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ICR View
2014年11月17日掲載

ICT国際都市ランキング−オリンピック都市「東京」の実力と課題は?

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
主席研究員 神野 新
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大手通信機器ベンダーのエリクソン(Ericsson)は、世界主要都市のICT化のランキングを2000年から毎年作成しているが、その2014年版 (Ericsson(2014)Networked Society City Index 2014)が公表された。ICT化の程度を「国」単位で比較したレポートは少なからず存在するが、エリクソン・レポートは対象を「都市」に絞り込んでいる点でユニークである。また、ICT分野を知り尽くした老舗ベンダーの分析という面で信頼性も高い。

エリクソン・レポート(その対象都市)

エリクソン・レポート(その対象都市)

(出所)Ericssonの上記ニュースリリースの格納資料より

同レポートから、2020年に向けてICT整備・利活用の高度化を目指す、わが東京の実力と課題を探ってみたい。まず、気になる総合ランキングは表1(上記イラストの数字と同じ)の通りであり、東京は40都市中のベスト10にぎりぎり滑り込んでいる。ちなみに、東京は2013年のレポートでも10位であった。

以下はベスト10の注目点である。

  • 内訳は欧州(6都市)、アジア(3)、米国(1)である。
  • スカンジナビア諸国(4カ国)の首都が全てランクインしている。
  • 東京はシンガポール(4位)、香港(9位)の後塵を拝している。
  • 米国はニューヨークのみであり、ロンドン、パリを大きく下回っている。

全体を見渡しても、シドニーの意外な低さ(モスクワより下でワルシャワと同等)、眠れるICT大国インドの都市(デリー、ムンバイ)の低迷など、興味は尽きない。経済の衰退や「文明内の衝突」(注)など悲観的なニュースの多い欧州だが、本レポートでは欧州(特に北欧)の健闘が著しい。エリクソンがスウェーデン企業という事実は考慮すべきかもしれないが、国単位で見た他レポートのICTランキングでも同様の傾向があるため、特にバイアスがかかっている印象はない。
(注)スコットランドに続く、カタルーニャやフランドルの独立の動き

(表1)エリクソン・レポート2014のICT国際都市ランキング

(表1)エリクソン・レポート2014のICT国際都市ランキング

(注)*は2013年レポートから新規追加された9都市

統計レポート(特に国際ベンチマーキング)の客観性や信頼性は、その算定手法(methodology)と変数(variable)に大きく依拠する。エリクソン・レポートでは、ICTインフラ整備(「ICT Maturity」)とICT利活用(「Triple Bottom Line」)の2指標に注目しており、最近のICT統計の王道アプローチを取っている。この2指標はそれぞれ3属性から構成され、さらに細かい変数(のべ15個)に区分されている。その全体像は表2を参照されたい。実は、個々の変数はさらに「Indicator」、「Proxy」に展開された上で加点が比例配分され、予想以上に複雑な加重平均で最終得点が計算されているが、本稿ではとても紹介しきれないので省略する。興味のある読者は下記の算定手法を読まれたい。

(表2)エリクソン・レポートの指標を構成する属性と変数

(表2)エリクソン・レポートの指標を構成する属性と変数

(注1)「料金」は固定ブロードバンド及びモバイル・サービスのユーザー料金(利用バスケットを想定)、「IP伝送料金」はアクセス回線を除く料金。
(注2)「技術利用」はスマートフォン、タブレット、PCなどの普及率。「個人利用」はインターネット及びSocial Networking(SNS)の利用率。「公共・市場利用」は公共機関のオープンデータ(API含む)及びホームページの充実度、そして、電子的手段によるそれらサービスの利用可能性。

エリクソンはレポート公表時のニュースリリース(冒頭のリンク)の中で、ICTインフラ整備が遅れている国々が、高価で時代遅れの物理インフラではなく、高度モバイル技術を利用することで、上位国よりも迅速に整備状況を改善しており、キャッチアップ効果が出始めている点を強調している。また、No.1のストックホルムは、ICTインフラが非常に整備されており、オープンデータ、電子サービス(e-services)の充実、固定及びモバイルへの高品質アクセスが首位になった理由であると説明している。このように、同レポートには興味深い記述が満載だが、紙面の関係もあり、以下、東京に関する評価を取り急ぎ紹介し、コメントを行っておきたい。

エリクソンは、1年前の2013年版のレポートにおいて、東京とオスロのニ都市は「ICT Maturity (整備)に比べてTriple Bottom Line(利活用)の点数が相対的に高い」と指摘していた。これは、インフラ整備は世界最先端だが、その利活用が課題だと認識してきた多くの日本人には意外な指摘である。エリクソンはさらなる説明において、「東京は若者と高齢者の技術利用ギャップが課題」と続けていた。そして、2014年版では、東京は北京、上海、イスタンブール、マイアミと並んで、「e-governanceとe-serviceを改善すれば、住民の日常生活の多くが向上し、オープンデータ資源の開発でイノベーションが刺激される」と総括している。東京に関する2013年版と2014年版の指摘は相反するようにも見えるが、それは、ICT Maturityに含まれる「利用」属性が、そもそも利活用属性の性格を帯びていることも一因であろう。

いずれにせよ、東京はオープンデータに代表されるe-governance、e-serviceを改善すれば、大きく順位が向上すると助言を受けているのは間違いない。世界屈指の少子高齢国のオリンピック開催都市として、エリクソン・レポートの東京に関する指摘は耳が痛い。日本(東京)に対しては、オリンピックブーム以降も見据えて、課題先進国としてのICT展開に世界が注目している。その注目をテコにICT(再)立国の国内コンセンサスを強固なものとし、是非とも、次年度以降のエリクソン・レポートにおいて、東京の順位がジャンプアップすることを期待したい。

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