心ここにあらず

誰かの人生に余計なことを提供するブログ

ホテルマンだった私が体験した怖い話。

私は大学生時代そこそこ名のしれたホテルで客室係としてアルバイトをしていた経験がある。ホテルに泊まるお客さんは結構個性的な人も多く、面白い経験もしたしハレンチな経験もしたし、めっちゃむきむきな黒人の男性に密室に閉じ込められるなんていう経験もした。

 

実はそのホテルはいわゆる「出る」ホテルとしても知られていて、アルバイトしている時に何度も異音のクレームをもらったが、その大半が原因不明のものだった。そのうち私も慣れてしまって、クレーム対応の際に「よくあることなんですよぉ」なんて言ってごまかしていた。他にもアルバイト中に何度も怖い体験をしたし、中にはまじで召されると思ったこともある。しかし怖すぎるのでここに書くのはやめておこうと思う。書いたら召されるかもしれないし。

 

あるとき深夜二時頃に例の「隣の部屋から異音がする」というクレームが来て、何の気なしに隣の部屋の情報を調べると、空室。もう私はこの辺で「あ、やばいやつや」なんて思いながら必死に誰かにこの仕事をなすりつけようとするのだが、そう考えるのは誰しも同じ。最初にその仕事を引き受けた私に選択権はなかったのである。

お客さんの思い込みかもしれないしということで、現場に向かう。確かに異音がする。いや、異音というよりもう完全に夜の営みの鳴き声。空室のはずの部屋から鳴き声が聞こえる。何度も確認したがその部屋から聞こえるのである。

ホテルはオートロック式なので、誰かお客さんが間違えてその部屋を利用してあれやこれや営んでいる可能性は0。もう私は実態のない何らかのものが営んでいると確信したし、インターホンを押しても反応がないので、システム上空室のはずのその部屋の状態を確認するために合鍵を使って部屋内に突入することになった。

 

突入するとその異音はより一層大きなものになった。「ああこれはこの世のものではないものが私の侵入を拒否しているんだ。」なんて思いながら大きな声で語りかける。「客室係でございます!!!どなたかいらっしゃいますか!!!」今思えばあの世のものがいらっしゃったらまずい。相当まずい。しかし私は冷静さを失い、声をかけ続けるのである。

 

ドア付近から声をかけ続けるも反応はなく、未だに異音は鳴り響く。むしろ激しさを増している。もうなんかどういうことが起きててもおれにメリットねえなぁなんて思いながら真っ暗な部屋の中でベッド横のランプが点灯していることを発見。ムーディーなライティングしてんなぁという感想を抱いたり抱かなかったりした。

 

思い切って部屋の中に進んでいくと、何か明かりがチカチカしていることに気づいた。ポルターガイストだなと思いながらもこのチカチカどこかで見たことがある。デジャブ。そうだ、暗い部屋でテレビを付けた時こんな感じだ。

 

部屋の構造上テレビはベッドのほうに向いている。そのチカチカしたライトにベッドが照らされている。私は覚悟を決めてベッドを見た。もぞもぞしてない。薄暗くてはっきりはしないが、男女が営んでいるような影は見えない。周りを見渡すが何もない。まさかと思いテレビを見ると、そこには俗にいう大人の映像が流れていた。なんてこった。

 

しかし問題は誰がこの有料チャンネルをつけたのかということである。もう一度ベッドを見るとそこには人影が。男性がぐっすり寝ているのである。もうこの際空室のはずの部屋に有料チャンネルを見ながら寝ていた男性がいるとかどうでもよく、さっさとこの男性をたたき起こして帰りたいという一心だった。

「お客様!お客様!」とゆすり起こすと知った顔がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

ホテルの偉い人だ

 

 

 

 

 

 

かろうじて叩き起こしきれていない。この方が夢現な状態の隙に逃げねば。しかし隣のお客様にこれ以上迷惑をかけることはできない。そっとテレビを消し、ダッシュで部屋を後にしたのである。

 

事務所に戻るとみんなから「お疲れ様」といわれ、ホテル内にある高級スイーツ店の高いケーキが私のデスクにおいてあった。私がやんややんやしている間に偉い人の秘書から、その部屋を偉い人が利用しているという情報が入ったそうで、絶対に私が偉い人に怒られて戻ってくるだろうと心配した社員さんが、ねぎらいのためにスイーツ店の人にお願いしてもらってきてくれたそうだ。途中でもお前が対応に来いよ

 

後日バイトに行った日にその偉い方から差し入れがあった。どうやら有料チャンネルを消されていたことで誰かが部屋に来たことを察知したらしく、情報から私の名前を発見し、口止めとして差し入れをしてくれたようだ。私としても普段は威厳バリバリな偉い人が大人の映像を睡眠導入剤として利用しているなんて口が裂けても言えなかったし、なんか大人って大変だなぁと思ったものである。

 

みなさんもホテルを利用する際には有料チャンネルの怨霊(音量)に気をつけて頂きたいという話である。