PR活動でも成功を収めるアメリカ
日本で特によく質問されることの一つが、「なぜアメリカ人なのにサッカーが好きなんですか?」というものだ。基本的には無知から出た質問でしかない。フットボール、ベースボール、バスケットボールを崇拝するという古びたアメリカのイメージを元にしたものだ。
アメリカ代表の戦いぶりが、その誤解を振り払ってくれることになりそうだ。イタリアやスペインやイングランドといったチームが帰国を強いられる中で、アメリカは「死のグループ」と見なされていたグループGで素晴らしいパフォーマンスを披露してみせた。
ガーナ、ポルトガル、ドイツに対して見せたアメリカ代表の不屈の闘志も強く目を引いたが、本当の意味での勝利が得られたのはフィールド外だった。アメリカ合衆国サッカー連盟(USSF)の見事なPR活動の成果によるものだ。
楽しいものから士気を高めるものまで多彩なマーケティング手法を用いて、彼らは国内からの注目を捉えるとともに、サッカーにはアメリカのスポーツ界において支配的な勢力となるポテンシャルがあることを示してきた。
ドイツ戦の前には、アメリカ代表のプレーを観戦できるように従業員に休日を与えてほしいとユルゲン・クリンスマン監督が経営者たちに行った呼びかけが2万6千回以上リツイートされた。ニューヨーク州知事アンドルー・クオモはこれに応え、州職員に昼休みの延長を認めた。彼らが観戦した試合は結局0-1の敗戦に終わったが、いずれにしてもアメリカはベスト16へ進出することができた。
アメリカ代表をサポートした政治家はクオモだけではなかった。バラク・オバマ大統領はエアフォースワン機内で試合を観戦している様子がツイートされ、ジョー・バイデン副大統領はガーナに2-1の勝利を収めた試合を現地で観戦していた。
ほかにも数え切れないほどのセレブやアスリートたち、スポーツチームなどが、丁寧に製作された画像やYouTube動画を通してサポートの意志を示していた。ボストン・レッドソックスやレスリングのスーパースターのハルク・ホーガン、人気俳優・コメディアンのウィル・フェレルなどもその一部だ。フェレルはUSSFによってレシフェへ送り込まれて様々なイベントに参加していた。
こういった動きを数千マイル離れた場所から眺めていると、日本のスポーツ団体が競技を宣伝する上での努力の乏しさと比較せずにはいられない。JFAが唯一行ったソーシャルメディア上でのキャンペーンは6月3日に公開されたパーソナルビデオメッセージだったが、これも失敗だった。JFAのツイートは返信(リプ)として書かれたため、自らのタイムライン上で投稿を目にすることができたファンはわずかでしかなかった。
以来、JFAもJリーグも、それぞれのソーシャルネットワークアカウントでワールドカップに関連するマルチメディアコンテンツ(写真や動画など)は一切投稿していない。特にリーグのアカウントは、世界的な大会を完全に無視してしまっている。代表チームのファンをJリーグに取り込む工夫が欠けていることは、ある人気女優のツイートに集約されている。彼女は海外ではなくJリーグでプレーしている日本代表選手もいるという事実を知って驚いた様子を見せていた。
JFAもJリーグも、新たなメディアを採り入れることにはいつも抵抗を示してきた。サッカーの宣伝は今回も、伝統的に野球を中心としてきた紙媒体とTVメディアに任されていたが、これらの媒体はサムライブルーが戦いを終えるとすぐに悪意を込めた攻撃を繰り出していた。敗退翌日のスポーツ紙の一面は残酷どころか野蛮とも言えるほどで、まったく不要なものでしかなかった。数日後にはこれらの新聞はまたプロ野球とMLBの報道に戻り、サッカーに注目が向けられることは滅多にないのだろう。
日本でのツイッターなどのソーシャルネットワークの利用はここ数年で爆発的に広がり、スマートフォンやタブレットでウェブを巡回する日本人もますます増加している。どんな組織にとっても、もはやマルチメディアを豊富に採り入れたコンテンツを避けられる言い訳は存在しない。大きな努力が必要になることは確かだが、その見返りも大きい。だが力を持つ者たちが、(少なくとも日本国内においては)未踏の地であるニューメディアへの挑戦を恐れ続けているばかりでは、ザックジャパンと同じ結末を迎えてしまうだけだ。期待だけが大きくとも、失望以外にほとんど何ももたらさないという結末だ。
今週、元日本代表の加地亮がMLSのチバスUSAへの入団を発表した。日本の他のベテラン選手たちが後に続くとすれば、これは画期的な移籍となるかもしれない。JFAが本気で日本のサッカーへの熱気を再建したいのであれば、加地の後を追ってアメリカサッカー界のPRの成功について研究すべきだろう。この国が野球と相撲しか存在していなかったJリーグ以前の時代に逆戻りしてしまう前に。
文/ダン・オロウィッツ
米国フィラデルフィア出身。Goal.com日本版所属のサッカージャーナリスト。
2006年より東京在住。メールはdan.orlowitz@goal.com、ツイッターアカウントは @aishiterutokyo