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『君の名は。』量子論や神話で見えてきた隠された意味とは?哲学研究者にきいてみた

2016年10月14日:22:43

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コメント( 13 )

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Credit: Youtube 東宝公式チャンネル

※注意!この記事は盛大にネタバレしているので、まだ映画を見ていない方はブラウザバックを推奨します。

こんにちは、不思議.netライターのmaximです。 

公開開始後約1ヶ月強で、興行収入130億円を超えた新海誠監督の映画『君の名は。』。アニメーション映画として100億円突破した作品はスタジオジブリ作品以外では初であり、異例の大ヒットアニメ映画となった。
ただ、一部の新海作品原理主義の層からは、あのラストシーンは少し納得できないという声も囁かれている。私もその一人だ。

しかし、あくまでシナリオだけの話だが、ただ単にハッピーエンドにしたから一般受けしたのかというと、そういうことでも無い気がしていて、なんともモヤモヤが止まらなかった。 

そんな10月某日、モヤモヤが止まらない私は、ついに某大学で哲学を研究しているH氏に話を聞いてみることにした。 

彼は哲学は勿論、神話や物理学に至るまで膨大な知識量を持つ博学者であり、無類の映画好きでもある。彼がみた『君の名は。』とはどういう物語だったのだろうか。 

彼との話が深まるにつれ、この映画につまった情報量は私が想像した以上のものだということが徐々に見えてきた。

目次 

劇中に「サブリミナル効果」が潜んでる!?一般受けしたシナリオの秘密

誰も見たことがない物語の核心に迫る!初心者でもわかる、哲学や量子論で考える組紐の意味 


なぜ二人は時間も場所も超えて出会ったのか?場所だけでもよかったんじゃ……


 二人はイザナギとイザナミだった?ラストシーンは日本神話「スサノオ」ゆかりの神社



劇中に「サブリミナル効果」が潜んでる!?一般受けしたシナリオの秘密


──今日は突然の思い付きにお付き合い頂きありがとうございます!
さて、数々の元祖新海ファンを裏切りつつ大受けした『君の名は。』ですが、ここまで一般受けしたのはなぜだと思いますか? ……なぜ……なぜだ新海監督……。

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H氏:
  気持ちはわかるけど落ち着こうか(笑)。一言でいうとね、これは『愛の起源の物語』だと思うよ。
こう言うと陳腐に聞こえるかもしれないけど、つまりは「自己」と「他者」の融合がテーマで、哲学でいうならプラトンの『饗宴』に出てくる話の世界だよね。


──あなたと合体したいということでしょうか。しかし何がどうなったら起源が出てくるんですかね……?


H氏: 有名だと思うんだけど、古代ギリシアの哲学者でプラトンっていう人がいてね。

そのプラトンの『饗宴』っていう対話集の中に出てくるある話によるとね、人間はもともと自己と他者が背中合わせでくっついた一つの生き物(アンドロギュノス:両性具有者 )だったと言うんだよね。

だけど、人間があまりに強大になりすぎたので、神はこのアンドロギュノス的人間を二つに切り裂いて、引き離してしまう。それによって人間は自分の欠けた半身を求めるようになりそこに「愛」が生まれたのだ、と。 


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──いきなりプラトンとか難しくなる予感しかしない……。しかし両性具有ですか。たしかに男の中に女の子が入ったりしてますからね。だんだん普通の恋愛ものではない気がしてきました。 


H氏:  一見、思春期のただの純愛ドラマのように見えるけど、普通のラブロマンスと違うのは、スピリチュアルやオカルティックな記号が至るところに散りばめられているところじゃないかな。

ティアマト、組紐、口噛み酒、ムスビとかね。しかも、全てが巧妙に計算されて配置されている。 エンタメ作品の中でよくここまで作り込んだなぁ、って感心するよ。


──なんとなくそんな予感はしていましたが、やっぱりオカルトですか(笑)。劇中でも「てっしー」という友人の男の子が「月刊ムー」持ってましたよね。新海監督がオカルト系に造詣が深いのは有名な話みたいです。 


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Credit: weekly.ascii.jp


H氏:  あれ?そんなシーンあったっけ。そこは気づかなんだ(笑)。
まぁ、確かにオカルトに詳しくなけりゃ、こんな作品は作れないと思うよ。

でも、ここで注意しないとね。オカルトと聞くと多くの人がアヤシイって思うみたいだけど、もともとオカルトの語源は「隠されたもの」という意味で宇宙の真理のことを意味するんだよね。

そして、その真理のキモってのが「対立物の一致」というやつなの。言ってみれば古代の哲学のようなもの。とても真摯なものなんだ。でね、人間において一番の対立物ってのは何だと思う?


──反対の性質を持つものってことですよね?マックとモスバーガーとかですか?


H氏:  真面目に答えてね……。


──ごめんなさい。

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H氏: ……それで、一番の対立物っていうのは、哲学の世界では何と言っても自己存在と他者存在。精神と物質とか、男と女とかあるかもしれないけど、この自己他者問題が一番根が深いんだよね。


──へぇ~、意外でした。まあコミュ障にとっては一番根深い問題ですからよくわかりますよ。


H氏:  そういうことでも無い気がするけどね(笑)。オカルティズムは、本当はこの自己と他者の霊的合一を説くものなんだよね。

現代人はなかなか他者と繋がれなくなってきていて、多かれ少なかれ誰もが心の中に孤独感を持ちながら生きているでしょ。今じゃ自分の心までもが分裂しかかってる。



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今の僕らのこうした精神状況にこの作品はそうしたオカルティックな記号を随所に挟むことによってサブリミナルに働きかけているんじゃないかと思うよ。

現代社会にはいろんなモノや情報、価値が溢れかえっていて、少し手を伸ばせば手軽に手に入るものも多い。でも、人間が本当に求めているのは失われた「半身」じゃないのか、って。特に既存の価値観に飽き飽きしている今の若い世代の人たちは敏感にそれをキャッチしているんじゃないかな。


──それって、単なるパートナーとかそういう意味じゃなさそうですが……。 


H氏:  うん、違う。もっと深いものだよ。これから話すうちに、少しは見えてくるかもね 。


──頑張ってみます……。
ところで、この作品は「ティアマト」という彗星の落下のシーンから始まりますよね。ティアマト彗星の「ティアマト」をググるとシュメール神話が出て来るんですが、一体ティアマトというのはこの映画にとってどういう存在なんでしょうか ? 



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Credit: Youtube 東宝公式チャンネル


H氏:  インパクトのあるイントロだよね。つかみはバッチリという感じ。

ティアマトというのはシュメールの女神の名前だよね。この女神はマルドゥクという嵐の神によって二つに裂かれて殺害されちゃうんだけど、この二つの「半身」によって天と地が作られたというんだよね。
新海監督はティアマトを通して「元は一つだったものが二つに切り裂かれること」をシンボライズしたかもしれないね。

僕から見ると、この「ティアマト」が持つ神話的意味がこの作品全体の通奏低音となってずっと鳴り響いている感じがするんだ。


──なんだか大変な話になってきて若干戸惑ってますけど、確かに共通点はあるように思えてきました。


 〃∩ ∧_∧
 ⊂⌒( ・ω・)  < YOU発見!
  \_っ⌒/⌒c
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誰も見たことがない物語の確信に迫る!初心者でもわかる、哲学や量子論で考える組紐の意味  


──じゃあ、その半身って組紐のシーンとかとも関係があるんですかね。あのシーンが不思議に印象に残っているんですけど。


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Credit: showen.co.jp


H氏:  一葉婆さんが組紐の由来について話すところだね。画面も突然タッチが変わって、生物進化の映像が出てきたりして生命の歴史のようなシークエンスになる。


──あのシーンがよく分からなかったんですよね。


H氏:  覚えてるかい?あのシーンのバックでこう言うセリフが流れてたの。 

「よりあつまって形を作り、捻れて絡まって、 ときには戻って、途切れ、またつながり。
それがムスビ。 それが時間」



──そこはカットも印象的だったので覚えてます。
ここのシーンでは「組紐」がとても重要なシンボルになっていて、劇中では祠に向かう途中で、一葉がこうも説明していますよね。

「氏神様のことを『産霊(ムスビ)』」と呼び、人をつなげることも、糸をつなげることも、時間が流れることもすべてムスビで神の力であり、組紐も神の業であり時間の流れそのものを表している」

そういえば、民俗学者の折口信夫は、「産霊」とは「霊魂を結合させる」ことだとも述べていましたが関係あるんでしょうか?


H氏:  よく知ってるね。折口信夫の言う通りだと思うよ。
組紐がさっきのプラトンの『饗宴』に登場する二つに裂かれた「半身」同士の結合を表していると解釈したらどう?

これは、結納なんかの『結び』の起源でもあるし、もともと「むすび」自体、漢字で「産霊」と書くのね。古事記には最初、天之御中主(アメノミナカヌシ)、高皇産霊尊(タカミムスビノミコト)、神産霊尊(カミムスビノミコト)という三人の神さまが登場するんだけど、二人の神様の名前もまた産霊(ムスビ)でしょ。

これはね、霊を生み出す神にはもともと二種類あるという意味なの。

よりあつまって形を作り、捻れて絡まる』産霊と、『ときには戻って、途切れ』た産霊。


──……?つまりどういうことだってばよ?


H氏: つまりね、自己と他者を個体として切り離す神と、それらを一つに結んで結合させる神の二通りの神がいるということだね。


──死と再生的なイメージですかね?でも、自己と他者を結びつけるっていうのがイメージがわかないですが……


H氏:  うーん、こういうイメージを浮かべるとわかりやすいんじゃないかな。糸の両端を「自己」と「他者」と仮定してみるんだ。図にするとこういう感じかな。 

結び目画像


──手作り感満載ですが、この図がどう関係してくるんですか?


H氏:  神話学的には「ムスビ」には宇宙を創造するという意味があるんだ。つまり、自己と他者の霊的合一が宇宙を作り出した力かもしれないってこと。


──……オカルトきた!

  ( ゚д゚ ) ガタッ 
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H氏: (笑)。科学的宇宙観に慣れっこになっている僕らには突拍子もない話に聞こえるだろうけど、神話やオカルティズムではそう考えるものもある。

お互い双方向から交わって、絡まり合って、宇宙を創造していく。その時できる結び目が物質だと考えると面白いかもしれないね。

現代科学は物質から精神が産まれたと思っているんだけど、古代人たちは逆に精神から物質が産まれている、と考えていたんだ。

もともと日本語の「物(もの)」だってそうだよ。昔の日本人は「物」は「霊(たま)」だと考えていた。だから「ものさみしい」とか「ものごころ」とか「もののあはれ」なんて言い回しが残っている。

「もの」はその意味で言えば自己と他者の縁結びの場所で、それが物質の創造の秘密にもなっている。これは彼岸と此岸の出会いと言ってもいいね。


──そういえば劇中でも最初の方で、先生が「黄昏」の語源について触れていましたね。「誰そ彼」、此岸と彼岸の境目についてとか。 


H氏:  そう。冒頭の教室のシーンだよね。新海監督は初っ端から畳み掛けてるよね。
ティアマト、そして黄昏時。どちらの記号もこの作品のフレーム。

彼岸は彼方(かなた=「遠くに在るもの」)の意味だけど、昔は「あなた」ともいわれていた。そして、この此岸と彼岸がそのまま瀧と三葉の関係に重ね合わされてストーリーが動き出す。

だから、あなたは誰?君は誰?君の名は。ということになっていく。 


──でも、結び目が物質というのがよく分からないのですが……。 


H氏: 例えば、今、こうやって組紐の結び目をつくるとするよ。

結ぼうとしている時はいいけど、一度結んでしまうと結び目は小さな塊のようになって、ひもの上に小さな結びの痕跡だけが残されてしまうよね。

僕らの世界で自己と他者の間に何がある? 


──\ 物質! /


H氏: そう。そして紐の端と端を反対方向に引っ張れば、結び目はますます固く閉じてしまうよね。そうなると、それがかつて自分たちがまぐわって結び合ったものだということを忘れてしまう。

現代人は自分がどこから来てどこへ行くのか、そして物質の起源が何なのか誰も知らないよね。つまりね、この組紐が表現しているのは、本当は自己と他者の霊が結びあってできたものが物質なのかもしれないってことなんだ。でも人間はまぐわったことを忘れて、糸の両端と結び目を別々のものに見てるから、自己と他者が本当の意味で繋がれない


──なるほど、組紐はまさに「半身の切り裂き」と「世界の創造」を表しているんですね。そういえば劇中で瀧が建築科志望だったと思うんですが、創造と建築というのも何か関係があるんですかね? 


H氏:  これも新海監督の執拗な仕掛けじゃないかな(笑)。


──納得の新海クォリティですね。


H氏:  はは(笑)。組紐とそっくりな話が古代エジプトにもあってね、「プタハの結び目」っていうんだけど。この結び目も彼岸と此岸を結び合うシンボルとされているんだ。そして、この結び目を作るプタハ神っていうのが建築の神とされてる。


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Credit: moonover.jp


──おお、まさに宇宙の建築(笑)。


H氏:  これは余談になるけど、フリーメーソンが最も崇拝しているのがこのプタハ神だよ。


──まさかここでフリーメーソンまで出てくるとは(笑)。建築、創造という神様がそれくらい重要な神様ということですね。
人間のつながりと組紐の関係はわかってきた気がするんですが、時間と組紐の関係はどう考えたらいいでしょうか? 



H氏:  そこも大事なところだね。一葉婆さんはこの「結び」と「時間」を同じものとして語ってる。これはね、時間には自己と他者を切り離す時間結びつける時間という二つのタイプの時間があるってことを言ってるんだと思うよ。 


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──二つのタイプの時間……? 


H氏: 現代人の時間感覚というのは直線的だよね。だから、お婆さんのいう「捻れたり絡まったり~」する時間というのがよく理解できない。
でも、古代人たちにとっては時間もまた霊なんだよ。現代人は時間と空間の中に人間が生きていると思ってるけど、古代人たちは時間と空間として人間は生きていると思ってた。意識の在り方が全く違うわけだよ。


──時間と空間として生きる?意識の在り方? 


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H氏:
  ここからはちょっと哲学の話をしないといけない。

哲学にとっては時間が最大の謎とされるものなんだ。今の哲学は概ね時間には2つの種類があると考えてる。

一つは現代科学が「宇宙は137億年前に始まって、今に至る」っていう感じでイメージしている直線的時間

もう一つは、ベルクソンという哲学者が言った「純粋持続」という時間。
ハイデガーの言い方をするなら本来的時間という言い方をしてもいい。この純粋持続としての時間は流れない。ある意味、永遠。永遠というのは途方もない長さの時間のことを言うのではなくて、時間を超えた時間のこと。


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──時間を超えた時間……ですか? 


H氏:  うん、「時間の流れを感じ取っている側の時間」と言ってもいいかな。

たとえば音楽のイメージについて考えてごらん。音楽は絵画と違って時間の流れの中で鑑賞するものだよね。

たとえば、ビートルズのイエスタデイという曲があるとするよ。科学的に見ればこの曲のメロディーは直線的な時間上を多様なリズムを持って変化していく様々な音程の集合にすぎない。でも僕らはイエスタディという楽曲の全体を一つのイメージとして一気につかむことができるよね。だからこそ、あの曲嫌いだとか、好きだとかいう判断が下せる。


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つまり、人間の意識の中には、流れている時間を一気に把持できる意識があって、その意識自体には時間がない。その場所に人間にとってのほんとう時間があるのではないか、と考えたりするんだ。


──じゃあたとえば音楽じゃなくても、昨日のコミケは豊作で楽しかったなーみたいなイメージも持続が作ってるってことですか? 


H氏:  その通り(笑)。ベルクソン的にはそうなるね。コミケの情景を思い出している自分自身は実は現在にいるのではなく、時間の外にいるってことでもあるんだけどね。

まあ、この話は直観的な話なのでちょっと難しくなるんだけど、時間の流れを過去、現在、未来を結ぶ直線に例えてみよう。

直線の中に入ってしまうと直線は見えないでしょ。それと同じで、時間の中に入ってしまうと時間の流れなんて分かるはずがない。だから、単なる現在から過去を感じることはできないってわけ。


過去であれ、現在であれ、未来であれ、時間の流れを感じ取ることができている人間の意識はつねに時間の流れの外にいる。そこにあるのが持続感覚。そういう感じかな。 


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──時間を直線と捉えていると、過去をイメージとして捉えられないってことですか?もし人間が直線の時間の中にはいったらどうなるんです?


H氏:  直線的時間上の点だから、そこには瞬間しかないよね。
そういう点を僕らは「現在」って呼んでるわけだ。現在ってのは一瞬でしょ。次々に新しい現在がやってきては古い現在になっていく。

それを僕らは時間と呼んでるわけだけど、じゃあその過ぎ去った古い現在は何が支えていると思う?その支えがあるから僕らは時間が流れているっていう感覚を持てるわけだけど……


──もしかして……記憶ですか?


H氏: そう!それがベルクソンの主張。瞬間としての現在には前後の現在を感じ取る能力なんてものはない。

だから、記憶がなければ時間はバラバラの一瞬でしかなくなるわけ。
ベルクソンは、その記憶を支えているのが純粋持続であり、それが精神の働きであるとまでいった。


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ここでおばあちゃんが言っている組紐が表す時間っていうのは、科学が言ってる直線上の時間じゃなくて、人間の心の世界にある、純粋持続の時間のことをいっていると思えばいい。


──なるほど!時間を直線だと認識しているということは、直線じゃないところから見ているからなんですね。


H氏: そういうこと。もっと実感的な言い方をするなら、この持続というやつは自分の人生を見ているところと考えるといいんじゃないかな。ベルクソンは実際、この純粋持続のことを「霊魂」と呼んだりもするしね。


──きたきた、霊魂きた………!

  ( ゚д゚ ) ガタッ 

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H氏: ここで、一葉婆さんの「産霊(むすび)」と繋がってくるわけだ。「よりあつまって形を作り、捻れて絡まって、ときには戻って、途切れ、またつながり。それがムスビ。それが時間」というフレーズの意味が少し分かってくるだろ。」 


──深いですね。まさか『君の名は。』の考察で、こんなに哲学のお話が出るとは思いませんでした(笑)。今までお話を伺って来て、大きく「自己と他者の結合」と「純粋持続」という2つのキーワードが出てきたと思うのですが、まさかこの2つが繋がって来ちゃったりは… 


H氏:  それがね……繋がるんだよ(笑)。


──え〜!?繋がるんですか〜!?



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H氏: はは(笑)。


なぜ二人は時間も場所も超えて出会ったのか?場所だけでもよかったんじゃ……


H氏: 最近ノマドワーカーって言葉が流行ったの知ってるよね?
ノマドってのは本来は遊牧民って意味なんだけど、日本では喫茶店でPCひろげて仕事してる人って意味で広まったよね。

このノマドという言葉を流行らせたのはフランスの哲学者ジル・ドゥルーズって人なんだけど、彼はベルクソンの哲学をもっと具体的に展開すべきだと考えた。持続の精神からどうやって物質が作り出されてくるのかを哲学していったんだ。


──哲学者ってそんなこと考えてるんですか……。物質から精神が作られたのではなく、精神から物質が作られる仕組みを考えたんですね。 


H氏: その通り。ベルクソンの持続は言ってみれば精神の働きだよね。
ドゥルーズはここにライプニッツモナドの哲学を接続させるんだ。


──モナドの哲学?

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 (0゚・∀・)
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +


H氏: モナドというのは「単純実体」という意味で、ライプニッツにとっては物質を作ってる大元の存在のこと。ライプニッツは物質をどんどん分割していくと、もうこれ以上分割不可能なところまで出るだろうと考えた。そこに精神が顔を出すと考えたんだ。

 
──え、物質が「精神」なんですか? 


H氏:  いやいや、物質が精神じゃなくて、分割できるうちは物質だけど、分割できなくなったときに実体としての精神が現れるという意味だよ。そして、それをモナドと呼んだのね。


──ということは、ライプニッツにとって精神はすごーーーく、小さいものなんですか? 


H氏: ライプニッツの考え方ではそうだね。霊魂は物質の一番根底に収縮して入っているという考え方をするんだ。ドゥルーズはベルクソンの純粋持続をこのモナドに結びつけたんだね。

とすると、必然的に物質を作っているのは純粋持続=霊魂ということになるだろ。

 
──ええ、でも、それだとやっぱりオカルトっぽいですよね。


H氏: そうだね。でもね、実は現代物理学も同じような世界に入ってきてるんだよね。量子力学の話は聞いたことがあるんじゃない?
観測問題とか、シュレディンガーの猫とか、量子もつれとか。


──知ってますよ!伊達にオカルト厨二病こじらせてませんから……。
素粒子は観測していないときは確率の波のようなもので、観測したときに初めて現れるという不思議な存在だということですよね。初めて知った時は胸が熱くなりました。




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Credit: happism.cyzowoman.com


H氏:  そうだね。現代科学は物質の根底にたどり着いたわけだけど、物質のような捉え方で素粒子は理解することができないということが分かった。

物質であれば3次元認識で把握できる。でも素粒子はできないんだ。

数学的にもそうだよ。素粒子の世界は複素数でしか表せない。虚数が混じってるんだ。実数じゃない。だから現実的なものとしては表現できない

素粒子が意識と何らかの形で繋がっているというのは物理学者たちも気づいているけど、その先はまだ誰も分からない。それが持続としての精神だという見方をするのがドゥルーズだと思うといいよ。


──そこにあえて踏み込むのがドゥルーズなんですね。ロックだ……。

じゃあ、素粒子が実は自己と他者の持続の力で、それが組紐になって、結ばれたり、引き裂かれたりして、物質を作ってるってことになるってことでしょうか?


H氏: なかなかいい直感してるね(笑)。さっきの一葉婆さんのように、持続の領域で自己と他者のモナドがつながり、捻れて、組紐のようになっていると考えたの。ドゥルーズはライプニッツにならって「襞(ひだ)」っていう言い方をするけどね。でも、これは「結び」と言い換えてもいい。

そしてドゥルーズは時空に支配された世界は表の自分が住んでいる世界だけど、持続の領域には無意識の自分が住んでいると考えたんだ。 だからその仕組みを見出せば、今までの自我を超えて、無意識の自分を知ることができ、自我の檻から脱出できると考えた。そして、ここが一番大事なところなんだけど、その無意識の先にほんとうの他者がいると考えたんだ。つまり、持続の仕組みを見い出せば自己と他者の合一を果たすことができる、ということになる。


——おばあちゃんマジ哲学者……。彼岸と此岸の出会いがそこにあるということなんですね。


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 ⊂⌒( ・ω・)  < おばあちゃんやりおる
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二人はイザナギとイザナミだった?ラストシーンは日本神話「スサノオ」所縁の神社

君の名は神社
Credit: 『君の名は。』公式HPより


──それにしてもラストシーンですよ
ラストは新海作品には珍しく二人が再開しましたよね。
この最後のハッピーエンドに納得がいかない視聴者も沢山いるようですよ!
私とか私とか……。新海監督の美学が一般受けを狙ったことで損なわれた、みたいな(笑)。


H氏:  確かにこうしたタイムスリップ恋愛ものの今までのセオリーから言ったら、すれ違っても気づかないところに余韻を残して終わるんだけどね。

最近の映画じゃ「バタフライエフェクト」とか「デジャブ」とかそうだった(笑)。

僕も最初このラストにはちょっと違和感を感じたんだけど、二人が再開した場所が『須賀神社』だということを後で知って、このラストシーンに痛く合点がいったよ。


──須賀神社?あのラストで二人があった階段のとこですか?


H氏: そうそう。スサノオという神さまは知ってるよね。


──ええ、日本神話の神さまですよね。ヤマタノオロチを退治したとか言われてる。


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Credit:  shinwanosekai.info


H氏: そう。須賀神社というのはね、そのスサノオがヤマタノオロチを退治してその妻となったクシナダヒメと暮らした場所とされているところなんだ。

新海監督は意図的にこの場所をラストシーンに持ってきた。


──なるほど。ここにも深い意味づけがしてあるんですね?


H氏: と思うよ。この須賀神社はね明治以前は牛頭天王社と呼ばれていたの。牛頭天王というのはスサノオの異名でもあるんだけど、実は、これは古代ミトラ教のミトラのことでもあるんだ。つまり、スサノオはミトラ教と深い関係を持っているんだね。ミトラというのはキリスト教が栄える前に中東全域を支配していた古代宗教で、とてもグノーシス的色彩が強いものだった。仏教で弥勒菩薩と呼ばれているものもこのミトラのことなんだよね


──ということは、日本的にはスサノオが弥勒菩薩だってことですか?


H氏: そうだね。そう言えると思う。

スサノオがヤマタノオロチを退治したときに使った剣のことを天羽々斬(アメノハバキリ)っていうんだけど、古語ではこの『ハバ』は大蛇の意味だったんだ。ここからは僕の憶測でしかないんだけど、この『ハバ』がさっき話した組紐が強く緊張した状態を示しているんだよ。


──「ハバ」が組紐と関係している?組紐とヤマタノオロチが関係あるんですか?


H氏:  そう、紐を自己と他者それぞれの方向に引っ張って、直線上の『幅=ハバ』の世界として三次元空間に閉じ込めて、持続を感じさせなくしているってこと。



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もっと言うと、この『ハバ』が、ティアマトを2つに分けてしまったマルドゥクの霊力でもあるってことなんだけどね。

マルドゥクは牡牛の神と言われてるんだけど、ミトラ教では牛は物質の象徴とされていて、
牡牛を供儀することによって人間本来の姿である霊性をよみがえらせることができると考えていたんだ。
じゃあ、スサノオの異名の牛頭天王は物質意識?という疑問が出ると思うけど、これは殺した牛の頭をかぶった者という意味で物質意識を超えた者という意味を持っていると思うんだ。だから、スサノオが天羽々斬(=天の幅切り)で物質意識の象徴である八岐大蛇(=ハバ=幅)を切ることによって、霊性を奪回する物語とほぼ同じ意味と読める。 


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牡牛を屠るミトラ神。(Credit: wikipedia.jp)


つまり、『物質意識(=幅=ハバ=八岐大蛇・マルドゥク)』によって自己と他者に分けられてしまった世界を、『純粋持続』(霊魂)によって再び結合させようということをシュメール神話もプラトンも、日本神話もドゥルーズも言及しているんだよ。


──すごい、全てつながっているんですね。


H氏: うん。さらに面白いのはね、ひょっとするとイザナギとイザナミの国生みの話も重ね合わせているかもしれない。

日本神話ではイザナギとイザナミは最初の父神と母神のような存在だけど、この二人が最初に国生みをしようとするとき、イザナミの方から声をかけるんだよね。そしたらヒルコが生まれてうまくいかなかった。だから、今度はイザナギの方が声をかけたんだ。そしたら、うまくまぐわうことができて国生みができた。そういう話なんだけどね。

彗星の落ちる直前に三葉が瀧に会いに東京に行くシーンでは、やっとのことで電車に乗っている瀧を発見するけれども瀧は三葉に気付かず、出会い=「自己他者の合一」は起こらない。ラストシーンは最初に三葉が声をかけそうになるけど思い止まるよね。そして、瀧が呼び止めて「君の名は。」となり、ここでめでたく「自己他者の合一」が起こるんだ。


──いやなんか、本当に、思った以上に作り込まれていますね……。 


H氏:  うん。この作品は人類が抱えているその普遍的なテーマを見事に青春ラブロマンスものの中に消化させてみせたってことだね。当たって当然。

なかなか作れる作品じゃない。少なくとも僕の中ではここ数年で一番のアニメ作品だと思うな。


──
哲学に神話に量子論にと、思った以上に凄い話でした……。まさに一つの神話、創世記ともいえますね。貴重なお話、本当にありがとうございました。



<筆者まとめ> 

『君の名は。』の解説を聞いていながら、哲学や神話講座にもなっているという非常に濃厚なインタビューだった。

とてもオカルティックな要素が散りばめられているのに、それを怪しくさせない手腕は素晴らしい。

無論映像や
音楽などの素晴らしさは周知のことだが、ハッピーエンドで終わったことに代表されるような「新海節」を封印したから流行った、ということでもないのかもしれない。 

価値観の多様化、過多な情報、けれど生きている意味は誰も教えてくれない。
そんな現代に生きる人々が、「物質主義を超える価値を無意識にこの映画に見いだしているのでは」というH氏の考察は非常に奥深いもので、同時に『君の名は。』を何倍も楽しめるものになったと思う。


 


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『君の名は。』量子論や神話で見えてきた隠された意味とは?哲学研究者にきいてみた

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コメント

1  不思議な名無しさん :2016年10月14日 22:01 ID:iXZQgGyg0*
ムーが出てくるとか…
2  不思議な名無しさん :2016年10月14日 22:25 ID:2yqo2h8P0*
日本語でおけ
3  不思議な名無しさん :2016年10月14日 22:30 ID:EYZCG60V0*
こじつけ乙
4  不思議な名無しさん :2016年10月14日 22:37 ID:gkHH2bXO0*
さては…管理人さん前回のスレッドでの内容か、
その後に付いたコメントに触発されて、この記事を選んだな。
5  不思議な名無しさん :2016年10月14日 22:46 ID:ueGByV240*
ワイは最後出会って良かったと思ってるで
秒速みたいなのも好きだけどもなんかモヤモヤするんで
6  不思議な名無しさん :2016年10月14日 22:48 ID:R187ix6B0*
やべ、超感動した
7  不思議な名無しさん :2016年10月14日 22:51 ID:hq2tSHIs0*
こじつけもあるだろうけどまぁ半分くらいは狙ってそうだよね
8  不思議な名無しさん :2016年10月14日 23:06 ID:n4VS1K1X0*
こんなこと考えながら観てる奴なんてまずいないだろうな
9  不思議な名無しさん :2016年10月14日 23:07 ID:Ql8TjhD00*
新海「へぇ~」
10  不思議な名無しさん :2016年10月14日 23:35 ID:z1larIdo0*
不勉強にも程がある
序盤は公開からほどないタイミングでTwitterの一般人が語ってた内容だし
組紐はムスヒ系の神ではなくキクリヒメ神に連なる文化
何より無理やり自分の知っている知識を披露するために関連付けているだけであって新海監督本人はどう考えてもそんなところを意識してはいない
11  不思議な名無しさん :2016年10月14日 23:39 ID:9l0snPWa0*
※10
はいはい
君の名は。に詳しい俺かっけーですね
カッコよすぎて寒気がしたww
12  不思議な名無しさん :2016年10月14日 23:54 ID:WmvVVtsr0*
※10
監督ご本人かご関係者の方ならこういうところにコメントはしない方が良いと思いますよ
13  不思議な名無しさん :2016年10月15日 00:07 ID:6DwQSt0m0*
何かに似てると思ったらあれだ、AKBとかああいう“ブーム”

 
 
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