街頭であれインターネット上であれ、ヘイトスピーチは認めない。裁判所がその姿勢をはっきり示した意義は大きい。

 在日朝鮮人の女性(45)が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)と桜井誠・前会長に計550万円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は先月27日、在特会側に77万円の支払いを命じた。

 女性は街頭やネットの動画で「朝鮮人のババア」などと発言された。在特会側は「意見や論評の範囲内」と主張したが、判決は「差別を助長し、増幅させることを意図した」と厳しく非難した。当然の判断だ。

 とくに判決が発言を「人格権を違法に侵害するもの」とし、「人種差別撤廃条約の趣旨に反した侮辱行為」と結論付けた意味は大きい。ヘイト行為が国際的な視点でみても許されず、表現の自由から逸脱していることを明確に示したといえる。

 今年6月にはヘイトスピーチ対策法が施行された。裁判で問われた発言は法施行前だったが、「不当な差別的言動は許されない」と明記する同法の趣旨にも沿った判断といえよう。

 在特会を巡っては、京都市内の朝鮮学校周辺の街宣活動を「人種差別」とした京都地裁判決が2014年に最高裁で確定している。今回のように個人の被害を認定したのは珍しい。

 いったんヘイトスピーチの標的になれば、多くの人は自分を守るすべがない。原告の女性は不眠や吐き気にも苦しんだという。抗議すれば嫌がらせが増すこともある。声を上げたくても上げられず、そこにつけ込んで差別発言が繰り返される。

 卑劣で許しがたい言葉の暴力を排除するためには、社会全体でヘイトを許さない雰囲気を作っていくことが肝要だ。

 法務省の調査では、ヘイトデモの件数は12年4月から昨年9月までに29都道府県で計1152件が確認された。減少はしているが、沈静化したとはいえない状況という。東京や大阪、愛知など都市部に多い。

 一方で5月には在日コリアンに差別的言動を繰り返してきた団体に、川崎市が市の公園の使用を許可しない決定をした。7月にヘイトスピーチ抑止条例が全面施行された大阪市では、市民から申し出があった複数の事例の審査を始めている。

 毅然(きぜん)とした歩みを重ねることが、差別の根絶に結びつく。

 ヘイトスピーチは「社会の一部にある人種差別意識が先鋭的に表れたもの」との指摘もある。人種差別は恥ずべき行為という認識をあらたにしたい。