忙しい先生たち 解消策を探る
8月1日 19時50分
多くの学校が夏休みに入っているこの時期、先生たちは研修に追われています。
算数の指導法を研究するセミナーや、生物の観察やなわとびの講習会などその内容はさまざまです。
6月に発表されたOECD=経済協力開発機構の調査で、日本の教員(対象は中学校)の勤務時間は34の国と地域の中で最も長いことが分かりました。
なぜ、日本の教員はそんなに忙しいのか、学校で何が起きているのか。
静岡放送局の木原恵記者と社会部の松井裕子記者が解説します。
密着 教員の1日
静岡県焼津市の小学校に務める増田奈美子先生。
教員歴20年、今は6年生の担任を務めています。
増田先生が学校に姿を現したのは朝7時すぎ。
授業が始まる1時間前です。
この日、まず取りかかったのは、地元の子供会が行うラジオ体操の修了証の宛名書きです。
朝の時間は授業の準備をしたいと考えていますが、地域との関わりを保つには欠かせない仕事だといいます。
午前8時半から12時すぎまでは4時間の授業。
そのあとの給食の時間は、本来、子どもたちと触れ合う貴重な時間ですが、増田先生は提出物のチェックに追われ、ようやく給食を食べ始めた時には子どもたちはすでに食事を終えていました。
先生は、10分足らずで給食を済ませ、次の授業に向かいました。
午後3時半。
授業が終わり、放課後となりました。
この時間は、翌日の授業の準備や子どもと向き合うために使いたいところですが、教員たちは教育委員会に報告する書類の作成などに追われていました。
増田先生が学校を出たのは午後7時すぎ、この日の勤務時間は12時間でした。
教員の間で募る危機感 子どもに向き合う時間が足りない
この小学校ではこうした教員の現状に危機感を持っているといいます。
曾根俊治校長は「授業を通して子どもたちに力をつけていきたいと努力しているが、教員がそのための時間を使えていない」と話しています。
学校では、子どもと向き合う時間を増やすため、これまで放課後に毎日行っていた会議を週2回に減らすなど業務の見直しを進めました。
その結果、教員の間からは以前より、授業の準備のために使える時間が増えたという声も聞かれます。
しかし、ちょうど取材をしていた日も増田先生は午後の授業を切り上げて、市の校長会が主催する研修会に出かけていきました。
先生に話を聞くと、こうした出張は今年度、すでに10回に上るということです。
増田先生が研修を終えて学校に戻ったのは夕方5時前で、すでに教室に子どもたちの姿はありませんでした。
増田先生は、「とにかく時間が欲しいんですが、次から次へとやることがあります。自分たちだけでなく、子どもたちも慌ただしい感じがします」と話していました。
授業以外で高まる多忙感
静岡県教育委員会がことし3月に教員を対象に行ったアンケートでは、7割を超える教員が「子どもと向き合う時間」や「授業の準備の時間」が前の年より減ったと回答しています。
取材した学校でも、「子どもとのんびり過ごす時間がほしい」「授業の準備を十分にしたい」という声が多く聞かれました。
また、OECDの調査によりますと、勤務時間の内訳のうち、授業の時間は参加した国と地域の平均で19.3時間。
日本は17.7時間と平均より短かったものの、部活動などの課外活動は7.7時間と平均の3倍余りに上り、事務作業の時間も平均のおよそ2倍でした。
一方で、学級運営や教科指導などに対する自己評価は低く、特に「生徒の批判的思考を促す」指導や、「生徒に勉強ができると自信をもたせる」指導ができていると自分を高く評価した教員の割合は平均のおよそ5分の1にとどまりました。
文部科学省は「幅広い業務が重なり子どもたちの指導に集中できていないのではないか」と分析しています。
子どもに向き合う時間を確保 カギは専門職とのチーム力
一番心配なのは、多忙な教員のしわ寄せが子どもたちに向かわないかということです。
名古屋市ではいじめなどの深刻な問題を見過ごしかねないとしてことし4月から対策を始めています。
市立高針台中学校にも「子ども応援委員会」という部屋が設けられました。
メンバーは4人です。
子どもの心のケアを行うスクールカウンセラー、福祉面のサポートをするスクールソーシャルワーカー、学習支援などの専門家、そして学校安全を担当する元警察官です。
これまで教員だけで担ってきた業務を、専門職に分担してもらいます。
チームで子どもたちに向き合うのがねらいです。
きっかけは、去年、市内の中学2年生の男子生徒がいじめなどを理由に自殺したことでした。
有識者による検証委員会の報告書では、生徒の心情への理解が不十分だったことに加え、いじめを見過ごした背景のひとつに、教員の多忙さがあると指摘されたのです。
名古屋市は「子ども応援委員会」を11の中学校に配置。
メンバーは職員会議にも毎回参加して、生徒の情報を教員と共有します。
教員が授業を行っている間でも、不登校や経済的困窮などの悩みを抱える生徒や保護者の話を1時間から、時には半日かけて聞き、解決策を探ります。
応援委員会のメンバーの1人で、スクールアドバイザーの鈴木祐孝さんは「教員ももちろん個々の生徒のことに気を配っているが、十分にその子だけを見つめることはなかなか難しいと思う。そのあたりをカバーしていきたい」と話していました。
教員たちも効果を感じ始めていて、「教材研究の時間がとれるようになり、心の余裕ができてきたと感じる」と話していました。
教員の忙しさ解消 国も乗り出す
取り組みとしては、この他、部活動に外部指導員を活用したり、事務作業を専門に行うスタッフを配置したりする動きが出てきています。
文部科学省は、名古屋市のようにチームで子どもに向き合う態勢を整えていく必要があるとして、学校内の役割分担や連携の在り方を見直し、多様な専門性を持つスタッフを配置することについて中央教育審議会に諮問し検討を始めました。
子どもにも影響を及ぼすと指摘される、教員の忙しさ。
解消に向けた取り組みが始まろうとしています。