米のシリア攻撃受け国連安保理が緊急会合 米ロが対立

米のシリア攻撃受け国連安保理が緊急会合 米ロが対立
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アメリカのトランプ政権が、シリアのアサド政権による化学兵器を使った攻撃への対抗措置だとしてシリアへのミサイル攻撃に踏み切ったことを受け、国連の安全保障理事会で緊急会合が開かれ、アサド政権を支持するロシアが主権国家に対する侵略行為だと非難したのに対して、アメリカは化学兵器の使用を見逃すことはできないと反論し、双方が鋭く対立しました。
今月4日、シリアの北西部の反政府勢力が支配する町が空爆を受け、少なくとも72人が死亡し、化学兵器が使用された疑いが持たれている中、アメリカのトランプ政権はアサド政権が化学兵器を使用したと断定したうえで、日本時間の7日朝、対抗措置として巡航ミサイルでシリア中部の空軍基地を攻撃しました。

こうした事態を受け国連の安保理では7日午前、日本時間の8日未明から緊急の会合が開かれました。
この中でロシアのサフロンコ次席国連大使は、アメリカによる攻撃について「シリアが化学兵器を使用した証拠がないまま行った侵略行為だ。シリア空軍の装備や施設への攻撃はロシアがシリアで遂行するテロとの戦いを困難にするものだ」と述べ、アメリカを非難しました。
これに対してアメリカのヘイリー国連大使は、「アサド政権によるたび重なる化学兵器の使用を見逃すことはできない。アメリカの安全保障にとっても死活的な問題だ」と述べ、攻撃の正当性を強調する一方、「われわれはさらなる行動をとる準備もしているが、その必要がなくなることを望む」と述べ、シリア側の出方次第では追加的な軍事行動をとる可能性も示唆し、アサド政権とロシアを強くけん制しました。

会合では、アメリカのミサイル攻撃について、イギリスやフランス、日本が支持や理解を表明したのに対し、中国や南米諸国などは攻撃の正当性を疑問視し、中にはかつてアメリカが証拠のないままイラクによる大量破壊兵器の開発を主張し武力行使に踏み切ったことを指摘する国もあり、各国の意見の隔たりが浮き彫りになりました。

反対や懐疑的意見も

安全保障理事会の緊急会合では、アメリカがミサイル攻撃に踏み切ったことについて、イギリスやフランス、日本が支持を表明したのに対し、反対もしくは懐疑的な意見も多く聞かれました。

このうち緊急会合の開催を要請した南米ボリビアのヨレンティ国連大使は「安保理が化学兵器の使用について公正な調査を求め、議論していた最中に、アメリカは一方的に攻撃に踏み切った。アメリカは世界の警察官であると同時に、裁判官や刑の執行官にもなってしまっている」と述べ、かつてアメリカが証拠のないまま、イラクによる大量破壊兵器の開発を主張し、武力行使に踏み切ったことも引き合いに出して、攻撃を厳しく批判しました。

また、スウェーデンのスコーグ国連大使は「攻撃は国際法に基づいて行われることが重要だ。今回のミサイル攻撃は国際法との整合性に疑問が残る」と述べ、攻撃の正当性に疑問を呈しました。

また、ウルグアイのロセリ国連大使は「シリア問題は長期間続く複雑な問題であり、多国間で解決されるべきだ。その対応に一義的な責任を持つのは安保理だ」と述べたほか、常任理事国の中国の劉結一国連大使も、「シリア問題には政治的な解決以外に道はない。軍事的手段は内戦に苦しむシリアの人々の状況をさらに悪化させるだけだ」と述べ、安保理が中心となり、政治的な解決を目指すよう、各国に求めました。

シリア市民の反応

アメリカがシリア軍の空軍基地へのミサイル攻撃を行ったことについて、シリア国内ではさまざまな声が聞かれました。

シリア北部の避難民キャンプで暮らす男性は、反政府勢力を支持する立場で、「私たち避難民はこうした攻撃を長年待っていました。アサドが化学兵器で市民や子どもたちを攻撃したことで、アメリカもようやく攻撃を決断しましたが、アサドを完全に追放してほしいです」と話しました。

また、別の男性は「アメリカにはアサドをもっと攻撃して、彼を排除してほしいです。そうすれば自分たちの家や土地に戻ることができます」と期待を表しました。

一方で、首都ダマスカスに暮らすアサド政権を支持する男性は「われわれは何があっても自分たちのリーダーとともにあります。アメリカはシリアをねたみ征服したいのだと思います」などと、攻撃に踏み切ったアメリカに強く反発しました。

アサド政権 各地で攻撃続ける

シリアの内戦の情報を集めているシリア人権監視団によりますと、アメリカ軍が対抗措置として、アサド政権の軍事施設を攻撃したあとも、アサド政権は依然として中部のハマや南部のダラアなど、各地で反政府勢力が支配する地域への空爆や砲撃を続けているということです。

このうち、化学兵器が使われた疑いのあるイドリブ県の反政府勢力が支配する地域で活動する地元の記者は7日、インターネットを通じたNHKの取材に対し、「多くの町でアサド政権やロシアによる攻撃が続いていて、特にイドリブ南部では家を追われて、避難を余儀なくされる人が相次いでいる」と現在の状況を説明しました。そして、「アサド政権とロシアは、アメリカ主導の有志連合に挑むことはできない代わりに、住民に矛先を向けるのではないか」と話し、アサド政権は今回のアメリカの攻撃に反発し、今後さらに反政府勢力の支配地域に対する攻勢を強めるのではないかと懸念を示しました。

専門家「ロシアの反発強い」

シリア情勢に詳しい東京外国語大学の青山弘之教授は、トランプ政権が踏み切ったアサド政権への軍事行動について「ロシアの反発は強い。対抗措置として、ロシアがアメリカの意に沿わないような行動に出る可能性がある」として、アサド政権を支援するロシアが、報復として反政府勢力への攻勢を強める可能性を指摘しました。

また、「アメリカの攻撃がアサド政権を倒すものでも、弱体化させるものでもなく、化学兵器の使用に対する懲罰の意味があるとすれば、懲罰に対して、アサド政権は何ら無力化していないと言える」と述べて、今回かぎりの攻撃であれば、内戦で圧倒的に優位にたつアサド政権への打撃は小さいと指摘しました。

また、青山教授は「この攻撃は時間がたてばたつほど効果が薄れてしまうので、アメリカとしては一刻も早く政治的な成果と結びつける形で行動を起こさなくてはならない。そのために、ロシアと何らかの協議をしなくてはならないのではないか」と述べて、アメリカがシリア情勢の打開を目指して、ロシアとの協議を模索する可能性もあるとの見方を示しました。