簡単に騙されたり、傷つけられても気付かなかったり。

「頭がいいのか、悪いのかわかんないよ〜」

って親は嘆くはめになることが多いからw そういう状況に周囲の大人がどう気付くか。って方が集団生活をはじめた時の課題になるので。

でも、発達のスピードは遅いが、きっといい子になるよと信じて、医師や先生の協力を受けて、大切に育てていけば、それなりに社会に適応していくから。犯罪者になるとか、あんまり心配しないでいいと思うんだよなぁ。

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