以前、ブティック投資銀行のことを紹介する記事を書きましたが、そんな中堅投資銀行のひとつ、エバーコア・パートナーズ(ティッカーシンボル:EVR)が、今日、引け前に「ISIを買収するのではないか?」という噂が流れ、これを嫌気して株価が-8%急落しました。

エバーコア・パートナーズは元リーマン・ブラザーズの幹部で、ワシントンDCにも太いパイプを持つディールメーカー、ロジャー・アルトマンが設立したブティック投資銀行です。

一方、ISIは1991年に著名エコノミスト、エド・ハイマンが設立したリサーチ・ブティックです。エド・ハイマンは34年間連続して『インスティチューショナル・インベスター』のリサーチ・ランキングでトップ・エコノミストに選ばれた重鎮です。

もともとISIはマクロ経済のリサーチだけに特化していましたが、現在はいろいろなセクターに調査範囲を広げています。現在の従業員は230人ほどです。

一見すると調査に強いISIを買収するのはエバーコア・パートナーズにとって良いディールのように見えますけど、なぜウォール街はこれほどこのディールを嫌っているのでしょうか?

それはウォール街では昔から調査部は「コスト・センター」と見做されており、利益を生みにくい業務だという先入観があるからです。

普通、投資銀行はあるセクターにアナリストを配置すると、必ず法人マンもつけます。公募増資や新規株式公開などのディールを取るためです。逆に言えばリサーチは法人マンが「うちもあなたのセクターをちゃんと調査してます」と訪問先で言えるようにするための、必要悪なのです。

ISIの場合、設立当初から、「うちは調査だけに特化しており、発行体企業とは取引しません。だから利益相反はありません。その分、うちのレポートを読みたいなら、委託手数料を落としてください」というビジネスの作り方をしてきました。

だからエバーコア・パートナーズがISIを買うと、調査アナリストの独立性が失われることを意味します。またISIが調査しているセクターに、エバーコア・パートナーズの法人マンがちゃんと配置されていないミスマッチも、あちこちで見られます。だからこのディールはシナジー(相乗効果)を生まない可能性が高いのです。

もちろん、ISIのリサーチはユニークです。

僕自身、証券界に入ったのは三洋証券が振り出しでした。日本株をガイジンに売る、国際営業部に配属されたのだけれど、別の階にあった外国株式課にアメリカの中堅証券、CJローレンスから、毎週、エド・ハイマンのマクロ経済のレポートが送られてきていました。誰も読む人が居なくて、ゴミ箱に直行しているそのレポートを「これ、僕にください!」と断って、むさぼるように読んだ懐かしい記憶があります。思えば、それは僕とアメリカ株の最初の出会いでした。

当時CJローレンス証券には石油会社を担当するチャーリー・マクスウェルというアナリストも居て、エド・ハイマンとチャーリー・マクスウェルは僕のヒーローでした。(できればCJローレンスに転職したいな……)そう思っていました。

たまたまその頃、CJローレンスからSGウォーバーグの株式部長に抜擢された人が「日本人を探している」ということで僕は面接しに行ったのですが、その時、エド・ハイマンのレポートに出てくる「モロサニ指数」という経済指標を編み出したひとが、ジョン・モロサニだと知って狂喜した記憶があります。

そんな具合なので、エド・ハイマンのレポートには僕もずいぶん想い入れがあるわけだけれど、ハッキリ言ってISIの出すレポートに昔ほどの「神通力」は感じません。

それからこういう言い方は失礼かも知れないけど、エド・ハイマンも、もういい歳なので、そろそろ暖簾を譲ることを考えていると思うのです。だから折角、彼の書いたモノを読みたいと思う読者が多くても、ISIがエバーコアに売却されれば、ハイマンも後ろ髪引かれる思いをせず、一線から退くことが出来るというわけ。

つまりエバーコアは空箱を買わされているのです!

きょうびウォール街のリサーチに律儀に手数料を落とすような投資家が、どれだけ居るでしょうか? その意味で、このディールは、発想が古いです。

若し、本当にウォール街がISIのレポートを有難がっていれば、今日のニュースでエバーコア・パートナーズの株価が暴落するような反応を示すわけ無いと思うんです。

淋し過ぎる!