70万店舗の STORES.jp 運営がスタートトゥデイからMBOで独立、会長就任の光本氏曰く「決済にはロマンがある」

Takeshi Hirano by Takeshi Hirano on 2016.10.3

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ブラケット創業者の光本勇介氏。取締役会長に就任。

インスタントにコマースを開設できる「STORES.jp」を運営するブラケットは10月3日、親会社であるスタートトゥデイが保有する全株式を経営陣が買い取るマネジメント・バイアウト(MBO)を実施し、完了したことを公表した。買取に関する価格や諸条件は開示されていない。またこれに伴い、ブラケット代表取締役は光本勇介氏から同社取締役の塚原文奈氏に交代する。

塚原氏はインテリジェンスやサイバーエージェントなどで活躍した後、2012年にブラケットに参画。2013年からは取締役COOとしてSTORES.jpの成長に寄与した。今後、光本氏は主に新規事業の立ち上げ、塚原氏がSTORES.jpの運営を中心に役割分担が進むことになる。

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ブラケットがスタートトゥデイの100%子会社化を発表したのが2013年7月。2012年9月にサービス開始してから1年に満たないタイミングでの買収は当時、大きな話題になった。

それから3年のグループ活動を通じてSTORES.jpは順調に数字を伸ばし、現在約70万店舗のコマースを支えるプラットフォームに拡大している。また、流通額、売上も非公開ながら同様の伸びを示しており、公開された利益のグラフは黒字に転換している。

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ブラケットとスタートトゥデイに何があったのか?光本氏にインタビューしてきたので、彼のコメントと共に今後のSTORES.jp、光本勇介という起業家の先を読んでみたいと思う。(太字の質問は全て筆者、回答は光本氏)

いつもながら突然ですね。まずは経緯から。グループを卒業しようと考えたきっかけは?

実は自分でも凄いびっくりしてます(笑。結局、振り返ってみるとあれやこれやとグループ内でやらせてもらった施策よりもオーガニックに育てた方が伸びたんですよね。それでちょうどグループ入りから3年という時点で、率直に前澤さん(スタートトゥデイ創業者、代表取締役の前澤友作氏)やグループの方とお話をすることになって。

じゃあ買い戻しして独立した方がいいんじゃないか、と。

3年間でかなり(数字的に)ジャンプできているっていうことも実感していて、ビジネス的にもこれまで意識的に赤字を出してきたっていうのもありますが、利益もしっかり出ていますし、このくらいの規模のプラットホームになって初めてチャレンジできるっていう考えがあったんです。それでこのような(MBOという)形をとるのが一番いいんじゃないかという話になりました。

なるほど。話はわかるんですが、ちょっと都合良いようにも(笑。買収の際はあっさりと決まったという話を聞きましたが、今回の話し合いはスムーズにいきましたか?

今回はやはり色々な手続きがあって2カ月ほどかかりましたが、決定までは早かったです。

光本さん個人100%の会社に戻った、と。しかし、業績も大分伸びていて、通常であればそれなりに買い戻しする際に必要な資金も必要だったのではないでしょうか?

結果的に僕が個人で100%買い戻すことになりました。詳細については開示できませんが、すごくいい関係をもたせていただいたからこそ、すごく良い条件で送り出していただけたという風に思っています。

ーーさて、この件は彼らには守秘義務があり直接は聞けないので、開示されている情報から参考になる情報をまとめておこう。

2013年7月16日時点のスタートトゥデイ株価は終値で2,080円(同社は2016年7月に1株を3株にする株式分割を実施)。当時開示された情報によると、ブラケット株1株に対してスタートトゥデイ株350株を交換するという条件だったので、終値を参考に換算すると約6.5億円ほどの評価額になる。但し、具体的な株価を定めた情報は開示されておらず、この評価額はあくまで予想となる。また、買収時に開示されているブラケットの売上は平成24年9月期で1億1800万円となっている。なお、MBOに関連した情報はスタートトゥデイからも開示されることが予想されるので付記しておく。

話を戻そう。

ところでブラケットは現在何人ぐらいの体制で事業を運営してるのでしょうか。

現在30人ぐらいですね。実はこの3年間、事業を運営して結構な資金を投入したりもしたんです。ただ、これはおそらく理解していただけると思いますが、この(流通額や売上)数値って人員を増やしたからといって、明日いきなり一気に伸びるようなものではないんです。なので、現在はそれなりに適切なチームでやってるという、そういう感じです。

代表を交代して会長職になりました。通常、光本さんと同時期の起業家の方々は例えば個人投資家になったり、事業からは離れる傾向にあるようです。それと同様に今後は後進の育成にあたるのですか?

いえ、代表を交代したのは、主力事業であるSTORESの骨格がもうしっかりしていて、やるべきことをやれば良い状況になっているのでその部分は塚原に任せ、私はブラケットとしての新しいビジネスに集中することを選んだ、というのが理由ですね。

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新たにブラケット代表取締役に就任したブ塚原文奈さん(右)

質問を変えましょう。ここ数年のインターネット業界で、MBOの話題といえばVOYAGE GROUPさんが記憶に新しいです。彼らはサイバーエージェントグループから独立してその後、上場を果たされました。今後の経営方針はどのように考えてますか?

会社としては例えばDMM.comさんやピクシブさんのように、100%プライベートのままやっていくという選択肢もありますし、これは全然、今は全く考えてはいませんが、再度M&Aされるという可能性もあるわけです。同様に上場も含め、色んなカードが使えるという状況だと考えてます。独立性があるのでエッジの効いたようなことにもチャレンジできるようになりましたしね。

なるほど、あと懸念点としては完全にプライベートとなることで、ある種、スタートアップにつきまとう緊張感、これはいい意味での外部株主からのプレッシャーのことですが、それがなくなって「ゆるく」なっちゃう可能性もあります。外部を積極的に入れるという考え方は?

利益がなくなってしまえば事業が継続できなくなるわけで、そういう意味でのプレッシャーはありますよ。あと、この3年間は株主がいたわけじゃないですか。私にとっては起業して以来、初めての株主てあり、表現はすごく難しいですけれども、制約が発生するような部分も理解したつもりなので、その辺りも含めて今後を考えたいと思います。

では、今後の新しい事業についてお尋ねしましょう。何から手をつけますか?

3年前のグループ入りする前の状態でもいくつもアイデアはあったんですが、やっぱりそれなりにプラットフォームが大きくならないと全部中途半端になってしまう。でも、今であればこの辺を展開しても一個一個はちゃんと成立していけるっていう気になったのでこれからが面白いんじゃないでしょうか。

具体的には?

物流も広告も金融も決済もいろんな可能性があるわけです。

ライバルだったBASEはPAY.JPを開始し、フリマアプリ界隈でも決済方面の話題がちらほら出てきています。木村新司さんはAnyPayという直球を投げ込んで再登板してますし、決済・個人間送金のビジネスは多くのEC系事業者が注目している分野となりました。光本さん、注目してないわけないですよね。

やっぱり決済ってめっちゃくちゃロマンがあるじゃないですか。もちろん、いきなりそこで戦うっていう方法もあるんでしょうけれども、あくまで周辺でのビジネスも考えられるのでアプローチは変わってくると思います。

例えばちょうど1か月前ほどにスピードキャッシュっていう機能をリリースしたんですけれども、これは今まで末締め翌月末払いだった支払い期間を短縮して、すぐに振り込んでもらえるっていう、いわゆる「立て替え」なんですが、プラットフォームが大きくなったのでこれ単体でもしっかりとしたビジネスになっているんですよね。

なるほど。ではその辺りは近日のリリースを待つとして、最後にグループ入りして経験したこと、また、成長した後にMBOという手法を取ったことについてコメントをいただけますか?

この3年間彼らと一緒に仕事をしたっていうことはすごく大きな経験になりました。だって彼はたった一代であれだけ大きなビジネスを作ったわけです。そういった方々と近いところで勉強させてもらうと同時に、あれだけのビジネスを間近で見るとやっぱり自分でもやってみたいっていう風に思うわけです。

何が大切かって時間じゃないですか。もうやるなら今しかないって。

今回のアクションってあんまり見ない方法だと思うんです。でも確かに言われる通り結果的には私たちはすごく大きくなりましたし、新しいタイプのインキュベーションとも言えるかもしれません。なので同じ起業仲間に対しても「面白い変化球たね」ってそういう感じで見てもらえたら嬉しいなと思ってます。

ありがとうございました。最後になりましたが光本さん、スタートアップの現場におかえりなさい。また情報おまちしております。

Takeshi Hirano

Takeshi Hirano

ブロガー。TechCrunch Japan、CNET JAPANなどでテクノロジー系スタートアップの取材を続け、2010年にスタートアップ・デイティング(現THE BRIDGE)を共同創業。1977年生。(株)THE BRIDGE代表取締役

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