人生は偶然でできている
—— 『弱いつながり 検索ワードを探す旅』刊行おめでとうございます。今回、東さんにとっては初めての、哲学や批評に興味のない読者を想定した、読みやすい本ということだったんですけど、どうしてこの本を書かれたんですか?
東浩紀(以下、東) そうですね、当時幻冬舎の編集者に中島さんっていう方がいて、その方からお願いされた企画です。ただ……、突然中島さんが幻冬舎から去ってしまって。その後もうちの会社を手伝ってくれたりとかして、今はcakesというメディアにいるようですけれども。
—— えっと……。
東 あ、あれ? もしかして同じ中島さんでは?
—— き、奇遇ですね……。
東 全然気がつかなかった!
—— あははははは(汗)。
東 どうこの始まり方(笑)。
—— あの……、ソワソワしてます(笑)。せっかくなので、元担当編集として踏み込んでお話を伺うためにも、当初の経緯をお話すると、東さんの飲み屋話を、エッセイにしたいなと思って企画をご相談したんですよね。
ツイッターやトークイベントとかでの東さんのはっちゃけた人生論や、世間へのツッコミの冴え渡っている様子などを拝見していました。そこで、語り下ろしを構成し直す時事放談スタイルをご提案しました。
東 そうそう。ただ、この本にまとめる段階で、そこらへんの時事的な雑談はだいぶ削って、元々の連載の2/3以下の分量になってます。そういう意味でも読みやすいんじゃないかと思います。
—— 連載時の原稿(星星峡 & cakes掲載『検索ワードをさがす旅』)に入っていた、口内炎が大変だとか、突然思い立って奥様と長野オリンピックにいったら当日券なんてなかった、トホホ……というエピソードなども、とても楽しかったんですけどね。
東 この本は、今までのかっちりした本に比べると、自己啓発っぽいというか、軽い感じに見えるかもしれないですけど、その修正のせいで意外とちゃんとぼくの思想が出ます。ぼくが今までやってきたことが驚くぐらい一貫して説明されている。
—— と言いますと?
東 自分で自分の仕事について説明してるんだから、当然といえば当然なんですけど、今までの東浩紀の活動が、こんなにクリアに一貫して説明されたことはないんじゃないか(笑)。古くからの読者さんも驚くんじゃないかと思います。
思えばぼくは、まずフランスの哲学者デリダについて本(『存在論的、郵便的』1998年)を出して、つぎにオタク論(『動物化するポストモダン』2001年)を出して、出版社(「コンテクスチュアズ」改め「ゲンロン」2010年)を立ち上げて、ゲンロンカフェとかやって、チェルノブイリ(『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』2013年7月)行って、今度は福島(『福島第一原発観光地化計画』2013年11月)に行って……。
—— 確かに、活動の遍歴を知る人は、東さんが新しいことをするたびに「東浩紀よ、どこへ行く」と思っていたかもしれないですね。
東 でもそれは難しく考え過ぎなんですよ。これ読めば、こんなに簡単なことだったのかと驚くと思います。この本は「よくわかる東浩紀」だなって、自分でゲラを直していて思いました。
—— ネットとリアルや、世相のことを読み解いているつもりが、そこに貫かれているものを読むと、「なんだこれは東浩紀のことじゃないか」と。
東 そうそう。そういう意味でもこれは、「みんないろんなこと気にし過ぎだよね、でもオレは気にしてないからさ(キリッ)」みたいな本です(笑)。
—— 「いろんなこと」というのは?
東 貯金して、いつ結婚して、いつ子供産んで、とか。
—— 本書で、何回も同じ人生を生き直せれば、統計学的には利益の大きい計画は立てられるけれど、「一度きりの人生」においては、ちょっとした偶然で簡単に計画が吹っ飛んでしまうというお話がありますね。
東 そうです。
—— そう言えば、東さんは当然エゴサーチ済みだと思うのですが、ネットに「東さん、あの時こう言ってたけど、今反対のこと言ってるのおかしくない? どっちなの?」っていう発言の矛盾を集めたツイッターまとめがあるじゃないですか。思想の一貫性がないのでは的な。
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