少子化、いじめ、うつ病、自殺、介護、ダイバーシティ、財政難・・・現代の日本社会は、控えめに言ったとしても、問題が山積している。それに対して政府や民間企業も何らかの解決策を見出そうとはしているものの、有効な手段が見つかっているとは言いがたい。そんな中、ワーク・ライフバランスの代表・小室淑恵は「たったひとつの方法で、しかも全く財政を使わずに、それらの問題を一掃できる」と語る。一体、その方法とは?
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皆さん、こんにちは。皆さん、いま、日本社会は極めて少子化なのはご存じだと思います。でも、なぜ日本は少子化なんでしょう?なぜ日本の女性は子どもを産みたくないんでしょうか? 私は身をもって体感したので、知っています。私の長男は現在6歳です。(プロジェクターに写した写真を見せながら)ちょっと、あの、写真があまりにもかわいくて驚かれたかと思うんですけれども。(―会場、笑―)
でも、私は長男を産んだ6年前、もう苦しくて苦しくて仕方がありませんでした。私、両親は遠方に住んでますので、育児の頼みの綱は夫だけなんですが、夫の平均帰宅時間、当時、深夜2時でした。子どもは、ベッドに置いたら泣く、置いたら泣く。もう、どうして泣くのよ、と思ったり、このまま腕の中で死んだら全部私のせいなんだ、と怖くなって、私も泣き続けました。やっと寝てくれて、そうっとベッドに置いた瞬間に、「見てたのか」っていうタイミングで帰ってきて、ドアをバタンと閉めては夫が起こすんですね。「もう2度と帰ってこなくていいんだよ」っていう話を(笑)当時はしました。もう、1人目の出産体験で、2人目なんか決して欲しくない、と強く思いました。
この「夫の長時間労働」こそが、実は、真の少子化の原因だと私は思っています。でも、いま、我が夫はですね、働き方ガラッと変えまして、育児・家事を同じ時間だけやってくれるようになりました。私の気持ちもガラッと変わって、「ああ、2人目が欲しい」と思うようになり、実は、あの、お腹に、今ですね、2人目が、あの、いるんですけれども。(―会場、拍手―)
ありがとうございます。ほんとに気持ちはガラッと変わりました。いま、日本は少子化だけじゃなく、うつ病の問題、ダイバーシティ、大介護の問題、財政難、問題山積の国です。しかし、これらの問題に対して、実は、財政を全く使わずに解決できる方法があるんです。それが「長時間労働をやめる」ということです。今日はこのアイディアを皆さんにお話ししたいと思います。
日本人1人当たりが生み出す付加価値額は先進国で最下位
私は今まで900社の企業の働き方のコンサルをしてきました。30%の残業が減っても売上が上がる企業すらあるんですよ。落ちません。それは、いまの日本の企業は、時間をかければかけるほど、むしろ成果が落ちていく、という、「負のスパイラル」に既にはまり込んでいるからなんです。
60時間以上残業する人、日本は世界で最も多いです。しかし、1人当たりが生み出している付加価値額、なんと先進国で最下位。これは、私生活が少なければ少ないほど、体験によるインプットが減り、アイディアも無いのにそれを持ち寄って会議してひっくり返してもなんにも出ない、だから会議が長引き、貧困なアイディアが出て、売れない、帰れない・・・。ぐるぐるぐるぐる繰り返しているわけです。
さらに、介護の問題が襲いかかります。あと5年で、日本の団塊世代は一斉に70代に入ります。そうすると、介護の人数が増えれば、介護をする世代、団塊ジュニア世代は、介護と仕事を両立する時間制約のある社員が急増するんですね。自動車メーカーのT社では、68000人いる社員が5年後に抱える親の介護の数、14000人と見込んでます。社員の5分の1なんですね。
「私の会社で成績トップは短時間勤務の女性」
これだけのことを解決していきたい。じゃあ長時間労働をやめたほうがいいじゃないか? でも、そんなふうに労働時間に規制を入れたら、業績が落ちてしまうんじゃない? 競争力を失うんじゃない? と多くの方がおっしゃいます。でも、むしろ逆なのだ、ということを今日はお伝えしたいと思います。
今のまま長時間労働を続けた場合のA社と、逆転の発想で経営をしたB社にどれほど差が出るのか、というのをお見せしたいと思います。
まずA社から。A社では、従来どおり長時間労働に頼って、そして、コストをカットしようと考えた時に、人を削ってしまいます。固定費を削るんですね。しかし、その分の仕事が残された人に乗っかって、以前よりも長時間労働になると、削った固定費より増えた残業代の方が多いんですね。そして、優秀な人は逃げて行ってしまう。そして、うつ病が増加して、もう、集中力も無ければコストも上昇してしまう、というような企業が増えてしまう。
さらに、ここに介護が降ってくると、介護で人が辞めたとします。頭数を減らしてしまっていますから、互いにフォローし合うだけの人材がもういないんですね。じゃあ、「人が足りない」と言ってやっと採用しようとしても、「こんな企業に人は入りたくない」ということで、優秀な人は集まらない。事業継続はどんどんと不可能になっていく、と転がり落ちていきます。
じゃあ、逆転の発想のB社はどうでしょうか? 同じようにコストは下げたいんです。しかし、目を付けるのは、この長時間労働の部分。残業を削って、その分、若者を正規雇用したり、時間制約のある女性を積極的に雇用していきます。私の会社は、6年間ずっと残業禁止でやってきましたが、6年間トップ成績のコンサルタント、実は短時間勤務の女性なんですよ。「時間と成果」は関係ないんです。時間に制約がある人は、短時間で集中力高く働いてくれます。
そして、しかも、集中力が高いだけでなく、男女や年代といった多様性が増えた会社というのは、多様なアイディアがお互いに切磋琢磨して、非常に高い付加価値を生んでいく構造になります。さらに、介護で人が抜けたとしても、フォローし合えるだけの人材がいますし、それぞれが育児や介護の事情を抱えたとしても両立していけるので、辞めないで済むわけです。こういう企業にはますます良い人が集まって、業績はアップし、サステナブルな企業になっていく、ということが言えるわけです。
育児も介護もしていない人には関係のない話?
でも、「育児も介護も自分はしていない」という方、そういうあなたにも、非常に関係がある話なんです。この長時間労働を続けるのか否かは、「日本の財政」に大きな影響を与えるからです。今のままで行くと、日本はこんなふうになります。
まず、介護。親の介護なんかする時間無いんだ、じゃあ24時間型施設を国がもっともっと作ってくれ、という要求が高まって、国のコストがかさみます。育児も、お迎えに行く時間無いから延長保育もっとしてくれと、延長保育は保育園の赤字を生み、そのまま自治体の赤字になります。そして、帰って家庭においては、夫婦共に残業で子供のしつけの時間もない、宿題見てあげる時間もないから、全部学童保育でやってくれないと、という話になります。
そして、女性は仕事と育児を両立することができない。いま、7割もの女性が育児をきっかけに仕事を辞めています。すると、年金の払い手はその分減ってしまい、将来、年金が少ないことで、生活保護の対象になる人が増えるでしょう。そして、企業は利益が出ない。そうすれば、雇用なんかしたくない。国が「雇用しろ」と言うなら、雇用対策調整金をくれないと、と。全てが行政に対してお金の要求となってエスカレートしていく、そして、財政がますます逼迫すれば、皆さんに重い税金となってのしかかっていくわけです。
じゃあ、それを、長時間労働をやめるとどうなるか。親の介護は、定時で帰って訪問介護やデイサービスと連携しながら続けることができます。また、育児もきちっとお迎えに行くことができれば、夫婦のキャリアが続いていけるから、家計を担っていくことができます。
家庭においても、これ一番大事だと思うんですが、父親が夕食時に毎晩子どもの話に耳を傾けられる。しつけや宿題はもちろん、いじめの話にもちゃんと早期に父親が関わっていけるでしょう。そして、女性は、仕事と育児を両立していくことができれば、年金の払い手でい続けることができます。そして、企業は利益がでますから、もっともっと人を雇用していくでしょう。
つまり、定時後の時間に、育児、介護、健康維持、これに個人が主体的に動いていくことで、財政を使わずにこの社会問題を解決していくということができるんだ、というふうに考えています。
日本がアジアの国々に次世代の働き方を示せるか?
そして、これは日本だけの問題でもないんです。ちょっとこちらをご覧ください。これは、高齢化率の推移のグラフなんですが、日本は、実はいま、23%、人口の23%が高齢者という、世界で最も高齢化している国です。しかし、実は、2030年には韓国が、2040年には中国が、これと全く同じ数値になるんです。
いま、韓国、中国、シンガポールやタイは、「人口のボーナス期」といって、若者が非常に多くて高齢者が少ない、つまり、社会保障費が少なくて済むので、経済的に発展しやすい時期にあるんですね。しかし、この後、必ず少子化になり、人件費が高騰し、成熟期に入ります。そうすると、日本が今そうであるように、時間をかけるタイプの、時間をかけて成果を出すというタイプの仕事で国際競争力を失ってしまいますから、この高い人件費のなかで、短い時間で高い付加価値を出すというビジネスに転換しないと、成熟期の国は生き残れないんですね。いま、日本が果たしてこの転換を図れるのかどうかということは、アジアの国々に次の働き方を示していけるのかどうかという、とても大切な役割を担っている、と私は思っています。
「長時間労働をやめる」と公私丸ごと豊かに
だからこそ、皆さんの力をぜひ貸していただきたいんです。皆さんの身の周りの方に、少しずつでいいんで、啓発していただきたいんです。
例えば、幼い子どもがいるのに深夜まで妻に育児・家事を押しつけて職場に残っているパパ社員の人には、言ってあげてください。あなたの人生の評価をするのは、家族であって、会社じゃないですよ。あなたが定年退職した翌年に、「去年まではご苦労さま」とか、「一昨年まで凄かったねえ」とか、会社は言ってくれないんですね。その代わり、定年退職したあと30年間、家族から、「あなたは家のことなんにもやらなかったわよね」ってずーっと言われるんですね(笑)。そんな人生って幸せでしょうか?
また、管理職の方。俺は残業代ついてないから、遅くまで会社にいたって負担かけてないんだ、と言いますが、そんなあなたを見て、あなたの部下はみんな管理職になりたがらなくなった。だって、管理職って、残業代がつかなくなって、仕事の責任と量が増えて、家庭が崩壊している職業でしょう、というふうに思われているからなんですね。あなたが変わらなければ、部下のモチベーションはますます下がるでしょう。
そして、経営者の方。よく、この不景気な時に従業員が早く帰るなんて不安だ、というふうに言いますが、脳科学者が解明してます。人間の脳は、朝起きてから13時間しか集中力がもたないんですね。それを過ぎると、酒酔い運転と同じ集中力しかないんです。そんな時間帯に、ミスが多く発生し、アイディアも出ない時間帯に、割増の残業代を払うなんて、お人好しの経営者ですよ、というふうに言ってあげてください。
もう、お気付きだと思います。最後に。この山積している日本の社会問題を、財政を全く使わずに解決できる、この「長時間労働をやめる」ということ。ぜひ、皆さんも勿論実践し、そして周りの方にも広めていただきたいのです。そうすると、私生活が増えることで、様々なアイディアがインプットされる。そして、そのアイディアがワークに影響を及ぼして、ワークでどんどんと成果が出る。ワークもライフも丸ごと豊かになっていくような、ワークライフシナジーの社会を私は作りたいんです。ぜひ、皆さんの力をお貸しいただけたら、というふうに思います。今日は貴重なお時間を、本当にありがとうございました。
「QOL」(Quality of Life)といった「用語」ばかりが先行するだけで、日本の会社のほとんどでは、いまだに長時間労働が美徳とされていることは否めないはずです。しかし、小室さんが指摘する通り、それは負のスパイラルを生むだけで、生産性は上がらず、実際に長時間労働による膿、例えば鬱病、がどんどん出てきているのが日本の現状と言えるでしょう。現在と将来の働き方について、深く自問自答させられるプレゼンテーションでした。尚、「日刊読むラジオ」では引き続きTEDの書き起こしをお届けしていく予定です。(編集長)