[書評]愛は、あきらめない(横田早紀江)
どさっと届いたDMのカタログの一つの表紙がもうクリスマスっぽくなっていて、おやおや気の早いことだなと見ると、「いのちのことば社」の「クリスチャンライフ カタログマガジン」だった。「だったらそうだよなあ」と思いつつ、ぼんやり表紙を眺めていたら、「私の力の源は、祈り」とある。福音派的な信仰の人はいつもそうだよねと、普通に見過ごしてしまいそうになったが、その横に「横田早紀江さん」と書いてあって、驚いた。
愛は、あきらめない (横田早紀江) |
カタログを捲ると巻頭に特集があり、この書籍が「横田早紀江さんを囲む祈りの会」での話を中心にまとめたものであることを知る。まあ、読んでみよう。
読んだ。泣けた。
横田めぐみさんが拉致されるということは、こういうことだったのだなというのに初めて向き合ったようにも思った。
そして、北朝鮮という国家と、それを支持してきた人たちへの憎悪のような感情が胸にこみ上げそうになる。だが、そこで憎悪は終える。横田早紀江さんが願うのは憎しみではない。この本は信仰という一つの奇跡の書籍なのだし、涙もそうした思いに集約されてくる。いや、そう紹介すべきではないかもしれないし、そう読まれるべきではないかもしれない。ただ、私はそう読んだ。
北朝鮮による日本人拉致問題を軽視する思いはない。だが、この本は、そうした文脈で読まなくてもよいと思う。この本には、人生でとてつもない理不尽な不幸に向き合ったとき、信仰が何を意味するかということが、普遍的に描き出されていると思った。それはもしかすると、信仰やキリスト教というものを越えたなにかかもしれないとも思う。
彼女がクリスチャンになったのは、拉致問題が公にされる前のことだった。めぐみさんの生死もわからずに過ごした日々のことであったらしい。
そのうち雪の降る季節がやってきて、雪が降るまでに見つかってほしいと思っていましたが、見つかりませんでした。なぜ娘がいなくなったかもわからず、本当に苦しみました。あの子に対して何か悪いことをしたのだろうか、親として至らなかったのであの子がいなくなったのだろうか、と自分を責めました。追い詰められて、死にたいとも思いました。
あっさり書かれているが、こうした不可解な絶望に触れたときに、人が辿る思いがきちんと書かれている。そこには確固とした普遍性のようなものがある。
そのような時に私は聖書に巡り会いました。お友達が「読んでごらん」ともってきてくれて、初めて聖書を手にしました。その人は「難しいけれど、大事なことが書いてあるから」と言いました。ヨハネ福音書に、1人の盲人の人について弟子たちがイエスに尋ねているところがありました。「これはこの人に罪があるからでか、それとも両親にあるのですか」。イエスは、「この人が盲人なのは、本人の罪でも、両親の罪でもなく、この人の上に神のみわざが現れるためです」と言いました。
私には難しくてよくわかりませんでしたが、でも何だか救われた気がしました。神のなさったことなら、ものすごく大きな意味があるのかもしれない。そう思いながら聖書を読んでいきました。(後略)
彼女はそこからキリスト教を、というか、その神を信じるようになる。その信じるありかたは、素直にこう書かれている。
新約聖書のマルコの福音書5章を読むと、ヤイロの娘が亡くなって、父親がもうあきらめていた時、イエスは「恐れないで、ただ信じていなさい」と一言おっしゃいました。それは今の私と同じだと思いました。神様がいらっしゃることは確信していますが、神様が何をお考えになり、何をなさろうとしているのか私にはわからないので、信じるだけなのです。
「信じる」というということの一つの普遍的な形が簡素に表現されている。神の御業は理解できないが、信じる、あるいは、それの理解できない状態であることが信じるというということである。微妙なので、こう言ってもいいかもしれない。御業が理解できたらそれは信じるというのは少し違うのかもしれない、と。
私にはそういう信仰はない。まるでないと思う。人生にはなんらかの意味がなければ生きることは難しいだろうと思うし、人生は無意味だという人もどこかで意味を隠していきているのだろうと思う。私が思うのはそこまでである。
だが、振り返って横田早紀江さんの人生に示されたものは何だろうかと考えると、畏敬の念に打たれる。私の人生にはありえないことだ。では、それは奇跡だと言えるのか。
私は奇跡と言っていいと思う。それを生み出したのが信仰だというなら、そう思う。
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