野村貴仁

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 有名人の麻薬スキャンダルが相次いだ2016年。この男も、騒動に巻き込まれる形で脚光を浴びたひとりである。元メジャーリーガー・野村貴仁(47)。2月に髭ぼうぼうのヘルメット姿でテレビの直撃取材を受け、元同僚の清原和博に覚せい剤を渡したことを明かして以来、注目の的に。9月には自伝的暴露本も発売し、大きな波紋を呼んだ。その野村が、激動の1年を振り返りつつ、大谷翔平や清宮幸太郎の将来性、ASKAへのアドバイス、そして自身の近況や恋愛事情などを語り尽くした。

 * * *

――清原さんが逮捕された今年の2月以降、高知県にある野村さんのご自宅にマスコミが群がって大変そうでしたが、全部で何社ぐらいの取材を受けましたか?

野村 自分の出たテレビや雑誌を見ないんで、正確な数字は把握できとらんのですよ。でも1日に10社ほど来た日もありますし、随筆家とか野次馬も来たりして、いっときは大変でした。そのほとんどがギャラなんかなく、取材協力いう形でやっとったし、あの時期、本来の仕事(野球の指導)ができなくなったから、稼ぎも減った。ええことなんか何もないです。

――取材謝礼で大儲けしているのかと思っていたのですが……。

野村 マイナスですよ。せいぜいビールの差し入れがある程度。で、その酒目当てで友人知人がウチに集まって来て、みんなでだらだらビール飲みながら野球の話をして、気付いたら朝、なんてこともよくあって。「もうええ加減、帰ってくださいよ」とお願いしたり(笑)。

――野村さん自身は、差し入れのビールを飲まなかったんですか?

野村 気ぃつけながら飲んでましたね。缶ビールに細工して覚せい剤を入れられる可能性があるから、ずっと警戒はしてました。

――缶ビールに細工なんかできるんですか?

野村 小さな穴開けてそっから覚せい剤入れて、ハンダで塞げばええだけのことです。でもね、細工しとっても、見破る方法があるんですよ。僕、握力が強いから、飲む前に缶を思い切り握りしめる。そうすると、細工した缶は(穴を塞いでいたハンダが剥がれて)、そこからプシューッと泡が吹き出るんです。

――なるほど。しかし、ビールに細工をする人間なんて、いるんですか?

野村 そりゃ、いっぱいおるでしょ。おかしなことは何回もありましたよ。「あれ? こんなとこにビール置いた記憶ないのに」ってこととか。そういうビールには手をつけず、全部証拠として置いときます。僕、ASKAとは違いますから。全部、証拠を後で「バン!」と出しますから。ASKAはただのバカでしょ。

――ASKAさんの話は後ほどおうかがいするとして、一連の取材攻勢で一番腹が立ったことを教えてください。

野村 日テレがひどかったです。出すなと言ったのに出しましたからね。あんとき、たまたま掃除中でヘルメットかぶっとって、そろそろヒゲも剃ろうと思っとったところに、取材が来た。しかも「(映像を)出すなよ」と言ったのに、出ちゃって。あれで「バン!」といきましたからね。映像を見た田尾さんが、「この人はよほどのことをしないと治りませんよ」なんて言うてましたけど、僕のスイング、あの人の倍速いですよ。見てください(と言って素振りを披露)。

――おお、すごい迫力ですね!

野村 僕、高校時代、4割9分8厘、ホームラン25本ですよ。強打者で、強肩で、剛腕。なのに田尾さんは「清原も野村も巨人に行っておかしくなった」とか、ワケわからんことを言う。清原も巨人では勝負どころで打っとるし、僕も抑えとるのに、何を根拠に言っとるのかな、と。アキレス腱、切ったろか! コラ! って思いましたよ。

――アキレス腱を切る?

野村 僕、学生時代からずっと格闘技の練習しとったから、ローキックが得意なんですよ(と言って実演開始)。スパパパパン! で、パチーン! ですわ。

――そういえば、この年末に野村さんが格闘家デビューするというプランもありましたね。押尾学さんに対戦のオファーを出したという報道を見ましたが、あの話は結局どうなったのでしょう?

野村 押尾が逃げたんですよ。まぁ出たところで、あんなの100%ノーチャンスですよ。パンパンパン! で終わりです。レノックス・ルイスみたいにね、こうやって(シャドーボクシングを開始)パンパンパン! の数秒で終了です。それに、たかだか○万のギャラじゃ、僕もできんですよ。

――えっ? 数秒で○万円なら、割のいい仕事じゃないですか!

野村 僕はプロの格闘家を尊敬してますから、素人が人前で試合したらいかん、って思いもあるし。僕はやっぱ、野球の人間ですから。

――では野球のお話をお聞きしますが、メジャーリーグでの投手経験もある野村さんから見て、二刀流の大谷翔平選手はどうでしょう? まずは「投手・大谷」の評価をお願いします。

野村 イチローが大谷の話をしたときに、こう言うとったでしょう? 「すごいピッチャーはいくらでも出てくる」と。それを直訳したら、「投手としての大谷はたいしたことない」ってことでしょ。僕の教え子も、こう言うてます。「あんな160キロ、俺でも打てる」と。僕も「おまえ、その意気や!」言うてハッパかけてます。

――しかし日本のプロ野球では、多くのバッターが大谷投手を打てず、キリキリ舞いになっているのが現状ですよね。

野村 スピードガンのメーターだけ見て物言うたらいかんですよ。大事なんは、セットで動き出してからミットにつくまでのスピードです。伊良部とか大谷みたいなフォームやったら、打者はタイミングを取れるんです。大谷はメジャーやったら通用せんと思います。

――そうですかね?

野村 あんなもん、僕でも打てます。165キロ出た言うてますけど、あれ、ただのメーターの数字ですから。要するに大谷は、胸張って軌道がよう見えるフォームやから、速くても「空振りを取れんまっすぐ」なんですよ。160キロオーバーの球を投げるピッチャーなんて、向こうにはなんぼでもおる。でも逆に、スピードガンの数字は91マイル(約146キロ)やのに、対戦相手のロッキーズの選手から「体感は96マイル(約154キロ)だ。機械が壊れとるんか」言われる僕みたいなピッチャーもおるわけです。世間はスピードガンの数字だけ見て、大谷、大谷、騒いでますけど、僕は藤浪(晋太郎)や武田(翔太)のほうが上やと思います。

――「打者・大谷」はいかがでしょう?

野村 日本のピッチャーのインコース攻めが甘いから、今は打ててるだけのこと。僕がピッチャーやったら、「若造コラ! ひっこんどけ!」言うて、大谷の胸元にブラッシュボールを投げますよ。江夏さんも言うてました。「肝のすわった投手が現れたら、大谷は打てなくなる」と。その通りやと思いますね。投打ともにそんな感じやから、メジャーで二刀流なんて甘いですよ。

――では、早実の清宮幸太郎選手のことはどう思いますか?

野村 あれは論外でしょ。こんなこと(腕をクネクネ)して、足まであんなに上げとったら、僕がピッチャーやったら、足が地面つく前にボールがミットについてますよ(笑)。

――野村さんの著書『再生』(KADOKAWA)にも書いてありましたが、プロ入り前の清原さんを見て「ノーセンスのバッター」と言い切り、プロ入り後も実際、20打数3安打とカモにしていた野村さんが言うのだから、説得力はありますね。

野村 清原はノーセンス! 野球でもケンカでも負ける気はしません。とはいえ、サヨナラヒットやサヨナラホームランの数は歴代最多でしょ? ピッチャーに勝ち星をもたらしたところはリスペクトしとるよ。

――『再生』では、清原さんとの覚せい剤をめぐる生々しいやりとりも明かされていましたが、2006年、自身も覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕された野村さんから見て、最近のASKAさんの言動はいかがでしょう?

野村 アカウントが乗っ取られたとか、そんなの当たり前でしょ? 電話あるでしょ、携帯電話。あれ、電源つけただけで、よそから中を見られますから。

――そうなんですか?

野村 ワイヤレスであるじゃないですか。僕、大企業に務めとったこともあるからわかるんです。大事な会議はパソコンを使わず、電波が入らん部屋で、全部紙でやりますから。

――企業秘密を盗もうとする動機はまだわかるのですが、誰が何の目的で個人の携帯やパソコンを覗くのでしょう? 警察の捜査目的ですか? それとも「ギフハブ」の仕業ですか?

野村 まぁなんにせよ、ASKAも盗聴が心配やったら、業者を呼んだらええやないですか。

――盗聴器発見の業者ですか?

野村 そう。カネ持ってるんやから、専門の業者に調べてもらったらええんですよ。

――確かにそれは名案かもしれませんね。でもASKAさんはうっかり警察に調査を依頼してしまい、言動が怪しかったため、尿検査を求められてしまいました。

野村 いっぺん捕まると3年はマークされるんです。僕も社会復帰してから20回ほど、尿検されてますから。泥棒に入られて警察を呼ぶじゃないですか。そうすると、尿検をやらされるんですよ。

――お茶を入れたりは?

野村 お茶なんか(と言って首を横に振る)。僕は3年前に8人でガサ入れが来たので、「動くな!」と警察を止めましたよ。体調悪くて2週間寝とったから、覚せい剤なんか出るはずないし、(警察に覚せい剤を)勝手に置かれたらいかんから。「どうして来たんや? ちゃんと内偵したんか? もし尿から出たら腹切って死ぬから」と言いました。実際、なんも出とらんから捕まってないわけです。

――自著のタイトル通り、「再生」を果たしたと。

野村 はい。ただし、気は抜けませんよ。自分がどんだけしっかりしとっても、誘惑や罠があるから、いろいろと注意せないかんのです。

――それでは、近況をお尋ねします。あの家に、現在もお住まいですか?

野村 まだあそこに住んでます。今は雰囲気が変わりましたけどね。

――掃除して綺麗になったんですか?

野村 綺麗にはなってませんが、いろいろ変わりましたよ。最近やっとテレビも入れましたし。

――テレビではどんな番組を見ますか?

野村 NHKしか見ないです。バラエティーとかは見ないですね。

――家では何をしていることが多いですか?

野村 YouTubeを見ることが多いですね。昔の野球を見て勉強したり、ええ若手選手に目をつけたり、格闘技の試合を見たり。

――カラオケはお好きですか? オハコがあったら教えてください。

野村 強いて言うなら、「夜明けのスターライト」ですかね。あの「ロンリーチャップリン」の鈴木さんが歌っとる曲。でも、全然上手くないですよ。音感ないし、覚えられんもん。最近の曲は全然ですね。ゲスのなんとか言われても、「なんやそれ?」やもん。

――テレビに出た影響で、女性からモテるようになったのでは?

野村 捕まったときから、「女性には気をつけとかないかんぞ」と知人に何度も言われてますから、気ぃつけてます。

――言い寄られても、相手にしない?

野村 実際、変な女から電話かかってきたりもしましたよ。電話に出たらその女、「私の家に来んといてください」言うんです。

――「私の家に来てください」ならわかるのですが、「来んといてください」ですか? 意味不明ですね。その女は何者ですか?

野村 さぁ。突然ファンになったんやないですか(笑)。こっちが下手なことしゃべったら、ストーカーみたいに思われるから、ヤバいと思った。録音されて、そこだけ流されたらいかんから。

――なるほど。「来んといてください」の前後の会話をうまく切り取れば、「野村さんに付きまとわれて困っている女」というストーリーに仕立て上げることもできますからね。

野村 その女、手紙も送ってきてですね……。小学生が書くようなヘタクソな字で。写真もあったんですが、顔も……。だいたい僕のファンって時点で、イヤなんですよ。ハハハ。

――ファンには手を出さない主義ですか?

野村 だいたい女性からハメられることが多いじゃないですか。だから、ノーサンキューです。

――今現在、恋人や、好きな女性は?

野村 いないです。女性とは十何年、やってません。

――興味がないんですか? それとも飽きてしまった?

野村 興味ないゆうか……(照れ笑い)、その体力もないし。飽きたこともないけど……気ぃつけとかないかんな、と。まぁ「女とやってない」いうんは、「クスリもやってない」いうことを遠回しに言うとるんですけどね。

――今、一番会いたい人は?

野村 う〜ん………(長考中、友人でありマネジャー的なことをしている男性が会話に加わってくる)。

男性 おるでしょ。壇蜜さん! 貴仁、壇蜜さんのこと、全然知らんかったんよね。でも最近知って、最初は中国人やと思っとったみたいやけど、秋田の人やと知ってな。ほんでな。

野村 いらんこと言うな!(笑)

――壇蜜さんは「年上で、ちょっと不器用な男性が好き」らしいですから、ノーチャンスではないのでは?

野村 いやいやいや(と言って照れる)。女といえば、腹立つのは、誰やったかな。神スイングの……。

男性 稲村亜美さんか?

野村 そう、稲村亜美。あの子、何が神スイングや。俺のは稲妻スイングや! これ、ゲイリー・シェフィールドと俺しかできんって。振った瞬間、終わるんは!(と叫んで稲妻スイングを披露)

男性 そういやダレノガレ明美さんのことも、なんか言うとったな。

野村 あの子は、センスあるよ。ええフォームしとる。でも、武井壮の球なんか、俺でも簡単に打てる! あんなん、いくら練習しても無駄! 前に頭が入るから、ボールの軌道が丸見えや。武井壮より、ダレノガレのほうがセンスは上! 武井壮は、いくら160キロ出ても論外。ノーセンスです。

――野村さんは本当に野球が大好きなんですね(笑)。来年の抱負を教えてください。

野村 ええ選手をたくさん発掘して、育てたいですね。YouTubeとかでええ選手を見つけたら、実際見に行って確認して、手紙出して、返事が来たら教えます。「野村さんに教わるようになったら打てるようになった」言う教え子も多いんですよ。「思い切り下から振り回せ! コンパクトに!」と教えたら、「場外まで飛ぶようになりました」って。

――打撃も教えるんですか。

野村 高校時代、イチローはホームラン19本やろ。田淵さんは8本やろ。俺は25本や!

――とにかく来年は、本業である野球指導に重きを置く、と。

野村 ただ、あんま表立って行動できんのですよ。最近は表をウロウロしとると、いろんな人から声かけられるようにもなったし。

――ただでさえ顔が売れている野村さんが、そんな真っ赤な服を着て歩いていたら、そりゃ目立つでしょう。

野村 これは一応、格闘家のベニー・ユキーデに憧れて買った服なんですけどね……。

――最後の質問です。将来の夢は?

野村 スピードガンをやめさせたいですね。あれ、ただのメーターですから。数字は関係ない。見て速かったら、それがすべてや!

 * * *

 スピード(覚せい剤)をやめた後は、スピードガンをやめさせる――。セットアッパーから「ストッパー」に転向し、引退後も戦い続ける野村なのであった。
(取材・文=岡林敬太/撮影=尾藤能暢)


●のむら・たかひと
1969年高知県生まれ。高岡高校宇佐分校から三菱重工三原を経て、ドラフト3位でオリックス入団。169cmと小柄ながら速球の左腕として活躍。95、96年にはリーグ優勝に貢献。特に96年の日本シリーズでは、巨人の松井秀喜選手のバットを二度へし折って抑えた。96、97年オールスター選出。98年にトレードで巨人へ移籍。その後メジャーリーグのブルワーズへ。日本ハムなどをへて引退。引退後の06年10月、覚せい剤取締法違反で逮捕され、懲役1年6月執行猶予3年の有罪判決。現在は新しい生活に向けて動き出している。

●『再生』
「なめとんのか、この野郎!」強気のピッチングに球場が沸く。現役時代、絶対的なセットアッパーとして両リーグで優勝、日本一にも貢献した。「野球を面白いと感じたことは一度もない」という厳しいプロの世界。栄光、悲哀、クスリ、逮捕、そして……。波瀾の半生をありのままに語り、新たな一歩を踏み出す。
出版社:KADOKAWA