サッカーW杯敗退 「自分たちのサッカー」って何? ネットで“ネタ化”…
産経新聞
「『自分たちのサッカー』って何?」−。サッカーワールドカップ(W杯)ブラジル大会で1次リーグ敗退に終わった日本代表。ネットで落胆やねぎらいの声が飛び交う中で、選手が相次いで口にした言葉への違和感が表明されている。人気アニメ映画の「ありのままで」という表現と合わせ、議論は自己肯定のあり方にまで及んでいるようだ。
「自分たちのサッカーができなかった」−。W杯1次リーグの各試合後、日本代表選手や監督が何度か口にしたこの言葉。残念な結果も影響してか、多くのネットユーザーの心に「引っかかり」を残したようだ。
「『自分たちのサッカー』の結果がこれじゃないの?」「もうNGワードにしようよ…」(ツイッター)
こうした声が相次ぐ中、新聞記事をもとに過去の大会で監督や選手が「自分たちのサッカー」という言葉を使った回数を調べたネット記事も登場。さらに、「会社遅刻の理由は自分たちの通勤ができなかったから」「自分たちの試験勉強ができなかった」といった「ネタ化」も広がっている。
◆根拠なき自己肯定?
もっとも、プレースタイルや戦術を「試合直後に懇切丁寧に説明されても困る」などと、限られた時間内でインタビューに答えている選手たちに同情的な声もある。また、これまでの日本代表の試合を追ってきたサッカーファンならその“大意”は理解できるものとして、「騒いでいるのはにわかファンだけ」といった反発も起きている。
ただ、中には、大ヒットしているディズニー映画「アナと雪の女王」の主題歌「Let It Go〜ありのままで〜」と絡めて、「『自分たちのサッカー』という言葉は『ありのままの自分が受け入れてもらえる』みたいな甘ったれた言葉」と突き放した意見も根強い。
もちろん、「自分たちのサッカー」はプレー内容と合わせて分析できるし、「ありのまま」というフレーズは、封じていた自身の力を解放するという物語の文脈に沿った歌詞だという前提がある。しかし、こうした言い回しに首をかしげる人々が少なくないのは、文脈から離れた根拠の乏しい自己肯定や自己完結が不毛に映るからかもしれない。
◆「自分らしさ」の限界は
タレントのタモリさんは6月13日に放送されたニッポン放送のラジオ番組で、「腹立つ言葉」として「ありのままの自分」や「自分らしさ」を挙げ、「自分で自分らしさって言ってどうすんだ」「自分でも自分は分からない」などと主張。この発言を伝えるニュースには、フェイスブックで800以上の「いいね!」が押され、共感が広がった。
ネットでは以前から「自分探し」「オンリーワン」といった言葉を懐疑的にみる意見が目立ち、「結局、暗示をかけて現実から逃げて、弱い自分をごまかしてるだけ」といった声も上がっていた。一方、「ある程度自分を肯定しないと辛(つら)いだけ」とする反論もある。自己肯定をめぐる議論は個々の生き方にも直結し、一般論では収まらないのだろう。
ところで、もし日本代表がW杯で躍進していたら、「アナ雪」と相乗効果で空前の「自分らしく」ブームが起きていたのかも…。敗退は「自分らしく」の“限界”を考えさせたという点で、有意義だったと言えるのかもしれない。いや、負け惜しみではなく。(三)