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出版社や広告代理店などのクライアントに過酷な労働条件で働かされている作家(漫画家・イラストレーター)のイラストです。(いらすとや)

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デザイナーが馬鹿げたタダ働きにNOと言うべきことが分かる動画 というのをタイムラインでよく見かけたのですが、「そうだそうだ!」と快哉を送る知人を見る一方、「僕ってば普通にランサーズでロゴ発注しちゃってるんだけど……」という罪悪感のようなものを覚えたので、なぜ僕がスペックワーク(成果物を見てからお金を払う)を利用するのかについて、記してみます。そういえば、ちょっと前にコンペのタダ働き問題というのもありましたね。

何にスペックワークを利用しているのか

主にロゴとイラストです。ランサーズだとイラストやロゴは「コンペ型」というタスクに分類されるので、わりと勝手に「スペックワーク」になりますね。初めて知ったときは衝撃的でしたし、使っていても概ね満足しています。5万ぐらい出すと100個ぐらいロゴが来るので、1個ぐらいはまともなロゴが来るでしょう。

ランサーズを使う上での個人的に重要な以下のポイントがあります。

  • 要望を詳細に書き出す。いわゆる要件定義をしっかり行う。
  • 発注確定後にどうせリテイク出すので、要件に則ったラフを出してもらうよう要望を出す。提案時に全力出さなくていい。イラストレーターは「ラフです」とかいってほぼ完成品を出してくるけど、あれなんで?
  • 確定時期が来ていなくても、いいと思ったらすぐ決める。ランサーズやクラウドワークスは玉石混交だが、いい人は明らかにいいので、見ればわかる。

Skillotsというサイトもあって、こちらはイラストが提案式にできるので、たとえば、いままでの実績とかを見せてもらって、その上でテイストなどをすり合わせながらやっていくこともできます。個人的にはこちらの進め方が好みです。

なぜスペックワークを使うのか

価格が書いてあるからです。どんなプロジェクトでも予算がありますが、僕が自分に持たないスキルとしてデザイナーやイラストレーターに外注を出す時、価格が書いていなくて困ることが多いです。メールアドレスだけあって、「お問い合わせください」みたいな。

デザイナーやイラストレーターは営業上「なんでもできます」と言う人もいるでしょうが、基本的には得意不得意があるわけで、発注する側はそれを抑えていないといけません。

イケそうな幾つかの候補先に対して、スケジュール、予算、テイストなどの不確定要素を抱えたまま打診することになります。

しかも、同時に打診して両方引き受けられてしまったら礼を失する事になるので、キュー・スタック方式みたいな感じで順番に問い合わせすることになるのですが、これ、すごい時間かかるんですよね。気にしない人は気にしないでしょうが。

地獄の発注確定スタック・キュー
名前 価格 スケジュール 実績 ステータス
Aさん 応相談 オーケー あり 返信待ち
Bさん 応相談 オーケー なし 返信待ち
Cさん オーケー 応相談 あり 返信待ち
Dさん あり 返信待ち

その点、ランサーズはめちゃ楽ですよ。こっちから要件を出せば勝手に集まるんですから。もしクライアントがうるさい人だったら、選んでもらえばいいですよね。気に入ったのがなかったら、「予算追加してもう100個集めてください」で終了。

じゃあお前はスペックワークをやるのか

自分の会社の仕事でランサーズに応募するかというと、一回もしたことないですね。そもそも自分からなんらかの仕事をやりますという営業をかけたことがなく、ぼやって仕事が来るのを待っているだけなので、いつまでたっても二億円の内部留保がないのだと思います、ハイ。

でも文学賞なんてある意味で全部スペックワークですし、編集者に小説読んでもらうときも完成してからが普通だったので、そんなもんじゃないのという気もしています。「普通は梗概や企画書を提出してから執筆に入る」ということを最近通っているSF創作講座ではじめて知ったので、僕は編集者に恵まれなかったんでしょうね。

デザイナーやイラストレーターは憧れる人が多い職業なので、無料で仕事を引き受けるワナビと戦わなければいけないのはある意味で仕方ないと思います。

こんな世界だったらスペックワークは使わない

1. 値段が書いてある

以前「売っていない本の中身と永遠に出てこない見積もり」というエッセーでも書きましたが、買い物客側からすると「値段がわかる」というのはすごく安心するんですよ。全部時価の寿司屋とか嫌じゃないですか。特にデザインというのはそれ単体では最終的な成果物にならないことが多く、なおかつ予算内に収めないといけないので、その一部が不確定なのは困りますね。

2. 実績がわかる

これは自分の仕事でも反省する部分が多いのですが、「なんだったらやるのか」がわからないことが多いですね。イラストレーターの「絵が上手い」とかはPixiv見ればわかるんですけど、ラノベの表紙をやったことがあるのかまではわかりませんし、デザイナーの場合は、ロゴデザインもできるのか、スマホのUIデザインができるのか、そういうことが書いてないといちいち「できる/できない」を確認しなければならないのが面倒です。

たまたま飲み会で会った人に「できます?」って聞くならいいですけど、特定の期間までになんとしても見つけなければ行けない場合、何人にも問い合わせする羽目になって辛いです。

3. 上記が詳しくなくてもすぐわかる

僕はデザイナーの知り合いは何人かいますが、実はその人達がなにを得意としているのか、よく知らなかったりします。「普段からそういう情報を集めておけよ!」というご指摘があれば、それはごもっともなのですが、文学関係ならまだしも、クライアントワークの場合はマジで自分が興味ない世界のWebサイトを作ったりすることもあるので、なかなか難しいところです。

となると、適当にググったりして探すことになるのですが、そこでちゃんと見つかるようにしておいてほしいですね。SEO対策しろというわけではないですが、twitterのbioにメアド書いているだけの人だと、なかなか見つけられないです。

 

いまのところ、上記をすべて兼ね備えているのがランサーズやクラウドワークスなどのソーシャル・アウトソーシングなわけです。ランサーズなんかロゴの発注ポイントまで詳細に書いてくれていますし、そりゃ使われます。バカにもされないですしね。たまにいますよね、素人のクライアントをバカにする人。

ランサーズのロゴ発注画面。ド素人でも使えるし、バカにもされない。
ランサーズのロゴ発注画面。ド素人でも使えるし、バカにもされない。

スペックワークやってない人

過去を振り返ってみて、スペックワークをやってない人ってどんな人だろうと考えてみたのですが、アッパーな会社さんですね。表参道とか青山のごちゃごちゃした路地にオフィスを構えるデザインハウス。

こういう人たちはクライアントの信頼も厚いですし、Web制作という観点からすると「あれっ?」と思うことも多々あるのですが、PSDやAIファイルを納品することで「Webデザイン完了!」と言い張れるということは、それなりの実績があるからこそ。

大きな会社の場合は会社の決まりで「コンペじゃないと駄目」だったりするのですが、そういうアッパーなデザインハウスはヒントも貰えるでしょうし、予算感も事前に提示してもらっていることでしょう。もっとズブズブの場合は見積もりを出し直させて貰えたりしますね。そう、NIPPONの美しき伝統、談合ですね。

まとめ

というわけで、スペックワークを頼まれてもいないのに擁護してみました。個人的には「スペックワークはデザイナーの価値を貶めるから反対!」という意見はあまり応援できません。「いらすとや」のせいで仕事が減ったイラストレーターや、AIで仕事がなくなるプログラマー、TPPで打撃を受ける米農家も同様です。志ある米農家はTPPを前にしてブランド米による付加価値の向上を図ったりしてるわけで、それはもう時代の趨勢でしょう。お互いがんばって生き残りましょう。終わり。

 

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