田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 テレビ報道を検証する任意団体「放送法遵守を求める視聴者の会」(百田尚樹代表理事)が興味深いアンケートを公表した。「最近のテレビは偏向報道が増えている」という質問に対して、「すごく増えている」と「増えていると思う」の回答両方で、67・8%にもなっているのである。

 「偏向報道」というのは、専門的な知見や社会的な常識などから著しく偏った報道を一定期間行っているときに使われている言葉だろう。もちろん単に報道することだけではなく、いわゆる「報道しない」ことも含まれている。世界的に当たり前の知見や事実が日本だけ報道されていない事例などを指す。
2017年3月、「放送法遵守を求める視聴者の会」の代表理事に就任し、あいさつする作家の百田尚樹氏(左から2人目)
2017年3月、「放送法遵守を求める視聴者の会」の代表理事に就任し、あいさつする作家の百田尚樹氏(左から2人目)
 特に日本では、放送法の第1条第2項で「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」とある。しかし、森友学園問題や加計学園問題などを中心に、テレビの報道は本当に「不偏不党」だったのか、しばしば議論の対象になっている。もちろん二つの学園問題だけではない。筆者の主なる関心である経済問題についても、専門的な知見というよりも特定の既得権団体、つまり財務省などの官庁、国債市場や民間金融機関の関係者などの意見だけが大きく取り上げられている傾向に思える。

 素朴な観測をすると、全国放送レベルで、「ニュースウオッチ9」(NHK)「報道ステーション」(テレビ朝日系)といった平日午後9時以降の報道番組で、いわゆるリフレ派の経済学者やエコノミスト、経済評論家が出演して、経済政策についてコメントや解説することはまれといっていい。

 リフレ派とは、日本の長期停滞の原因がデフレとデフレ期待にあるとし、その解決策として日本銀行の政策スタンスが重要だとする政策主張者たちである。特に政治的な主張と連動しておらず、政治スタンスはそれこそ保守からリベラル、左翼まで属している。ちなみに、日銀の政策スタンスのキーは、デフレ予想を転換することであり、インフレ目標と大胆な量的緩和を唱えるのが定番である。

 政策レベルでいえば、アベノミクス「第一の矢」である大胆な金融緩和政策とほぼ同じになる。「ほぼ」としたのは、日本銀行の現状の政策に少なからぬリフレ派が不満足だからだ。海外では、リフレ派が主張する経済政策、つまりリフレ政策は「当たり前の政策」のひとつである。経済が停滞しているときに、積極的な金融緩和と財政拡張を行うことは、国際的には標準的な政策ツールである。ところが、日本のマスコミ報道ではその「国際標準」は例外扱いになっているわけだ。