福島第一原発の廃炉はどうなっているのか?

今、廃炉はどうなっているのか? そこで暮らしている人はどんな生活をしているのか? 福島第一原発の現場に初めて迫った『福島第一原発廃炉図鑑』(著者:開沼博,竜田一人,吉川彰浩)が太田出版より上梓された。7月13日に横浜・さくらWORKSで開催されたトークショー「ラボ図書環オーサートークvol.37『福島第一原発廃炉図鑑~編者の開沼博さんに聞く~廃炉独立調査プロジェクト』」を抄録。(構成/大谷佳名)

 

 

廃炉をめぐる「委ねざるをえない感」

 

開沼 今日は、今年6月に出版した『福島第一原発廃炉図鑑』(太田出版)を中心に、福島第一原発の今についてお話をしていきます。編集に協力していただいた粥川さんにも、後ほどコメンテーターとして登場していただきます。

 

震災から5年が経ち、民間の立場から福島第一原発の実態を調査することがようやく可能になりました。福島の復興や原発については今でもニュースで報道され、ネットでもさまざまな情報が飛び交っています。

 

そんな中で、多くの方が「福島の問題はよく分からない」「本当の情報は隠蔽されているんじゃないか」と不安や不満を感じています。確かに事故当初、あるいは事故以前の情報隠蔽等は大きな問題でした。私たちの大きな不安・不満がそこから始まっていることは間違いありません。

 

しかし、時間がたった現在、私たちの不安・不満の源泉はまた別なところにも存在するようになっています。それは情報過多の問題です。情報過多は、意外にも、情報不足、あるいは情報が無い状態とほぼ同じ状態を作り、私たちが議論し民主的かつ事実にもとづいた判断をしていくための受け皿ができることを遠ざけます。

 

例えば、「福島第一原発では、いまだに海に大量の汚染水が漏出し続けている」というイメージを持っている方もいるかもしれない。「そのデータは隠蔽されている、加工されているに違いない」と思っている人もいるでしょう。

果たしてそうか。

 

福島第一原発周辺の海の汚染状況を調べてみると行政や東電、その他、研究機関や市民団体など含めた組織が膨大な情報を公開し続けています。具体的な検証は『福島第一原発廃炉図鑑』にゆずりますが、そのデータをクロスチェックしていけば、「福島第一原発では、いまだに海に大量の汚染水が漏出し続けている」という見方は無理だし、そもそも、データは隠蔽どころか、過剰なほどに存在し、整理されぬままに多くの人に検証され、伝えられることなく放置されていることに気づきます。

 

「行政・東電が信じられない」とか「アンダーコントロールは嘘だ」と繰り返さずにはいられない、アディクショナルな思想信条を持つことは自由ですが、それならば、他の組織がとっているデータを見て検証すればいい。その前提は既に整っているわけです。

 

情報と知識は違います。情報があるからといって、それが知識になるかどうかは別。情報が知識として誰にとっても受け取り可能な形に加工されていないのが問題です。まずはそこを繋いでいくために、この本を作りました。

 

そもそも「3.11後の福島が抱える問題」とは何か。私は2015年3月に刊行した『はじめての福島学』で5年ほどたった時点でわかったことをまとめました。ただ、そこに回収しきれなかった問題もありました。

 

それは具体的に、大きく二つあります。一つは、3.11から現在に至る福島に存在するさまざまな事実関係から(物理的・社会的な意味で)遠いところに飛んでいってしまっている放射線忌避にまつわる社会問題です。そしてもう一つが、3.11の諸問題のど真ん中にあると言ってよい福島第一原発の廃炉の現場そのものです。

 

前者の「放射線忌避にまつわる社会問題」について、今でもFacebookやTwitterをみると、「被ばくした子供がバタバタ死んでいる」「中絶・先天性障がいが増えている」「福島ではもう農漁業などやることは許されない」など、事実に基づかず、極めて差別的な話が語られています。放射線が過剰にタブー化されたため、外から見た福島のイメージと現実に大きなギャップができています。

 

たとえば「福島の避難による人口流出は震災前とくらべてどれくらいなのか?」という問いについての意識調査をすると、20-30%ほどという数字がでます。しかし、実際のデータでは2%です。98%の人たちはそこに暮らしつづけている。イメージと現実に10倍のギャップが有り、その中でデマ・差別が助長される状態が生まれている。

 

私たちはステレオタイプにとらわれるあまり、事実を理解することなく、知ったつもりになることで思考停止してしまい、実際にそこで起きている新たな問題に目を向けられていない。まず事実を受け止め、そこに存在する問題を正確に把握することから始めなければ、その解決への道は一切開けることはないでしょう。

 

本日は、もう一つの問題である、「廃炉の問題」についてお話します。先日刊行した『福島第一原発廃炉図鑑』はまさにここに焦点をあてています。改めて言うまでもなく、福島第一原発の廃炉に対しては多くの人が不安・不満を、事故から5年経ったいまでも持っています。その不安・不満の根底にあるのは、「委ねざるをえない感」でしょう。

 

福島の問題は過剰に科学的で難しい、過剰に政治的で面倒くさいから理解できない。仮に、理解できたとしても、その解決のために自分自身が何をできるのかというとそうでもない。自分の手ではどうにもできない。でも、そこから生まれる危害は自分たちに降りかかってくる。にも関わらず、政府や東電、ゼネコンやメーカーに「委ねざるをえない」。これが「委ねざるをえない感」です。

 

対処しろと急き立てられつつ、お前は対処するなとも拒絶されるような、ダブルバインド状態とも言い換えることができるでしょう。一般に、人はダブルバインド状態におかれると、妄想にのめりこんだり、過剰反応したり、あるいは理解を諦めたりするわけですが、このような感覚が根底にあるままでは、この問題なかなか解決できません。

 

そこで、市民の方々が民主的・科学的な議論をするための前提となる“ものさし”を作っていく。そして未来に教訓を残していく。それが今の私たちの課題です。そこで、まずは人々のイメージするズレた福島像とのピントをあわせていこう。本書では福島第一原発の中身に焦点をあて、オンサイト(福島第一原発の構内)そしてオフサイト(その周辺地域)の両方から現場の実態を掘り下げています。

 

 

開沼氏

開沼氏

 

 

今、廃炉はどうなっている?

 

開沼 今、廃炉の現場はどうなっているのか。実際にそこで暮らしている人の生活はどうなっているのか。ここからは、福島の現状と廃炉の課題について、データとともに見ていこうと思います。

 

そもそも「廃炉」とはどのような作業でしょうか。大きく三つのステップからなりたつとご理解頂ければ大丈夫です。「汚染水対策」「燃料取り出し」そして最後に「解体・片付け」、ここまで終えて廃炉の終了といえます。今の状況は、汚染水対策から燃料取り出しへと徐々に重心を移しはじめようというところです。

 

断続的に伝えられる福島第一原発についてのニュースを聞いているだけでは、細かい情報に振り回されるばかりで全体像を理解できません。これまで、事あるごとに「◯◯が全く稼働しない」「◯◯が破綻した」などとセンセーショナルに報じられてきましたが、結果として状況は大きく変化しています。

 

そう報じられたものも無事に稼働し、あるいは、破綻したとされたものも代替案が実行され、それなりに進んできているのが現状です。例えば、「ALPS(多核種除去設備)が稼働しない」というニュースが繰り返されたことがありました。そのイメージが強くて「いまもALPSは失敗した」と思っている人がいます。しかし、事実は全く違います。処理すべき汚染水の浄化の大部分の作業が済んで役割を終えようとしているというのが事実です。

 

そういうオオカミ来たと叫ぶことで注目を集めようとする福島第一原発の語り方は今も続きます。5年たっても、「オオカミが出た」と聞くたびにその都度振り回され続けている人もいるでしょうが、多くの人が、オオカミ少年の話をもう聞かないように、特に気にもしなくなっているのが実状でしょう。オオカミ少年は話を聞いてくれないから、些細な事でも機を見てより大きな声で「オオカミが来た」と叫ぼうとしているというのが現状です。

 

そういうことを続けることの問題は、本当のオオカミを見誤るようになるということです。オオカミ=残る課題はより見えにくく、複雑に存在するようになっている。その姿を正確に見極める術を私たちは身につけるべきです。

 

汚染水対策の目的は、「原発の下に流れている地下水に、放射性物質で汚染された水が混ざって海に流れ出ないようにする」「その上で、そもそもの汚染水を減らしていく」ということです。それでは、現在どれくらいの放射性物質が海に流れ出ているのでしょうか。

 

Q1 1〜4号機付近の港湾の中、放射性物質セシウム137の量が最も多い地点では、1Lあたり何ベクレルほど含まれている?

 

A1 0.98Bq/L(2016年3月31日発表データ)です。

 

とは言っても、なかなかイメージがわかないかもしれません。たとえば、福島産の米すべてに対して行っている放射性物質の検査の基準は、1kgあたり100ベクレルです。この基準がどの程度厳格かというと、震災前時点の欧米の基準が1kgあたり1200ベクレル程度でしたので、これに対し、10倍以上厳しい基準にしたものです。

 

そして、現在のさらにその100分の1くらいの数値まで下がっているのがこの数字です。たしかに、定期的に細かいトラブルがあることは報じられるものの、原発事故直後に比べれば、大量の汚染水が海に漏れで続けているという状況ではないと判断して良い状況です。

 

とはいえ、汚染水問題の解決には程遠いのも現状です。当面は、原発のなかに、冷却するための水を入れて、循環させ続ける必要があります。では、その水の量がどのくらいか想像できるでしょうか。次の問題です。

 

Q2 2016年2月現在、福島第一原発1〜3号機の原子炉を冷却するために1時間あたり何m3ほどの水が入れられている?

 

A2 約15m3(1〜3号機の合計)

 

いきなり㎥(りゅうべい)と言われても、なかなか想像しにくいかもしれませんが、分かりやすく言えば、縦1m×横1m×高さ2m=2㎥くらいの電話ボックスが7個分くらいです。もちろん少ないというつもりはないですが、巨大な原子炉建屋の大きさに比べれば、大量の水を常に入れ続けないと爆発してしまう、というわけでは必ずしもなくなっている状況です。

 

とは言え、当然問題がないわけではありません。先に言った通り、問題の重心は「汚染水対策」から「燃料取り出し」へと移りはじめています。

 

では、燃料取り出しとは何なのか。事故を起こした福島第一原発1-4号機の中にある燃料を取り出すその作業は2つに分けられます。事故時に「使用済み燃料プール」の中に入っていた、溶けていない形状を維持している燃料の取り出しと、原子炉のなかで溶けてしまった「燃料デブリ」の取り出し。この2つです。

 

この2つの作業が福島第一原発廃炉プロセスの一番の壁です。特に、「使用済み燃料プール」の中の溶けていない燃料よりも、溶けてどろどろになってしまった「燃料デブリ」の取り出しが難関です。さらに、取り出せば終わりではないことも理解しておかなければなりません。

 

これまでの議論は、あまりにこの点に無自覚でした。これらの燃料を全部、あるいは一部になるのか取り出せたとして、それをどこでどう処理・処分するのか。このことこそが、最後まで残る、極めて難しい課題です。「燃料デブリ」は技術的に難しい、という話ですが、取り出した燃料の処理・処分はそういったプロセスの全体像を見据えて、いまから議論していかなければなりません。

 

Q3 福島第一原発の廃炉が完全に終わるまでにどのくらいの時間がかかる?

 

A3 25~35年と言われています。

 

ただ、これは計画です。何の保証もない。しかし、何の保証もないから無理だ、破綻していると言っていても仕方ない。工程の流れは細かく計画されています。いかにその計画にそって必要な技術を開発し、決めるべきことを決めていけるのか、そこに全力を注げるかどうかでこの問題が早めに片付くのか、だらだら長引くのか決まります。

 

現時点での終了予定は2041~2051年と予想されています。廃炉を終わらせるためには専門家のコミットメントも重要ですが、その状況を支えていくための世論も必要です。放射性廃棄物の処理をどうするのかという難問をクリアすれば、技術的な面より加速される可能性もあります。

 

 

福島第一原発で働く人々

 

開沼 ただ、こうした問題はなかなか他人事でしかないと感じる方もいると思います。その点で重要なのは、そこにどういった人々の生活、営みがあるのかということです。

 

今、福島第一原発では一日あたり何人くらいの人が働いているのでしょうか。講演に来てくださった方に聞いてみると、だいたい2000、3000人と、実際より少ない人数を答える人が多いです。報道によって「原発は過酷な労働環境で誰も働きたがらない」というイメージがつくられてきた面もあるのだと考えられます。

 

Q4 福島第一原発では一日あたり何人くらいの人が働いている?

 

A4 6000人〜7000人

 

年齢層は40〜50代が中心で、地元雇用率は40〜50%です。しかし、これから少なくとも25〜35年かかるであろう作業を考えると、重要なのは若い働き手を今から育成していくことです。そして、地域の雇用元として安定させていくことも考えなくてはいけません。

 

ただ、「そんなこと言っても放射線被ばくのリスクは?」と気になる方が多いでしょう。実際に福島第一原発で働いている方の被ばく量の現状はどのくらいになっているのか。

 

Q5 廃炉作業に従事している人の被曝量は一ヶ月平均でどれくらい? 

 

A5 0.47mSv(2015年12月の平均線量)

 

これは、NYと東京を飛行機で2.5往復したのとほぼ同じ数字です。職業被ばくとしては十分ありえる程度の数字です。また、下図の通り、最も被ばく線量の多い作業員の方も10〜20mSv以下の方で全体の0.1%ほどです。90%ほどは1mSv以下であることがわかります。被ばくという点で安全な状態をつくらないと長期的に働ける人を確保しにくくなります。その点でもこのような現状になってきています。

 

 

図:外部被ばくによる実効線量 出典:東京電力「被ばく線量の分布等について」

図:外部被ばくによる実効線量
出典:東京電力「被ばく線量の分布等について」

 

一方で、働いている方にとっての労働上の安全性、快適性の確保という点で、厳しい面は、他にも色々あります。例えば、朝が早いということ。

 

Q6 一日のうち、福島第一原発構内に最も人がいるのは何時台?

 

A6 午前9〜10時台

 

つまり、仕事が始まるのが朝5〜6時、ピークが9〜10時で5000人くらい、その後退勤する人も増えていって17〜18時には落ち着く、という流れです。また、夏場は熱中症のリスクがあるため、日中の作業を制限するなどの改善策も取られています。【次ページにつづく】

 

 

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vol.206 特集:AIと経済

<ワークショップ『人工知能と経済の未来』を考える>

・挨拶/司会:矢野浩一(統計学)

・第1部:若田部昌澄(経済学)×井上智洋(経済学)

・第2部:浅川伸一(AI研究)×井上智洋

・第3部:飯田泰之(経済学)×井上智洋

・第4部:稲葉振一郎(社会学)×井上智洋

<連載>

・戸村サキ「ニートいろいろ:就労支援機関での体験(最終回)>」