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竹内研究室の日記 RSSフィード Twitter

2014-07-20

早稲田の博士論文の判断の裏にあるのは、「大学で勉強しなくても企業に入ってから滅私奉公すれば良い」といいう社会。それでグローバルな競争を戦えるのか。

早稲田の小保方さんの博士論文への対応は実に考えさせられるところが多いです。

いい加減な論文でも学位はオッケー、というのはまじめにやっている学生や指導している教員にとってはやり切れない思いでしょうね。

それに、少なくとも早稲田の(早稲田以外もある?)学位のレベルがばれてしまったわけで、博士取得者への評価も下がるでしょう。

でも、実はこの件で腹を立てているのは、自分のような大学教員や(苦労して)博士を取った人だけかもしれません。

大概の人は、「別に学位を与えて人が死ぬわけでもないし、お金が無くなるわけでもない。別にいいじゃないか」という反応かもしれません。

政治家の発言などには、そういうニュアンスを感じますね。

というのも、学位の基準になると、誰しも自分のことを思い出してしまうわけです。

博士は取ってなくとも、「そういえば、自分は大学ではほとんど勉強しなかったし、いい加減な卒論でも卒業できたよな」と。

だから、博士論文の基準もいい加減で良いのではないか、という社会の雰囲気を感じるのは私だけでしょうか。

こういう、「たとえ出来が悪くても、勉強しなくても学生を卒業させろ」というプレッシャーはどの大学の教員も感じていることでしょう。

確かに以前の(今でも?)日本社会では、大学というのは入試で学生を選別し、いわば、高校卒業の時点での学生の学力を測る認定機関のようなものだったのかもしれません。

たとえ学生が大学で勉強して居なくとも、少なくともこの大学に入れたのだからポテンシャルがある、企業の中で鍛え直せば使い物になる、という考えですね。

ただ、それは、企業の中で長期の雇用が保証され、企業はじっくり人を育てるし、従業員は企業に長期間の忠誠を誓う、というモデルです。

今やグローバルでの競争は厳しく、事業の移り変わりも激しい。

世界市場で日本の携帯電話メーカーを退場させたノキアがスマホ市場では出遅れ、マイクロソフトに買収され、とうとうリストラになりました。

先は誰にもわからない時代では、企業も長期の雇用を保証できなくなっていますし、個人としても就職してからも新しいスキルを自ら学んで行く必要があるのです。

企業としても、時代の変化とともに事業を変える必要があるのですから、会社に盲目的に頼りっきりの人よりも、自ら学び、新しい分野に挑戦していこうする人材が欲しいのではないでしょうか。

このように移り変わりの激しい時代には、大学のような教育機関の役割は重大です。

一度社会に出た人でも、学び直しが必要になりますし、何よりも自ら学ぶ習慣を学生に身に付けさせることが大切になります。

それが日本の大学が十分にできているかというと、まだまだです。

大学も変わらなければならない時に、今回の博士論文の騒動が持ち上がりました。

率直に言って、今回の博士論文騒動で、日本社会は大学に大して期待していないし、以上で書いたような問題意識は、社会の方にも大学にもさしてないのだろうな、とガッカリしました。

ところで、私は子供が中学受験。試験問題を見ると、本当に難しくなりました。大学に入学する学生の学力が落ちているのに、このギャップは何だろう?、と考えさせられてしまいます。

あの難しい問題を解いた子は、6年後にどうなるんだろう?

中高一貫のトップ校の説明会に行くと、もはや「東大合格」は大した目標になっていないのですね。

むしろ、最も優秀な学生には、海外の大学に飛び出していくことを奨励しているように感じました。

企業も個人も変わり続け、学び続けなければ生き残れない時代に、ユルユルの日本の大学では心配である。日本の大学が見捨てられるのは大学教員としては困ったものですが、親としてはとても理解できます。

教育と社会は表裏一体で、今回の早稲田の博士論文の件は、ある意味で現在の日本社会を映し出しているのではないでしょうか。

学生の学力が下がっても、「それでも大学を卒業させろ」という社会のプレッシャーもあり、教える内容や卒業基準がゆるくなる一方の大学。

教育の現場レベルでは、学生に厳しい先生は敬遠され、単位を簡単に出す教員が歓迎される。

学力が低下した学生でも使わざるを得ない企業。

この負のスパイラルは、企業が外国人の採用を積極的になったり、優秀な高校生が海外の大学に進学したり、いい加減な大学の経営状態が悪化することで少しずつ顕在化しているのかもしれません。

早稲田の博士論文に関しては、同様にいい加減なものが多く収拾がつかないので不問にする、という超法規的(?)措置で終わりそうですが、早稲田だけでなく、日本の大学や社会は今後もこれでいいのでしょうかね。

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