三浦九段不正疑惑について、渡辺明竜王を弁護する 
 

平成29年2月26日
弁護士法人横浜パートナー法律事務所
代表弁護士 大山滋郎

 
1. 初めに
(1)  観戦記者 小暮克洋氏からの依頼

将棋観戦記者 小暮克洋氏から、弁護の依頼を受けた。小暮氏は、大学将棋部時代からの30年来の友人である。将棋の渡辺明竜王を、ネットなどの攻撃から、「弁護」して欲しいという依頼である。
私は独立して10年、刑事弁護を中心に業務を行ってきたが、本件は「刑事弁護」ではない。ネットでの「世論」に対して、渡辺竜王を「弁護」することになる。そんな「弁護」などしたことがない。

  
(2)  「刑事弁護人」としての決意
本件を引き受けるにあたり、相当のためらいはあった。ネットを見れば、渡辺竜王を「有罪」とする意見が9割を超えていた。「竜王位を返還させろ。」などは良いほうで、「引退させろ。」「除名しろ。」などという意見が、非常に多く見受けられた。そんな中で竜王を「弁護」(それも裁判外で)すれば、相当強い反発が予想された。なにも「火中の栗」を拾わなくてもという思いも当然あった。
しかし、刑事弁護を業務の中心とするということは、たとえ世論の多数派と戦っても、依頼者のために活動することだと思い直した。10年前に、刑事弁護専門の法律事務所を開業したときの思いである。
「刑事弁護人」として、渡辺明竜王に言い分があるのなら、それを世間の人たちに理解してもらおうと決意した。

 

 

 2. 事件の概要
(1)  三浦九段への疑惑と竜王戦出場停止

本件は、三浦九段が竜王戦などの対局において、「技巧」という将棋ソフトを用いて、カンニングを行ったと疑われたものである。三浦九段が竜王戦の挑戦者になったのも、カンニングしたためとの疑惑である。この疑惑について、日本将棋連盟に問題提起をしたのが、渡辺竜王である。

この問題提起を受けて、将棋連盟内でトップ棋士たちが、問題の対局そのもの、「技巧」の指し手との比較などを検討した。その検討結果も踏まえて日本将棋連盟常務会が三浦九段と話し合い、同九段が出場辞退を申し出たことにより、竜王戦の挑戦者の変更がなされた。

 
(2)  第三者委員会での「白」判定
ところが、三浦九段の不正問題を検討するために、3人の弁護士で組織された第三者委員会は、三浦九段の不正を根拠付ける証拠は認められないとの結論を下した。
本件に対して、何ら利害関係を持たない、学識・経験豊富な委員会の判断は、受け入れざるを得ない。
それまでは、三浦九段が「黒」であるかのように論じていたネットの意見が、一気に「白」判定へと変わっていった。

 (3)  問題提起した棋士たちへの非難
第三者委員会の「白」判定をうけ、本件不正について問題提起した棋士たち、なかんずく渡辺明竜王への非難が高まった。つまり、「何ら合理的な根拠なく、三浦九段の疑惑を言い立てた。」と、ネット等において強く非難されたのである。中には、「竜王戦の挑戦者が三浦九段だと、負かされる可能性が高いので、ことさらうそをついて、三浦九段を陥れようとしたのではないか。」と言った論調まで見られた。

3.三浦九段への疑惑の根拠
(1)  将棋ソフト「技巧」
それでは、三浦九段への疑惑の根拠を検討する前に、将棋ソフト「技巧」について簡単に説明しておく。ネットの論調を見ると、かなり将棋を知っている人でも、根本的に誤解しているように思えるからである。
「技巧」はプロの棋士より強い。神がかった強さのときの羽生三冠の実力を、常に持っているといえば理解できるであろうか? だからこそ、「技巧」のカンニングが大問題となる。また、「技巧」はフリーソフトで、比較的簡単にインストールできることから、プロ棋士にも研究等の場面では広く使われている。ちなみに、三浦九段も、研究において「技巧」を用いていることを認めている。
 
(2)  トップ棋士たちが覚えた違和感
三浦九段に対する疑惑が生じたのは、同九段が自分の手番にもかかわらず、頻繁に席を離れてどこかに行っていたという問題からである。棋士は相手の手番には席を立って頭をリフレッシュさせたりする。その一方、自分の指し手のときは時間が惜しいので、席を外したりせずにじっくり考えるほうが普通である。ところが、三浦九段は、自分の手番なのに、何度も席を外したということで、おかしいのではと問題になった。さらに、カンニングを疑われたときの三浦九段が、非常に強かったということもあり、席を離れてカンニングをしているのではと疑われたのである。
そこで、それらの対局において、あとから調べてみると、「技巧」の示す指し手と、三浦九段が指した現実の指し手が一致する率が高いとの印象が持たれた。そのため、一定数の棋士が三浦九段の指し手に違和感を覚えたようである。渡辺竜王も、そのような違和感を覚えた一人である。
この違和感は、渡辺竜王の要請で、名人、竜王、羽生三冠など、現代のトップ棋士が数名がかりで検討したときにも、多くのトップ棋士たちが共有した違和感であった。(だからこそ、渡辺竜王の問題提起を否定できず、三浦九段に話を聞くことが決まったものと思われる。)

4.第三者委員会の結論
(1)  「技巧」の指し手との一致率
第三者委員会は、疑惑の根拠全てについて、それを裏付ける証拠はないと判断した。「技巧」の指し手と、三浦九段の指し手の一致率が高いという点に関して、問題とされている4局を検討したのち、必ずしも疑惑を裏付けるものとは言えないと結論付けた。
「技巧」自体、設定等により、指し手が違ってきており、必ずしも同じ手を指すものではないこと、他の棋士の指した将棋の中には、「技巧」が示す手とさらに高い確率で一致しているものもあったことなどが、理由である。さらに、三浦九段自身、「技巧」を使い研究している。そうだとすれば、一致率の高さということで、三浦九段の疑惑を裏付けることはできないという結論であった。
 
(2)  対局中の離席について
対局中の離席については、そもそも証言の一つであった30分の離席といった事実がないことが確認された。また、離席の事実をもって、三浦九段への疑惑を根拠付けることはできないとの判断がなされた。
 
(3)  疑惑を根拠付ける証拠はなく、三浦九段は「白」
さらに、三浦九段から提供されたスマートフォンなどを調べた結果、対局中に使用された形跡はないことを確認した。
全てを総合し、疑惑を認めるに足りる証拠はないとして、三浦九段は「白」である旨結論付けている。


5. 渡辺竜王弁護の基本的な方針
(1)  疑うだけの客観的な根拠があったのか
渡辺竜王への非難は、「何ら疑うべき根拠がないのに、三浦九段がカンニングしたと問題提起した」という点にある。従って、三浦九段が本当に黒だったかは別にして、「疑う根拠」があったことを示せれば、渡辺竜王に対する「弁護」はできるものと考えた。
 
(2)  現在利用可能な証拠からの弁護
いずれにしても、自分自身で証拠を集めることは難しい。そこで、三浦九段が黒だと疑う根拠については、既に存在する棋譜等や、第三者委員会での調査事実から判断することになる。基本的には、三浦九段の指し手と、「技巧」の示す指し手との一致について、考えてみることにした。
 
6.一致率の検討
(1)  一致率でカンニングを決めるのは困難
一致率というのは、全ての局面において、棋士の指した手とソフトの指した手が一致した割合である。しかし、これをもって、カンニングの有無を決めるのはかなり難しい。出来の良い将棋ほど、カンニングなしでも、人間より強いコンピューターの指し手と一致するからである。
しかし、「一致率」にも意味はある。一致率によって、その将棋の出来が評価されるという意味である。
 
(2)  これは「将棋」ではなく、「試験」の事案
本件を「将棋」の問題と考えずに、予備校などが行う「試験」と、そこにおけるカンニングの事案と全く同じなのだと考えてみる。
 
(3)  どういう形の「試験」の事案か
「将棋」という考えを捨てて、一手一手の指し手ごとの「試験」として考える。先手後手合わせて100手の対局だったら、一人50問の、将棋の問題が出される試験である。試験だから当然解答がある。例えば、新聞などにも掲載されている、「次の一手」問題のようなものと考えてみてほしい。この正解手を選んだら10点、その他の手なら0点といった、単純なものから、この最善手なら100点、この手なら70点といったように、一つの局面ごとに点数をつけるものもある。いずれにしても、こうして得られた総合点を、そのときの試験の数で割れば、その対局の「点数」が出ることになる。
つまり将棋を、「勝ち負け」を競うゲームから「点数」を取る「試験」と考えることができるのである。
 
(4)  試験の採点者は誰か
それなら将棋「試験」の採点者は誰なのか? どの手が「何点」なのか、常に高いクオリティーで判断できる人などいない。しかし、コンピューターソフトなら、それが可能なのである。コンピューターの力が、非常に強くなった今だから、トップ棋士たちの手も、このような「試験」の対象となってしまった。この採点者は、強いコンピューターならどれでもよい。「技巧」である必要はない。「ポナンザ」でもいいし、「やねうら王」でもいい。(念のため言っておくと、いずれもプロより強い将棋ソフトである。)
試験の採点も、本当に原始的なやり方で十分である。例えば、各試験問題(つまり、そのときの局面)で、先生である「技巧」や「ポナンザ」の指し手と、幾つ一致したかを数えるだけでも、相当精度の高い「採点」ができる。ポナンザ先生なら「正解」としていたが、技巧先生は不正解とするような事例はあるだろう。しかし、数からすればわずかだし、強い先生方の間で意見が割れる手の場合、それより弱い人間がどの手を選択するかは、単純な確率論の話(2人の先生の見解が分かれたら、どちらかを選択する確率は2分の1ということ。)になる。したがって、全体としての「採点」にはほとんど影響がない。
さらには、第1候補の手なら何点、第2候補の手なら何点、こういう悪手ならマイナス何点などといった、採点専用ソフトをつくれば、さらに精度の高い「採点」も可能になってくるのである。
 
7.普段の点数と、今回の点数
(1)  三浦九段の普段の成績
こういう風に、各将棋を試験と考え、全ての対局に点数をつけていく。1年間の将棋について、全てそうやって点をつければ、その棋士が大体何点を取る人なのかは明確になる。まさに、受験予備校などが、生徒の実力を判定するためにやっていることである。
たとえば、三浦九段の成績なら、大体70点を山の中心にして、高低それぞれに分布するといった具合である。どの棋士の成績も、予備校などで見慣れている、正規分布の形であらわされる。調子のいいときには、85点くらいは取れるが、調子が悪いと55点程度になることもあることが示される。予備校の先生は、生徒の試験結果が、この正規分布の山から外れることはめったにないことを、十分理解している。「試験」で奇跡は、まず起きないのである。
羽生三冠なら、80点を山の中心にして、神がかったときには95点を取ることもあるが、調子が悪ければ、60点後半しか取れないこともある。
予備校などは、こうやって各生徒の実力を判断し、羽生受験生なら75点必要な難関大学の合格も堅いだろうと判断する。
 
(2)  今回の問題の本質
 ここまで読んでくれた方には、今回の事件の本質がわかってもらえたはずである。つまり、普段は70点の実力の受験生が、一定の短い期間の試験で、通常の正規分布の山の右端に位置する、85点以上の高得点を、4回も取ったのである。さらにそのときに、その受験生は何度もトイレで席を外していたという。これは怪しいと、多くの生徒たちが騒ぐ中、先生に問題提起をしたのが、渡辺受験生だったということになる。
 
(3)  三浦九段の試験結果
実は、三浦九段の各対局の「点数」は、「将棋GUI」という一般に配布されているプログラムを使用して、当方は既に計算している。このプログラム上に「技巧」その他のソフトを入れて、各対局を評価する。この評価結果の精度はかなり高い。
しかし、先ほど述べたように、そのようなプログラムを使わないでも、採点は誰にでもできる。「やねうら王」でも、「技巧」でもよい。「試験」での指し手が、「ソフトと同じ手かどうか」という単純な基準で採点することは、誰にでもできるであろう。三浦九段の普段の対局の「点数」から考えると、今回問題とされた4局の点数は相当高い。(実際、匿名掲示板などで、多くの人が「技巧」による一致率ということで、三浦九段の疑惑の4局を調べていた。かなり高い一致率が出ていたはずである。ただ、このことから一足飛びに、技巧でのカンニングまで結論付けることはできない。技巧との一致が高いのは、「試験」の「点数」が良いことを示すに過ぎない。そのときは、ポナンザで計算しても、やはり点数は高い。だからと言って、ポナンザのカンニングを結論付けることはできないのと同じである。)
三浦九段の4局の点数は、普段の彼の実力からすると、当方の計算では、出現率でいえば、良くて10%程度である。そんな出来の良い将棋が、疑いをもたれた短期間に、4局もでてきている。
なお、第三者委員会の報告は、三浦九段の「疑惑の4局」程度の一致率の将棋は、35局中9局あったと指摘している。つまり、三浦九段にとっても、上位4分の1に入るような出来の良い将棋だったことになる。そのような出来の良い将棋が、疑いをもたれた短期間に、4局も出現していることになる。もちろん、そのような偶然があり得るというのは、第三者委員会の指摘する通りではあるが、常識的にはめったに生じない事態である。
似たような事態が、受験において生じていれば、他の生徒が問題を提起したとしても、当然のことであろう。その意味では、生徒たちを代表して、先生に問題提起した渡辺竜王の行動は、少なくとも非難に値するようなものではない。
 
8. トップ棋士にしか見えない「何か」
(1)「技巧」の指し手との一致について、見えない「何か」の存在
第三者委員会の調査の示すところでも、三浦九段のカンニングについて疑う、一定の根拠があったことが分かった。しかし、竜王戦の直前に問題提起するだけの疑惑かといえば、疑問が残る。本当にこの疑惑だけで、当時検討を行ったトップ棋士たちは、三浦九段の指し手と「技巧」の指し手との一致について、強い違和感を覚えたのであろうか? 
三浦九段が自分の手番に、多数回席を外しているという事実から、多くの棋士たちは、単に「色眼鏡」で検討し、冷静な判断ができなかっただけなのか? ただ、本件に利害関係を有していない多くのトップ棋士たちが、そんな感情的な判断をするだろうか。そこには何か、もっともな理由があったのではないか。そんなことを考えてみた。
つまり、三浦九段の指し手と、「技巧」の指し手を見比べるときに、トップ棋士にしか見えない「何か」があり、その「何か」が原因となり、多くのトップ棋士が、三浦九段を怪しいと判断したのではないかと、推理してみたのである。
 
(2)「この一手」と「手が分かれる」場面の違い
将棋の場合は、全ての指し手が同じように難しいわけではない。一局の中には、「トップ棋士なら、誰が指してもこの一手しかない。」というものがある。
定跡のような決まった手順なら、当然そういうことはある。しかし、それだけではない。それぞれ個性的な中盤の局面でも、トップ棋士なら全員、「この一手」を選択する場合は相当数認められるのである。
その一方、トップ棋士の中でも意見が統一できず、「手が分かれる」難しい場面もある。普通の人には、同じように難しい局面に見えても、トップ棋士から見れば、その違いは歴然としている。そして、トップ棋士が無意識に注意を払うのは、この「手が分かれる」場面ということになる。「この一手」の場合は、皆が同じ手を指すので、各棋士の違いが出てこない。したがって、「この一手」が「技巧」と一致しても、特におかしなこともない。
そうだとすれば、トップ棋士たちが、三浦九段の指し手と、「技巧」の指し手を比較したときにも、無意識のうちに「手が分かれる」局面を検討していたのではないか。そのことが原因となって、トップ棋士たちが、三浦九段のカンニングについて、第三者委員会の見解よりも、さらに強い疑惑を感じたのではないかと考えたのである。(そもそも、「この一手」の場面では、カンニングをする必要もない。カンニングが問題となるのは、どの手が良いのか判断が難しい「手が分かれる」場面である。)
 
(3)第三者委員会では、「この一手」を含めて計測
しかし、それぞれの対局において、どの指し手が「手の分かれる」局面なのか、第三者委員会のメンバー含め、将棋の素人には判断できない。仮に、当事者である棋士たちが、「この局面がそうだ。」と主張しても、そもそも検証のしようがない。その意味でも、第三者委員会が、「この一手」を含む指し手について、「技巧」との一致率を検討したのは当然と言える。
しかしこれでは、無意識のうちに、「手の分かれる」局面を中心に検討していたはずのトップ棋士と、同じ土俵で検討していたとは言えない。
それでは、渡辺竜王をはじめ、多くのトップ棋士が、なぜ三浦九段の指し手に違和感を覚えたのかを、理解できないであろう。
 
9.「手の分かれる」局面を「可視化」する方法
(1)「技巧」と同程度の「プロを超える」ソフトの存在
それでは、トップ棋士にしか見えない「手の分かれる」局面を、一般の人にも見えるようにする方法はないのであろうか? その方法は、トップ棋士自身が、「自分はそう思う」といった、恣意的なものであってはならない。
そこで出てくるのが、「技巧」と同じくらい強いソフトの存在である。具体的には、「やねうら王」「読み太」「浮かむ瀬」の3つのソフトがあげられる。これらは、「技巧」よりインストールは少々面倒だが、いずれもフリーソフトとして提供されており、誰でも利用可能である。なお、念のため書いておくと、これら4つのソフトは、比較的有名な「ボナンザ」「AI将棋」「激指」よりも強いと言われている。現在最強と言われているポナンザ(こちらはフリーソフトではない)には及ばないにしろ、トップ棋士を凌駕する力を有している。
 
(2)棋譜の各局面を、4種類のソフトで判断
上記4つのソフトに、問題の将棋の棋譜を入れてみて、各局面での「次の一手」を比較してみた。その結果、4つのソフト全てが同じ手を示すときは「この一手」の局面であると判断し、その手については検討をしないことにした。(なお、結果を見ていただければ、驚くほど「この一手」が多いことに気づかれるであろう。)
一方、ソフト間の見解が分かれたときは「手が分かれる」局面である。開発者の違う4つのソフトを使うことで、「手が分かれる」重要局面が、客観的に可視化できたのである。(なお、疑惑の対象は、中盤ということもあり、公表されている第三者委員会の報告書概要の本文でも、41手目から始めて、終盤の10手は除いて検討していたので、当方もこれに倣うことにした。)
これは、「この一手」についての、トップ棋士たちの見解と完全には一致しないであろう。特に、4つのソフトが一致しても、棋士たちの意見が分かれることは十分にあり得る。それでも、4つのソフトで同じ手を示すときには、棋士の考える「この一手」と、相当近いものが出るはずである。
このようにして得られた、「手が分かれる」局面で、三浦九段及び対戦相手の指し手のそれぞれが、「技巧」とどの程度一致するのかを検討してみた。
 
10.「手の分かれる」局面での「技巧」との一致
(1)  久保九段との竜王戦本戦準決勝
三浦九段の問題とされた4つの対局について検討してみる。
まずは、久保九段との竜王戦本戦準決勝である。41手目から、最終局の10手前まで計測して、4つのソフト間で見解が割れた手は、三浦九段の指し手では5手(46手目、52手目、54手目70手目80手目。なおマーカーをつけたのが、「技巧」と一致した手。以下同じ。)久保九段の指し手では、9手(45手目、51手目、59手目、61手目、63手目、67手目、69手目79手目、81手目)であった。三浦九段が「技巧」の指し手と一致したのは5手中3手、一致率は60%だったのに対して、久保九段の場合は9手中3手、一致率は33.3%であった。(資料1 久保九段との竜王戦予選.pdf

 

 
(2)  渡辺竜王とのA級順位戦
次に、渡辺竜王とのA級順位戦の対局を見てみる。こちらも、41手目から計測して最終局面の10手前まで、4つのソフト間で見解が割れた手は、三浦九段の指し手では6手(45手目、47手目、49手目、51手目59手目61手目)、渡辺竜王の指し手では、9手(44手目、46手目、48手目、50手目52手目54手目、58手目、72手目、80手目)あった。

三浦九段は6手中4手、66.7%の一致率に対して、渡辺竜王は9手中4手、44.4%の一致率であった。(資料2 渡辺竜王とのA級順位戦.pdf

 
(3)丸山九段との竜王戦挑戦者決定戦第2局
丸山九段との竜王戦挑戦者決定戦第2局である。41手目から、最終局面の10手前まで計測した。4つのソフト間で見解が割れた手は、三浦九段の指し手では2手(59手目、61手目)であり、丸山九段の指し手では、4手(42手目、46手目、54手目56手目)あった。三浦九段が技巧の指し手と一致したのは2手中1手、一致率は50%だったのに対して、丸山九段は4手中2手、50%の一致率であった。(資料3 丸山九段との竜王挑戦者決定戦第2局.pdf
 
 
(4)丸山九段との竜王戦挑戦者決定戦第3局
同じく丸山九段との竜王戦挑戦者決定戦第3局も検討してみた。41手目から、最終局面の10手前まで計測して、4つのソフト間で見解が割れた手は、三浦九段の指し手では7手(41手目、45手目、47手目、53手目57手目59手目、65手目)で、丸山九段の指し手では、5手(42手目、44手目、58手目、60手目、62手目)であった。

三浦九段が技巧の指し手と一致したのは7手中5手で、71.4%の一致率だったのに対して、丸山九段は5手中一致するものはなく、0%の一致率であった。(資料4 丸山九段との竜王戦挑戦者決定戦第3局.pdf
 
 
(5)4局総合の一致率
4局の対局で、コンピューターソフトの見解が分かれた合計数は、三浦九段の場合20手、そのうち技巧と一致したのが13手、一致率では65%であった。一方、上記4局における対戦相手たちの場合、ソフト間で見解の分かれた手は27手、そのうち技巧と一致したのが9手、一致率では33.3%にとどまった。(なお、この33.3%の一致率は、4つの同程度に強いソフト間で意見が割れた場合の、1つのソフトの指し手と一致する率としては、常識的なものと考えられる。)
上記の結果を無意識に「見た」、渡辺竜王はじめトップ棋士たちが覚えたであろう違和感を、理解して頂けたであろうか?
 
(6)トップ棋士たちが疑いを持った理由
トップ棋士にだけ見えていた、「手の分かれる」重要な局面における、「技巧」との一致率が、上記検討により、一般の人にも見えたはずである。この重要局面で、疑惑の4局では、三浦九段は他のソフト(これらも技巧と同程度の実力を有している)が選んだ指し手ではなく、「技巧」の選んだ手を、相当高い確率で選択していた。その一方、疑惑を持たれていない対戦相手の指し手を見てみると、「手の分かれる局面」において、「技巧」の指し手との一致率は三浦九段の半分弱である。
これらのことを無意識にでも「見て」、多くのトップ棋士たちがカンニングを否定できず、三浦九段に話を聞くことに同意したのだと思われる。同じく、この現象を「見た」渡辺明竜王は、本件を将棋連盟で議論すべきと、問題提起したのであろう。
「技巧」を用いて研究をすれば、少なくとも序盤においては、「技巧」の示す手と同じ手を採用することは考えられる。しかし、それぞれの局面が個性的になってくる中盤以降では、ある特定の将棋ソフトで研究したからといって、そのソフトの選んだ指し手を選ぶことは考え難い。この辺の考慮も、棋士たちの判断に影響を与えたのではと思われる。
 
(7)ソフトのぶれについて
第三者委員会が指摘したように、コンピューターソフトによる指し手が、場合によってぶれるのは当然である。しかし、当方が確認した限り、何度やっても、上記の示す大きな結論が違ってくることはない。(なお、上記は何度か実験したうちの1回である。もっと高い確率のときも、低い確率のときもある。ただ、いずれにしても、相手方棋士の示す一致率とは大きな差がある。)(さらに、ソフトのぶれだが、一定の性能のコンピューターを使い、ソフトの考慮時間を1分以上取った場合には、それほど大きなぶれは起こらなかった。一方、考慮時間が10秒程度なら相当のぶれが起こる。第三者委員会が、相当大きなぶれを確認したというのが、どのような条件での検査であったのか、知りたいところである。)
なお、三浦九段の復帰後、対羽生三冠と対先崎九段との対局も同じように調べてみたことを付言しておく。4つのソフトの見解が分かれる場面での、技巧の示す手と、三浦九段の一致率は、4割程度の常識的なものに落ち着いた。ソフトの示す手にぶれがあるからといって、これも「偶然」ということで片付けられるのであろうか?
 
11.離席回数との関係
(1)  疑惑の着手と離席の関係
第三者委員会では、単に離席の回数と時間を調べて、それだけでは三浦九段の「黒」を認定できないと結論付けている。これは、どこが「手の分かれる」局面かについて、第三者委員会が客観的な資料をもって検討できなかった以上はやむを得ないことといえる。しかし、4つのソフトの見解が一致した場合を除いての検討が可能となった今、手の分かれる局面と、離席のタイミングを検討することが可能となる。
 
(2)  離席率の調査
当方で調べた結果、手の分かれた局面で技巧と同じ手を指していたときの離席率は、86%であった。(なお離席は、自分の手番のときのほか、一つ前の相手の手番のときの離席を含む。相手の手を予想してのカンニングは十分に可能だからである。)
一方、手が分かれた局面だが、技巧の指し手と一致しなかったときの離席率(一つ前の相手の手番での離席も含む)は、50%程度であった。
これらは、三浦九段の黒と、少なくとも親和性のある数字といえる。(なお、ほんの短い時間での離席でも、例えば特別対局室のトイレ等、見つかりにくい場所に通信機器を隠しておき、そこに外部からカンニング情報を流してもらう方法などを取ることで、容易にカンニングは可能であること、対局中見張っていた職員もトイレの中まで見張っていたわけではないことを付言しておく。)
 
(3)  離席と関連するその他の問題
なお、これは離席とは直接関係ないが、三浦九段の対局ビデオを確認していると、久保戦では、終局間際にセーターを脱ぎながら離席し、戻ってきて、丸めたセーターを押し入れにしまっている。丸山戦第3局でも終局5分前に何かを押し入れにしまう場面が残されている。
しかし、これらの事実については、第三者委員会の報告書では、全く取り上げられていないことを付言しておく。
 
12. 終わりに
(1) 改めて本「弁護」の目的
三浦九段を「黒」だと言い立てることではない。第三者委員会とことさら事を構える意思もない。ただ、「何の根拠もなく、三浦九段を黒だと誹謗中傷した。」「これは竜王戦の挑戦者から、三浦九段を追い落とすための陰謀である」などといった、渡辺竜王に対する誤解を解くことが目的である。この目的は達成できたと信じている。
 
(2)関係者の処分の前に調査が必要
日本将棋連盟は、第三者の意見を聞くことなしに早まった処分をすることの危険性を十分に認識したはずである。そうであるなら、三浦九段の「冤罪」問題で、理事等の関係者を処分する前に、「当時三浦九段に疑いを持ち、竜王戦出場停止とした判断は正しかったのか?」の点について、統計の専門家などを加えての調査が必要であると信じる。なお、これに関連して、第三者委員会と日本将棋連盟は、一致率等について資料の公開をすべきであろう。
日本将棋連盟が同じ過ちを繰り返さないことを期待し、本「弁護」を終わらせたい。
 

以上

医師など資格保有者の方、公務員の方へ

IMG_7097.JPGのサムネール画像   「刑事事件の実刑を受け、国家資格を喪失してしまった」

 

国家資格には、刑事罰を理由として、その資格を喪失するといった欠格事由が定められている場合があります。

具体的な欠格事由や期間などは、保有する国家資格によって異なります。また、欠格事由にも、その事由に該当すると直ちに欠格となる絶対的欠格事由と、該当しても、場合によって資格が認められる相対的欠格事由があり、区別する必要があります。

また、公務員はそれ自体資格ではありませんが、国家公務員、地方公務員共に、欠格条項が定められています

刑事罰に関していえば、禁固以上の刑に処せられた場合、仮に執行猶予がついたとしても、絶対的欠格事由に該当しますので、直ちに失職してしまいます(地方公務員法16条、国家公務員法38条)。

 

欠格、失職を防ぐためにも早期に弁護士に依頼し、できる限り、刑事処分を軽いものとすることが必要です。


裁判員裁判の解決事例

①11件中6件を不起訴にした裁判員裁判

殺人未遂で起訴されたが、傷害罪の判決を得た事件

粘り強い示談交渉により不起訴処分となった事件

④小田原での連続強制わいせつ事件