ふるさと納税制度で収入減も
11月4日 20時25分
生まれ育った自治体などに寄付をすると、今住んでいる場所で支払う税金が控除される「ふるさと納税制度」。
利用者が急増し、おととしには全国への寄付額がおよそ130億円に上っています。
しかし、NHKが全国の47の都道府県について調べたところ、受け取った寄付額より控除された税金が上回り、収入を減らすところが出ていることが分かりました。
この制度を巡って、全国で何が起きているのでしょうか。
福井局の川畑一浩記者と篠田彩記者、静岡局の高橋史弥記者、和歌山局の森将太記者が取材しました。
ふるさと納税制度
「ふるさと納税制度」は、ふるさとの大切さを再認識してもらう目的で、平成20年から導入されました。
自分の生まれ故郷や、応援したい都道府県や市町村を自分で選んで寄付するもので、寄付をすると、今住んでいる場所で支払う住民税などが控除されます。
この制度を利用すると、年収や家族構成によって上限がありますが、寄付した金額のうち2000円を超える部分の全額で、自分が住んでいる自治体に納める住民税などが控除されます。
例えば、年収500万円で夫婦2人暮らしの場合、3万円を寄付し、確定申告をすると、住民税など2万8000円が控除されます。
この際、自治体によっては、特産品などを寄付のお礼として贈るところもあり、1万円相当の特産品の場合、実質2000円の負担だけで得られるということになります。
豪華なお礼の品
最近では、寄付のお礼に、伊勢えびや牛肉などの地元の特産品をはじめ、旅行券などを贈る自治体も出てきていて、全国のお礼の品を紹介するホームページも登場し、人気を集めています。
総務省によりますと、この制度を使った全国の都道府県や市町村への寄付の総額は、おととしの時点で、およそ130億円余りと当初のおよそ2倍に増えています。
特産のうなぎで人気
静岡県磐田市では、昨年度のふるさと納税額は4495万円と静岡県内でトップとなりました。
そのきっかけとなったのが、静岡名産のうなぎです。
寄付をした人たちの9割が、お礼の品にこのうなぎを希望しました。
横浜市の男性も、何のゆかりもない磐田市にふるさと納税をした理由は、やはりうなぎでした。
男性は「冷凍ではありますけども、家族もおいしいってすごく喜んでましたから、おいしかったですね。高くはないのかな、お得だなっていうのはありますね」と話しています。
収入が減る?
しかし、磐田市も、このふるさと納税の獲得に当初から成功していた訳ではありません。
制度が始まった当初、収入の増加に期待していましたが、平成20年度と21年度で連続して寄付を受けた額より控除された金額が上回り、このうち21年度は、▽寄付額が78万円、▽控除された金額が149万円とおよそ2倍となっていました。
つまり、磐田市民の中で、別の自治体に寄付をする人が相次ぎ、寄付額よりも税金の控除額が上回り、市にとっては収入が減る結果となっていたのです。
磐田市の担当者は、「地方にとって、いいと思っていたふるさと納税でマイナスになるとは思っていなかった」と話しています。
収入減は全国にも
NHKでは、全国の47の都道府県について、▽昨年度、この制度で寄付された額と、▽寄付による税金の控除で昨年度、受け取れなくなった金額を比較し、それぞれの都道府県に取材しました。
その結果、寄付で受け取った額よりも、税金の控除で受け取れなくなった額が上回り、収入を減らすところが出ていることが分かりました。
その数は、昨年度の収支でみますと、全国の半数以上の24の都道府県に上っていて、この中には、▽当初から本来納められるはずの税金が地方に流れると指摘していた東京都なども含まれていますが、▽北海道や岐阜県、それに岡山県など収入の増加を期待したのに見通しが外れたとするところもありました。
このうち、北海道は「収入が減るとは予想していなかったが、寄付先は、住民の自由でやむをえない」と話し、宮崎県は「各自治体間の競争などが影響していると思うが、制度は、ふるさとを応援するという趣旨なので、引き続きPRに努めたい」などと話しています。
お礼が負担に
3年前まで、控除額が寄付の額を上回っていた磐田市。
今、別の問題も起きています。
磐田市へのふるさと納税は1人当たり平均1万円です。
それに対し、お礼のうなぎにかかる費用はおよそ5000円。
つまり、寄せられたふるさと納税の半分がお礼に消えているのです。
しかし、市は、うなぎのお礼をやめるつもりはないといいます。
担当者は「お礼の品を出す出さないは各市町の考え方がある。磐田は特産品をPRする機会と捉えているのでやるしかない」と話しています。
特産品のない町は
目立った特産品がない自治体にとっては、自治体間の競争に頭を悩ませています。
和歌山県北部の高野町は、中心部に高野山があるなど、山間部にあるため、田んぼや畑は少なく、農作物で目立った特産品はありません。
これまでは、納税のお礼として、ごま豆腐やようかんなど4品を贈っていましたが、昨年度のふるさと納税は24件、およそ300万円にとどまり、ふるさと納税の効果はほとんどありませんでした。
町では、なんとか税収を増やそうと、カタログ販売を手がける大手旅行会社と組んで10月から全国の特産品を“高野山ゆかりの品”として贈る制度を始めました。
高野山は、弘法大師・空海が開いたもので、空海にちなんで、▽空海が中国から持ち帰ったことが始まりと伝えられている「四国のさぬきうどん」や、▽空海に縁の深い寺から依頼を受けたとされる「京都の老舗の和菓子」の詰め合わせなど、お礼の品を83種類に増やしました。
さらに、お礼の品の金額も例えば、10万円が寄付された場合、これまで2000円相当でしたが、先月からは5万円相当と50%分を贈ることにしました。
その結果、ふるさと納税は、今月1日から26日までに1166件、合わせて2648万3000円の申し込みがあり、すでに昨年度1年間の9倍近くが集まる見通しになったということです。
高野町では、お礼の品の負担は大きいとしながらも、目標額を1年間で1億円に設定し、「財政が厳しいなかでふるさと納税は努力しだいで集まる。町おこしの財源として、精いっぱいの努力を重ねたい」と話しています。
本来の趣旨で
一方で、福井県はこの秋から新たな取り組みを始めました。
ふるさと納税を提唱した福井県の西川知事は、制度本来の趣旨である、ふるさとを応援する気持ちを後押しするものが望ましいのではないかと考えています。
そこで、福井県は、各部署の若手職員が議論を重ね、この秋から新たな取り組みを始めています。
具体的には、▽歴史的な建て物の修復や空き屋対策など、地域おこしにつながる事業を示して寄付する人に選んでもらうほか、▽出身高校の部活動や講演会の支援などです。
さらに、大都市に住む県出身者の会合に職員を派遣し、こうした取り組みをPRしています。
10月、東京・銀座で開かれた福井県勝山市の県人会の会合です。
福井県の担当者は福井城の門の復元工事への寄付を呼びかけました。
寄付をすると、名前やメッセージが工事に使う瓦や壁板の裏面に書き込まれます。
参加した女性は「できることがあったらね、やりたいなと思う」とか、男性は「やりますぜひ。ふるさとって、だんだん自分の心の中に大きな面積を占めるようになる。年を取ると、貢献したくても体が動かないから、そういう面で貢献する」と話していました。
西川知事は、「生まれ育った地域を応援する、あるいは困った地域を応援すると、そういう趣旨に戻っていくタイミングかと思います。うまく、将来とも、制度を国民に大都市の皆さんに分かってもらえるようにしてほしいと思います」と話しています。
期待される自治体の対応
住民税が控除された場合は、一部を地方交付税で補う仕組みもありますが、各自治体間の競争は続きそうです。
今後、各自治体が、自分たちなりのやり方で地元の魅力を全国に発信し、この制度を継続的に定着させ、地元の活性化につなげていくための工夫が求められていくことになりそうです。