今年の始め、ソチオリンピックに向けてP&Gが制作したCMが世界中で感動の渦を巻き起こしました。しかし、同時にもうひとつの「騒動」も巻き起こすこととなったのです。その内容とは?実際のCMをご紹介しながら順を追って解説していきます。

概要

感動と便利さを送り出すP&Gと、そのやり方を問うGreenpeace

 みなさんは「P&G」と「Greenpeace(グリーンピース)」、その両方を聞いたことがあるのではないでしょうか?

 P&Gは、洗剤、シャンプー、化粧品、オムツなど、私たちの暮らしに根付く大手日用品メーカーです。一方、Greenpeaceは国際環境NGO。地球規模の環境問題を共有し、社会を変えていく活動をしています。

 事の成り行きを整理しましょう。

 2014年2月7日に開幕するソチ冬季オリンピックに向けてP&GのブランドCMが制作されました。そのCMはYouTubeですでに1900万回を超えるほど再生され、世界中にその感動が共有されました。

 しかし、そのCMに対し、CMがどうこう以前の問題として「P&Gの製品作りに対して重大な問題が隠れている」とGreenpeaceが物議を醸し出すCMを制作したのです。

 では、順々にご覧ください。

P&G「Thank You, Mom」

 まずはP&G、感動のCMです。 

 いつかオリンピックに出場できることを夢見て「スキー」「フィギュアスケート」「アイスホッケー」「スノーボード・ハーフパイプ」の4種目に取り組む4人の選手。その子供の頃からの様子を描いたCMとなっています。

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 生まれたばかりの赤ちゃん。お母さんに支えられて歩く練習をしています。

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 徐々に大きくなるにつれて、様々なことに興味を持ち、それぞれのスポーツへ打ち込み始める子供たち。

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 ただ、もちろんその過程では失敗はつきもの。

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 そんなとき、いつもそばにいて、支えてくれたのはお母さんでした。

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 そしていよいよやって来た、オリンピックの日。

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 立派な選手へと成長した子供たちは、世界の大舞台で力を出し切ります。

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 全力を尽くし、結果を残す選手たち。

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 そして、そのそばでずっと応援してきたお母さんたち。

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 最後は「転んだ数だけ強くなれることを教えてくれた。お母さん、ありがとう。」というコピーで幕を閉じるこのCM。涙なしには見ることができません。そして、そんなお母さんたちを支えているブランドとしてP&Gの存在価値を示しています。

ぜひ動画でもご覧ください。

感動の裏にあるもの

Greenpeace「Protect Paradise」

 一方、GreenpeaceのCMはこんなはじまり方をしています。

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 「おそらくあなたは、P&Gの『Thank You, Mom』のCMを見て、感動の涙を流した何百万人のうちの一人でしょう。」

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 「しかし、もしあなたの家にパームオイルの入ったP&G製品があったとしたら、あなたが知っておくべきもうひとつの物語があります」

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 インドネシアにて

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 ここでは、多くのオランウータンが保護されています。なぜ彼らは保護されているのでしょうか?

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 実は、パームオイルは石鹸や洗剤など暮らしに身近な製品に多く使われています。そして、そのパームオイルの大量使用が原産である熱帯雨林の破壊につながっていたのです。

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 住処である森林を奪われたオランウータンたちは、どんどん追いやられ、死に伏せてしまう状況まで追い込まれています。

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 野生のオランウータンは今では100年前の8%ほど、わずか15,00025,000になってしまったと言われています。

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 「パームオイルプランテーションのために熱帯雨林を破壊することは、お母さんのいないオランウータンをつくり出すことです。」

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 「ありがとう、P&G」(P&GのCMタイトル「Thank You, Mom」に掛けて)

 すべての森林破壊の原因がP&Gのせいだとは思いませんし、製品を通して多くの人の暮らしをより健康に安全にしていることは間違いないと思います。ただここまで世界的な大企業である以上、環境に対する社会的責任を負っていかねばならないのも確かです。

 それにしても、メッセージの伝え方がかなり痛烈ですね……。 

動画はこちらです。

 

最後に

企業もクリエイターも、映像制作の際に気をつけるべきこと

 おそらく、今回の騒動は長い期間行われてきたやり取りのごく一部に過ぎないのだと思います。「表現どうこう」という話を超越した大きい問題になっていますが、企業やクリエイターとして気をつけるべき点としては、商品やサービスの映像をつくる時にはこういった「誰かにとって不幸になっていないか」という視点がとても大切だということです。

 日本で毎年10月に行われる乳がん撲滅のキャンペーン「ピンクリボン運動」でも、“まだ病気になっていない人に対して定期検査を訴える”のが目的となっていますが、その際の表現として“乳がんの人やその家族・関係者が傷つく表現はしてはならない”というルールがあります。

 今は良いものも悪いものも拡散されやすい時代です。ターゲットのこと、商品のことを考えるのも大事ですが、その表現によって誰一人として不幸にならないものをつくってほしいですね。

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