1999年7月5日(月)のParis-Turf紙

(注: 馬齢表示は日本式ではなく、欧米式(というか世界標準)です。)

EL CONDOR PASA ecrase les europeens

エルコンドルパサー、ヨーロッパ勢を粉砕

「サンクルー大賞にはもう昔ほどの格はない」などといったい誰が言えるだろうか。
これは気難しがり屋の追憶だろうか。
1999年のこの有名なGroup Iレースは、
フランス・イギリス・ドイツ・ニッポンのメンバーからなる国際的でエキサイ
ティングで本当にすごいメンバー構成となった。たしかに、
3歳勢は出走せず、
古馬との初の世代間対決は実現しなかった。それですごいメンバーなどといえるのか?
とは言え、戦いを避けた若駒たちを責めることはできない。特に、手強い
古馬たちとの争いよりダービーのコレクションを好んだ
Montjeuなどは。対決の
チャンスは秋になれば十分あるということだ。

結局、Helissioは過去15年間でただ一頭の3歳馬の勝ち馬としてとどまる
ことになった。そして、若い狼たちが馬房にとどまっていたのは、結果的には
よかったのかもしれない。というのは、エルコンドルパサーが並外れた力を
発揮して、ドイツ、イギリス、フランスのサラブレッドをまさに粉砕して
しまったからだ。この、渡辺隆氏の
4歳馬の成功で、われわれは新しい時代に
入った印象をもった。これは、日の昇りし国で調教されるエリートたちが
より一層こちらへ来ることになりそうなだけでなく、お祭り騒ぎを引き起こす
群衆の信じがたいほどの感情の爆発も考えてのことである。そして、もし彼ら
同郷人が明らかにうるさかったとしても、このスターとその誠実なジョッキー
蛯名正義を長い間喝采していたのはほとんどがフランス人の観客であったことを
強調しておかなければならない。われわれがここで再び創造し得ないものを、
世界の果てまで探しに行かなければならないかのごとく、フランスの競馬は
彼らのきらめきでその輝きを取り戻したのだ。

ドイツのSaugertiesのおかげで、レースはスタートからよどみなく流れた。
Saugerties
Dream WellのペースメーカーRes Judicata56馬身前を進み、
そして
2頭の後に、Tiger Hill, El Condor Pasa, Dream Well, Sagamix,
Greek Dance, Borgia(
スタート直後、ぶつかられる不利あり)と続き、
Blushing Risk
がしんがりを進んだ。ペースメーカーの役割を果たした2頭が
消えていくころ、ドイツのチャンピオン
Tiger Hillが先頭に躍り出た。
いつもなら、ゲオルグ・フォン・ウルマン
Georg Von Ullmann男爵のスーパー
4
歳馬が先頭に立ってしまうと、彼をとらえるには相当強くなければいけない。
が、今回の光景はとてつもないものだった。
Tiger Hillの右側でEl Condor Pasa
楽々と馬なりで飛びかかろうとしていたのだ。そして最後の
300メートルで
豪快にかわし、
Sea BirdのようにGrand Prix de Saint-Cloudを勝ってしまった。
2
馬身半差でTiger Hillが入った。彼はヨーロッパのほとんどのコースで
すばらしい走りを見せてきていたのだが、初めて、いとも簡単に
2着に甘んじた。
そして、さらに同じ着差で、これもおなじみの強者
Dream Well。彼としては
妥当な着順という気もしなくもないが、レース前にひどく汗をかいていたのが
響いたのかもしれない。惨めなパフォーマンスだったガネイ賞以来となった

Sagamix
はずっと元気なく走っていたが、それでも最後になってギアを入れ、
Dream Well
との3着争いにわずかに敗れるところまでは来た。明らかに、この
Linamix
産駒(Sagamix)は調子を上げつつある。ドイツの牝馬Borgia5着どまり
だったが、スタート後の不運を考えれば十分いいレースをしたと言えるだろう。
他の馬たちについては、ちょっとレベルが違いすぎたといったところだろう。

二宮敬宇氏が調教し、Patrick Barbe氏がマネージし、Tony Clout氏が施設を
提供して、エルコンドルパサーはこのすばらしい
Grand Prix2,400メートルを
2
2880で締めくくった。午前中の雨で柔らかくなった馬場は速い時計には
むかなかったことを考えると、これはすごいタイムだ。今や、ただひとつの
目標
"Arc"をめざすこのニッポンの名馬が日本の馬であるというのは、結局の
ところわれわれが中国人であるというのと同じようなことだ
(同じくらい変な
ことだ
)。というのも、この馬は父がKingmambo、母の父がSadler's Wellsなのだ!
しかし、今日、その土地の方が血統よりも重要でないなどといえるのだろうか。
なんにせよ、
10月の第一日曜の、ヨーロッパ3No.1Montjeuとのレースが、
今年最高の対決となるだろう!

(同紙面囲み記事の訳へ)

(メモ)
2段落めの最後の方
「われわれがここで再び創造し得ないものを、…」
原文は、"Les courses francaises rebrillaient de tout leur eclat, comme
s'il avait fallu aller chercher a l'autre bout du monde ce que nous
n'arrivons pas a recreer chez nous!"
"rebrillaient"はrebrillerの半過去(ils形)。条件法現在(rebrilleraient)だったら
「再び輝くだろう」となるけど、半過去なので「輝きを取り戻した」と訳しました。
comme s'il avait以下も複雑ですが本文に書いたように訳しました。

3段落めの3行目
原文では、"..., Sagamix, monte aux bras, et Greek Dance."となっているの
ですが、このmonte aux brasの意味がわかりません。英語にすれば"ridden by
arms"といったところでしょうか。「追いどおし」ってことかな?

3段落めの8行め
「…、彼をとらえるには相当強くなければいけない。」
"il faut etre tres fort, pour aller le chercher."ですが、このleは
明らかにTiger Hillを指していますが、直訳すると「彼を探すために」で
なんか変なので、「彼をとらえる」としました。

3段落めの10行め
「そして最後の300メートルで豪快にかわし、…」
原文では、"au cours des trois cents derniers metres, la star s'envola,..."
このs'envolaはs'envoler(離陸する、飛び立つ)の単純過去だと思いますが、
「飛び立つ」と訳すと日本語ではなんとなく意味がいきなり飛躍してしまうので、
なじみのある表現に変えました。

3段落めの13行め
「初めて、いとも簡単に2着に甘んじた。」
「初めて」は「簡単に」にかかる副詞。(だと思う)
また、この部分には、"un premier accessit de haute lignee,"とde haute ligneeが
2着(accessit)にかかっているのですが、意味わかりません。hauteは「高い」、
ligneeは「血統」です。

3段落めの15行め
「レース前にひどく汗をかいていた」
"Dream Well, ..., etait tres mouille avant la course."のmouilleは
「濡れていた」ですが、たぶん汗のことだろうと思いました。

4段落めの最後から3行め
「その土地の方が血統よりも重要でないなどといえるのだろうか」
意味理解困難。"le droit du sol ne prime-t-il pas sur le droit du sang?"
ばか直訳すると「土地の権利は血の権利に勝らないのだろうか」
なんのこっちゃ? ヨーロッパ血統なのに日本馬として走ってることを
揶揄している前の文を受けて、「ま、どうでもいいや」的なことを
言ってるんだとは思うが。

以上

translated by K. Maruyama.

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