- 2014年9月12日
Aiコラム第5回「フェス飽和時代における差別化 〜目玉アーティストの類似〜」
9月も半ばに差し掛かり、今年の夏フェスシーズンも折り返し地点ですね。 前回のコラムでの、「夏レジャーの定番になったフェス」と「フェスファッションの変化」に引き続き、今回もフェスについて書いてみようと思います。
先月、東京・晴海埠頭で初開催されたCRAFT ROCK FESTIVALに行ってきました。このフェスに参加してみて、最近なんとなく感じていた「新しいフェスの形」について感じるところがあったので今回はこれをテーマにしてみます。
ここ5~6年程、“フェスバブルの時代”と言われる程、毎年のように新しいフェスが増えています(実際、今このコラムを読んで下さっている方の中にも同じような実感を持っている方は少なくないのではないでしょうか)。その要因としては、CD売上が芳しくない中で、「フェス」が音楽ビジネスの主軸のひとつとして成立するモノになったことが挙げられると思います。
しかしながら実際のところ、よく耳にする「フェス動員”数”が年々増え続けている」というわけではないようです。2013年に経済産業省が発表した「ライブ・エンタテインメントに関する調査研究報告書」(2011年までのデータ)によれば、観客動員数自体は2006年(156万人)をピークに緩やかに減少傾向が見て取れます。それにも関わらず、市場規模自体は(多少増減はあるものの)2006年から130~150億円規模を堅実に維持しています。すなわち、フェス市場はチケット売上に依存しないビジネスモデルが確立しつつある” 成熟期を迎えた市場”になったと言えるわけです。ゆえに、ある程度しっかり枠組みを作って参入すれば、それなりに安定した収益を上げられるとの期待の下、それなりに大きな資本を持った企業の、フェス市場への本格的な参入が増えてきてるんじゃないかなぁ、というのが僕の実感です(もちろん僕が大好きな、フェスに夢を持って参入してくるアツいイベンター達もまだまだ沢山生まれていると思います)。
で、これもまたよく言われることなんですが、” フェスバブルの時代”到来の次にやってくるのは”フェス飽和の時代”だということです。
たとえば、RO69の夏フェスマップを見てみると、8月は毎週末必ずどこかでフェスが開催されていることが分かります。前述の通り、現在のフェス市場の規模は130~150億円を推移しているので、決して成長を続けているわけではありません(経営学的に見れば成熟期の後にやってくるのは衰退期なので、いずれは今の市場規模よりも落ち込んでいくリスクすらあります)。
それでもなお、毎年のように新規参入が続いているということは、その影に淘汰されていくフェスが少なからずあるということです。
これまた当たり前の話になってしまうのですが、このような状況下で新規に参入し成功する(いや、むしろ生き残っていく)ためには、他のフェスとの「差別化」が重要になってきます。
話がちょっと横道にそれますが、一ヶ月前くらいに友人達と飲んでいる際に、「いわゆるフェスの目玉ってなんだろうね?」って話になったんです。
もちろんその場では色んな意見が出たのですが、全員が共通して真っ先に口に出したものが “アーティスト(ラインナップとライブ)”でした。例えば、日本4大フェス(FUJI ROCK、RISING SUN、SUMMER SONIC、ROCK IN JAPAN)を見ても、それぞれが自分達”らしい”ラインナップのアーティストを毎年揃え、ライブが行っています。各フェスに集まる多くの観客は、基本的に「○○が見たいから行く」とか「このフェスのラインナップは外さない」とか”アーティスト”主体で選んでいる人が多いのではないかと思います。
一方で、もはや”アーティスト”のみで既に存在している他フェスと「差別化」を図って生き残っていくのは難しいのではないかなぁというのが率直な感想です。皆さんの中にも同意見の方は多いかもしれませんが、ぶっちゃけた話、フェスで集客ができるアーティストラインナップって大枠は大体固まってきてしまってるんですよね。主催者はもちろんフェスをやるからには商業的成功も収めたいわけなので、どのフェスだってある程度その固まった枠の中からアーティストを呼ぼうとするわけです。ゆえに、後発のフェスがそのあたりのラインナップを揃えに行っても、例えば「ロッキンと大して変わらないなぁ」って声が出てくるようになってしまいますし、そこはいわゆる「先行者の利益」、つまりその年になにか1つのフェスにしか行けない場合、その人がブランドバリューのある老舗フェスを選択することを想像するに難くないということです。
じゃあ、何が重要になってくるのだろうと考えた時に出てきたのが、上記目玉以外にもう一つの目玉を作る、ということです。つまり「アーティスト」×「○○」というフェスの形が、後発フェスが老舗フェスとの差別化を図っていけるひとつの道なのではないかなぁ、と感じるわけです。
前述のCRAFT ROCKはまさにその典型でした。このフェスの目玉はその名の通り「ビール」×「アーティスト」です。
フェスにビールはつきものですよね。ライブの御供にビールは欠かせません。ただ、このフェスの場合、「ビールの御供にアーティスト」と言ってもいいんじゃないかと思うくらいにビールにフォーカスを当てていたのが特徴でした。国内外の50種類以上の地ビールを一堂に集め、ビールタイムテーブルなるものまで作ってしまう気の入れよう(笑)。そしてラインナップ自体もビールを飲む様々なシチュエーションに合うようなアーティストがセレクトされています(ライブハウスで飲むビール、おしゃれなレストランでジャズを聴きながら飲むビール、みたいな感じでしょうか)。もちろん、アーティスト自身もビール好き達が多いので、MC中にビールの話が出るわ出るわ(笑)。
結果的に「ビール」を大きな目玉に据えたことによって「アーティスト」にも色が出てくることに加え、単なるフェス好きではなく、「フェス好きの中でもビール好き」という一歩踏み込んだ括りの観客が集まることで独特の雰囲気が出来上がっていました(ここでポイントはフェス好きの中でも一定数以上のコミュニティになるビールを選ぶことで動員もある程度見込めている点です)。これまで数多くの初開催フェスに参加してきましたが、その中でも非常にインパクトの残るフェスでしたし、SNSやブログ等の感想を見ていても概ね高評価なので、次年度以降はもっと集客ができるんじゃないかな、と思っています。 上記のように「○○」×「アーティスト」の二大目玉性での「差別化」ですが、今後開催されるフェスでは次の目玉の組み合わせに注目しています。
①「観光(ロケーション)」×「アーティスト」
②「トークセッション」×「アーティスト」
①は、その名の通り「観光」そのものをフェスの目玉のひとつにしてしまい、フェスの中でライブと観光の両方を楽しんでもらってしまおうという贅沢な形のものです。ちなみに僕が今一番注目しているのが「温泉」です。全国の温泉地を移動しながら開催される「温泉音楽」は、今後も9/21に石川県は加賀温泉、10/19に東京の綱島温泉、12/6-7で長野県は渋温泉での開催が決定しています。温泉で体の疲れを癒した後に浴衣を着流しつつ日本酒片手にライブを見る、、、、最高ですね。温泉旅館という目玉が増えることでライブだけでは足を運ばない層の心にも刺さっていくかもしれません。
現在、音楽業界は大きな変革期を迎えています。ネットやSNSの発達によって、業界の状況を変えてしまうような新たな音楽サービスが次々に誕生したり、個人のメディアが大手メディアよりも大きな影響力を持ってしまう、そんなことが毎日のように起こっています。
②「トークセッション」×「アーティスト」型のフェスでは、ステージ上でアーティストのライブだけではなく、上記のような音楽を取り巻く様々な現状を各シーンのトップランナーたちのトークセッションも繰り広げられます。音楽好き、かつこれから何らかの形で音楽に関わっていきたいと考えている人達にとっては、参加をすることでアーティストのライブを楽しみながら知識まで得られてしまう、そんな一石二鳥のフェスになります。今後開催が予定されている9/13-15に渋谷で開催予定のTHE BIG PARADE 2014(ちなみに友人であり、キュレーション型音楽メディア「spincoaster」の代表・Jun Hayashi君が9/14の「デジタルネイティブ世代における音楽メディアの役割」に登壇予定です)や、11/1-3に恵比寿で開催予定のYEBISU MUSIC WEEKENDはアーティストだけでなくトークセッションの内容も興味深いモノが多いため要注目です。
と、かなり長くなってしまいましたが、フェス市場の動きを見ているとまだまだ衰退期にはいっていくには時間がありそうです。そして、フェスが増え続けている現状において、これからは確実に「○○」×「アーティスト」形のフェスは増えてくるのではないかと思います。 今後もどんな「○○」が現れて、新しい形のフェスとして僕らを楽しませてくれるのか、今から楽しみでなりません。
Aiコラム第3回「今、自分に何が出来るか 〜音楽とコミュニケーション〜」
▶プロフィール
- Ai_Tkgk
音楽を聴くだけでなく、「語る」ことが大好きなアラサーサラリーマン。
国際輸送部門で働きながら、プライベートでは音楽ライターの二足のわらじ。 -
15歳の時に、偶然行ったROCK IN JAPAN FES.2000とAIR JAM 2000に参加し、
ロック・パンクの洗礼を受けて以来、ライブハウスとフェスに通い詰めて10年以上。
得意分野は邦楽ロック、ただ、基本的には洋邦・ジャンル問わずなんでも聴く雑食系。